第三者の専門家(ホームインスペクター)によるホームインスペクション(住宅診断)が、日本でも広く普及して、住宅売買の際に数多く利用されるようになりました。しかし、多く人にとってこれを利用する機会は多くないため、何をしてくれるものなのか、何に役立つものなのかイメージしづらいという声もあります。
そこで、ホームインスペクションの草分け的な存在であるアネストのサービスを基に、調査内容などについて解説します。まずは、新築一戸建て住宅について紹介した後に、中古一戸建て住宅についても紹介します。
新築一戸建て(完成物件)のホームインスペクション
新築一戸建て住宅でも建物が完成した状態と建築中のものでは、調査内容は相違します。確認できる項目が異なるわけですが、まずは完成物件から説明しましょう。
契約前と契約後の違い
新築の完成物件でも、ホームインスペクションを利用するタイミングとしては契約前の場合と契約後の場合があります。契約前なら、建売住宅の購入判断に活用するために利用できますし、契約後なら引渡し前にインスペクションをすることで施工不具合を指摘して補修対応を求めることができます。
どちらのタイミングであっても大事な意義あるものです。但し、タイミングに関わらず、建物が完成状態であるならば、調査内容(範囲・項目)は同じです。同じ調査をするのですが、目的が相違するだけです。
ホームインスペクションの調査内容
次に完成物件のホームインスペクション(住宅診断)の調査内容について紹介します。
建物外部の調査対象
建物外部においては、基礎・外壁・軒裏・屋根・バルコニーのほか、土間コンクリートや塀などの外構部分も調査対象となります。しかし、診断実施時点で完成していない外構があれば、それは対象外となります。確認しようがないですね。
また、インスペクション業者によっては外構を調査対象外としていることもあるので注意しましょう。依頼前に確認しておくとよいですが、アネストでは外構も対象としています。
注意点としては、屋根は上へ上って調査するわけではないですし、診断時点では足場もないですから、その形状によってはほとんど確認できないこともあります。
建物外部で最も多い指摘事例は、外壁サイディングの継ぎ目やサッシ・配管等の貫通部周りのひび割れ・隙間です。これらは、将来的に雨漏りを起こしてしまう可能性が考えられる大事な箇所です。
建物内部の調査対象
建物内部では、LDK、寝室などの居室、廊下、玄関、トイレ、浴室などの全てのスペースが調査対象です。それぞれのスペースにおいて、床・壁・天井・建具・設備などを確認していきます。床や壁については機材を用いて傾斜確認をしますし、建具や設備は動作チェックを行います。
建物内部では、建具の動作状況や水回り設備で指摘が上がることが多いです。
床下
床下では、基礎・床組み(土台・大引きなど)・配管・断熱材などが調査対象です。床下点検口(床下収納が点検口を兼ねていることが多い)から潜って、ホームインスペクターが安全に移動できる範囲で調査します。
床下を匍匐前進して移動していくのですが、基礎の配置や配管の位置などの条件によって、確認できる範囲は異なります。一部の住宅では床下点検口がないなどの理由で床下の確認を満足にできないケースもありますが、それは物件に起因するものですから、ホームインスペクションとしてはやむを得ないものです。
床下では、配管の逆勾配や断熱材の設置不良、基礎のひび割れなどが指摘に上がることが多いです。
小屋裏(屋根裏)
小屋裏(屋根裏)では、小屋組み(梁・母屋など)・野地板・断熱材などが調査対象です。屋根裏点検口から屋根裏へ上って、ホームインスペクターが安全に移動できる範囲で調査します。
木造軸組工法なら、梁の上を慎重に進んでいくのですが、屋根裏内部の状況によっては奥まで進入できないケースもあります。また、屋根の形状によっては屋根裏に人が進入できるだけのスペースがないことも少なくありません。
屋根裏では、断熱材の設置不良や構造金物の緩み(締め忘れ)などが指摘にあがることが多いです。
新築一戸建て(着工前・建築中)のホームインスペクション
これから建築する住宅や建築途中の物件について検査項目などを紹介します。着工から完成まで何回も検査することが可能ですが、依頼者の希望によっては特定の工程に絞ってスポットで検査対応することも可能です。
完成後では確認できないことを検査できる
