実家を相続した人から、売却するか賃貸するか迷っているが、参考とするために建物点検(住宅診断)をしてほしいと相談されることがあります。高齢化社会と言われますが、これからは多くの相続が発生するわけであり、ますます相続物件の建物点検、つまり、住宅診断(ホームインスペクション)の依頼が増えるでしょう。
そこで、実家を相続したときに相続人が、売却や賃貸などの対応を考える際にやっておくべきことをお話しします。
実家を相続したらまずは現状把握
相続した住宅は、相続人の誰かがそこで暮らすこともありますが、誰も居住しない場合や遺産相続の話し合いの結果、賃貸や売却を検討することは多いです。賃貸や売却するのはよいのですが、深く考えずに売却しようと決めつけず、判断材料を集める努力をお奨めします。まずは、このことからお話しします。
売却したとしたらいくらで売れるか査定する
売却するにしても賃貸するにしても、売却したとしたらいくらで売れるのかを把握しておいた方がよいです。つまり、不動産業者に査定を依頼するのです。まだ、売ると決めたわけではなくとも、売るかどうか判断するために査定を依頼するのは何も悪いことではありません。
不動産業者には、査定依頼に際しては、「実家を売ると決めたわけではないですが、売るかどうか検討するためにいくらくらいで売れるのか査定してほしい」と正直に話しておくとよいでしょう。不動産業者も商売ですから、全く売る気がないにもかかわらず査定だけ依頼しても嫌がられますが、実際に売却も視野に入れているのですから問題はありません。
このときの注意点は、中古住宅の媒介(仲介)を業務として行っており、その業務の実績が継続的に数多くある業者を選ぶことです。その地域における相場観、売りやすい物件かどうか、どれくらいの期間で売れそうなのか、担当者の生の意見も聞くことができるでしょう。
そして、もう1つの注意点は不動産業者による査定を依頼するのであって、不動産鑑定士に鑑定を依頼するのではありません。相続の協議に際して不動産評価をするときには、不動産鑑定士による鑑定が役立ちますが、実際にいくらで売れるのか?という点については、その地域で仲介の実績の多い不動産業者の方が信用できることが多いです。
ただし、1社だけに査定を依頼しては相場とのずれが大きくなるリスクもあるので、3社程度に依頼することをお奨めします。
賃貸したとしたらいくらで貸せるか査定する
実家を相続したとき、相続税の支払いや遺産分割のために売却せざるをえないということもあるかもしれませんが、そうでもなければ賃貸する場合のことも考慮するとよいでしょう。立地・建物の状態・その他の条件などによっては、長く収入を得られることになり、相続人の生活や将来の助けになることもあるからです。
また、将来には実家に戻る可能性があるのであれば、賃貸はぜひ考えたい選択肢です。いずれにしても売却か賃貸か比較検討するため、地元の不動産業者に家賃査定を依頼するとよいでしょう。
家賃査定を依頼するとき、売却査定を依頼した不動産業者とは別の業者に相談した方がよいでしょう。その理由は、不動産業者や担当者によっては、査定依頼を受けた不動産をどうしたいか業者の立場で考えて都合の良い方へ誘導しようとすることもあるからです。売却に強みのある業者なら売却を推すでしょうし、賃貸が得意な業者なら賃貸を推すでしょう。
地元で賃貸物件の仲介や管理を得意とする業者に家賃査定を依頼してみましょう。もちろん、こちらも3社ほどの話を聞いた方が確実です。とくに、今時点の家賃だけではなく、5年後・10年後の市場予測のこともある程度は聞いておいた方がよいでしょう。
なお、実家が一戸建てであっても賃貸はできますから、一戸建てだからといって賃貸の選択肢を外す必要はありません。
固定資産税等のランニングコストを把握する
不動産にはランニングコストがかかるので、それを把握しておく必要があります。代表的なものが税金で、固定資産税・都市計画税です。これらは、毎年かかる税金ですが、年間で数十万円になっていることはよくあることです(田舎ではそう高くないですが、資産価値に対して高く感じることは多いでしょう)。