建築途中にホームインスペクションできるのは、完成物件にはない大きなメリットです。完成後では隠れてしまって確認できる範囲まで検査できるので、このメリットはできれば活用したいものです。
たとえば、基礎コンクリートを打設する前なら、基礎の配筋工事の施工不良がないか詳細に確認することができますが、工事が進んでしまうとこのチャンスを失います。その時しか確認できないうえに、建物を支える重要な部分ですから、可能ならば見ておきたいところです。
他にも、壁の断熱材を施工する前は構造金物を確認するチャンスですし、室内壁のボードを施工する前は壁内の断熱材を確認するチャンス、外壁材を施工する前は防水シートを確認するチャンスです。いずれも大事な工程ですから、ぜひ検査しておきたいものです。
お奨めの検査項目
アネストでは、多くの住宅の建築中にホームインスペクションをしてきましたが、その経験から確実に見ておくべき工程を紹介します。
- 基礎配筋
- 構造金物
- 防水(主に外壁内)
- 断熱(主に外壁内)
- 完成時
以上がその工程ですが、以下でもう少し詳細を説明します。
基礎配筋
基礎配筋工事の検査は、底版と立上りの2回のタイミングがあります。いずれも大事な工程ですから、できれば2回検査しておきたいものです。但し、一部の住宅では1回の検査で配筋工事をほぼ全て確認できることもあるので、ホームインスペクターと相談して決めるとよいでしょう。
基礎のコンクリートを打設すると見えなくなりますから、その打設前に実施する必要があります。早めにホームインスペクターに依頼しておきましょう。
もっと詳しく基礎配筋検査について知りたい方は、基礎配筋検査の立会いのチェックポイントで詳細を参照することができます。
構造金物
建物の骨組みを留める大事な構造金物の検査はお勧めです。実は、上で紹介した基礎配筋検査と構造金物の検査は、建設会社が委託している検査機関でも確認することが多いのですが、その検査はごく短時間で一部のみを確認する検査ですので、確認できていない範囲が広いです。
耐震性に直接的に影響する大事な点ですから、購入者側でも検査依頼しておくべき大事な工程です。
上棟してから柱や梁、筋交いなどの金物を取り付けた後が検査の適切なタイミングです。
もっと詳しく構造金物の検査を知りたい方は、構造躯体(構造金物・柱・梁・筋交い)の立会い検査のチェックポイントで検査項目の詳細を参照することができます。
防水(主に外壁内)
防水工事は、雨漏りを防ぐために大事な工程です。「主に外壁内」と書いていますが、可能なら屋根やバルコニーの防水工事の状況も検査したいものです。一度の検査でこれらを確認できない工事スケジュールであれば、追加検査を検討してもよいでしょう。
雨漏りは売主や建築会社の保証対象ですが、適切に、スムーズに保証を履行してくれるとは限らず、トラブル発生後の交渉の手間と時間を大きなストレスに感じることもあります。そういう意味でも、建築途中で確認しておきたいポイントです。
断熱(主に外壁内)
断熱工事は、住宅の断熱性能を左右する大事な工程です。そして、防水工事と同じく、検査で指摘がよく上がる工程でもあります。
できれば、外壁内の断熱材を広範囲に確認できるタイミングで検査依頼することを心掛けてください。室内側のボードが施工してしまうと確認できなくなりますから、検査のタイミングには注意が必要です。
完成時
建物が完成してから引渡しを受ける前に行う検査も大事です。基本的には、このタイミングが引渡し前に施工不具合を指摘する最後のタイミングです。
ここで指摘したことの補修後の確認も、引渡し前にしておくようにしてください。それが本来の取引の進め方ですが、一部の業者は補修する前に強引に引き渡そうとすることがあるので要注意です。
他の住宅検査も検討する価値がある
ちなみに、建築中にホームインスペクションを実施できる機会があるなら、上に挙げたお奨めの項目以外にも、以下のような項目の検査についても検討するとよいでしょう。完成物件を買う方には得られない機会です。
- 基礎コンクリート打設時
- コンクリートの仕上り(型枠解体後)
- 壁下地材
- 足場の解体前
中古一戸建てのホームインスペクション
中古一戸建て住宅のホームインスペクション(住宅診断)について、調査内容などを説明します。
契約前と契約後(または引渡し後)の違い
中古住宅でホームインスペクションを利用するタイミングとしては、契約前の場合と契約後(または引渡し後)の場合があります。契約前なら、中古住宅の購入判断に活用するために利用できますし、契約後(または引渡し後)なら建物の補修・メンテナンスの参考にすることができます。
また、見つかった事象等によっては、売主へ契約不適合責任として補修や損害賠償の要求に利用できることもあります(契約の相手や内容による)。
契約の前か後か、または引渡し後かといったタイミングに関わらず、建物が完成状態であるならば、調査内容(範囲・項目)は同じです。同じ調査をするのですが、目的が相違するだけです。
ホームインスペクションの調査内容
中古住宅におけるホームインスペクション(住宅診断)の調査内容について紹介します。確認できる範囲は、新築一戸建て(完成物件)と基本的には同じです。
建物外部の調査対象
建物外部においては、基礎・外壁・軒裏・屋根・バルコニー・外構(土間コンクリートや塀など)が調査対象です。ただし、インスペクション業者によっては外構を調査対象外としていることも多いので注意しましょう。
アネストでは外構も原則、調査対象としています。外構に見られる症状から、建物の不具合などを推測できることもあるため、外構の確認は意外と大事なのです。
注意点としては、屋根の上へ上って調査するわけではなく、診断時点では足場もないですから、その形状によってはほとんど確認できないことがあるということです。
建物外部で多い指摘事例は、外壁サイディングの継ぎ目やサッシ・配管等の貫通部周りのひび割れ・隙間、バルコニーの笠木や外壁との取り合い部の劣化、基礎のひび割れです。
建物内部の調査対象
建物内部では、LDK、寝室などの居室、廊下、玄関、トイレ、浴室などの全てのスペースが調査対象です。それぞれのスペースにおいて、床・壁・天井・建具・設備などを確認していきます。床や壁については機材を用いて傾斜確認をしますし、建具や設備は動作チェックを行います。
建物内部では、建具の動作状況や水回り設備のほか、室内壁や天井の著しいひび割れ、床の傾きが指摘として上がることが多いです。
床下
床下では、基礎・床組み(土台・大引きなど)・配管・断熱材などが調査対象です。床下点検口(床下収納が点検口を兼ねていることが多い)から潜って、ホームインスペクターが安全に移動できる範囲で調査します。
床下を匍匐前進して移動していくのですが、基礎の配置や配管の位置などの条件によって、確認できる範囲は異なります(新築に比べて中古住宅の方が床下の障害物で確認範囲が限定されることが多いです)。一部の住宅では床下点検口がないなどの理由で床下の確認を満足にできないケースもあります。
床下では、基礎のひび割れ、カビ、蟻道・蟻害、断熱材の著しい劣化などが指摘に上がることが多いです。
小屋裏(屋根裏)
小屋裏(屋根裏)では、小屋組み(梁・母屋など)・野地板・断熱材などが調査対象です。屋根裏点検口から屋根裏へ上って、ホームインスペクターが安全に移動できる範囲で調査します。
木造軸組工法なら、梁の上を慎重に進んでいくのですが、屋根裏内部の状況によっては奥まで進入できないケースもあります。また、屋根の形状によっては屋根裏に人が進入できるだけのスペースがないことも少なくありません。
屋根裏では、雨漏りの疑われる染み、構造金物の緩み、断熱材の著しい劣化などが指摘にあがることが多いです。
一級建築士に依頼しよう
ここまで、新築の完成物件、建築途中、中古物件に分けて調査範囲やよくあがる指摘事項について解説してきましたが、個々の住宅によって特性がありますので、それぞれの住宅について丁寧に時間をかけて診断しないことには、施工不具合や著しい劣化の有無はわかりません。
そのためには、やはりホームインスペクション(住宅診断)を行う人や会社の能力や経験値が大切です。会社として、きちんとノウハウを持っていること(経験と知識の両方に裏付けられたマニュアルがあること)、専門家同士がサポートできる体制であること、そして、個人の資格としては最低でも建築士であることです(できれば、一級建築士が安心)。
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執筆者
- 2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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