賃貸を検討するときには、収益計算のために固定資産税等のランニングコストの把握は必須です。税金以外にも、維持・メンテナンスにかかる費用もチェックしなければなりません。分譲マンションならば、管理組合に確認すれば管理費や修繕積立金を簡単に確認することができますが、どのマンションも値上げ傾向にありますから、今時点の金額だけで判断しないようにしましょう。
一戸建ては、分譲マンションのように徴収される管理費や修繕積立金はありませんが、修繕費用は自分たちで用意しなければなりません。積み立てていないことが多いですから、費用が生じた際にまとめて用意する必要があります。
将来、活用する可能性の有無を検討する
賃貸するかどうか考える1つの理由に、将来、その実家を自分たちで使う可能性があります。仕事を引退してから実家へ戻るという考えもありますね。先のことも考えて、期間を限定して賃貸するという選択肢もあるので、検討してはいかがでしょうか。
但し、かなり先のことであるならば、そのときになってから居住する先を新たに探した方が、資金的にロスが少ないことも多いです。また、実家が広すぎて、自分たちの子供が出て行った後に暮らすには持て余すこともあるでしょうから、よく考えて判断しましょう。
建物の点検(ホームインスペクション)でリスクを知る
売却するにしても賃貸するにしても、まずは建物の状態をできる限り把握しておくため、第三者の専門家に建物点検(住宅診断・ホームインスペクションなどという)を依頼する人が増えています。これは、売却や賃貸に潜むリスク対応を考えてのことですが、実際にどのようなリスクがあるのか見ておきましょう。
不具合だらけの物件を売却するリスク
まずは売却に潜むリスクのことから説明します。実家に限らず、自分で住んでいる自宅を売却する場合でも同じことですが、売却した物件に瑕疵がある場合、買主から瑕疵担保責任を求められることがあります。
たとえば、雨漏りしているので補修してほしいとか、構造的な瑕疵があるので補修してほしい、シロアリ被害があるので駆除と補修をしてほしいといった具合です。
これらの瑕疵を売主が知らなかった場合でも、買主に対して補修しなければならないとする取引条件とすることは多いので、売却後の瑕疵担保請求に困らないように事前に建物の状態を把握する必要があります。
不具合だらけの物件を賃貸するリスク
次に賃貸する場合のリスクです。賃貸した後、建物の様々な不具合に関して借主(賃借人)からクレームがくることになりますが、瑕疵の内容とそれによる被害よっては損害賠償を求められることがあります。賃貸くらいなら大丈夫だろうと軽く考えず、貸す前にはできる範囲で建物ことを把握しておく責務があると言えます。
実家の売却・賃貸が難しいときの対策
相続人の意向はともかく、必ずしも希望通りに売却や賃貸を進められるとは限りません。相続した住宅があまりに古い場合や重大な不具合・瑕疵が多い住宅ならば、不動産業者に買い取ってもらうことや建物を解体して駐車場にすることも考えましょう。
不動産業者に買い取ってもらう場合、基本的には市場価格(消費者同士の売買の相場)に比べると安くなりがちです。しかし、売却しやすさを考えれば物件次第では選択肢に入ってくるでしょう。
更地にして貸し駐車場(月決め時間貸しコインパーキング)にする場合にも、やはり市場調査が必要です。更地にするための解体撤去費用は意外と高いですし、更地にすると基本的には固定資産税が高くなるのでどうするべきか慎重に検討しなければなりませんが、建物の維持・メンテナンス費用も馬鹿にならないのでよく比較検討してください。
こういった税金問題についても詳しく、売却も賃貸管理も主要業務として取り組んでいる不動産業者と出会うことができればよいのですが、これが一番難しいかもしれません。まずは、建物の現状を点検して把握するところから始めてみましょう。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。