ホームインスペクションは無駄か?

どのような買い物をするときでも、支払う料金を無駄にはしたくないものですね。同じように、ホームインスペクション(住宅診断)の料金も無駄にしたくない気持ちは誰にでもあるものです。

「ホームインスペクションが必要ないならば、費用を無駄にしないためにも依頼しないでおきたいけど、建物に大きな施工不具合や想定外の著しい劣化があれば、購入する前または引き渡しを受ける前に知っておきたい。どうするべきか悩む」

こういった相談は少なくありません。

20年以上もの間、多くの新築住宅および中古住宅に対して、ホームインスペクションをしてきた実績・経験から言えば、ホームインスペクションが無駄ということはありません。むしろ、やっておいてよかったと感じることは本当に多いですし、利用したお客様からも「頼んでよかった」の声は本当に多いです。

今回は、不動産業者には第三者の専門家によるホームインスペクションに否定的な意見をもつ人がいるという現実と、ホームインスペクションが無駄ではない、むしろ必要だと言う理由について事例を挙げて解説します。

この記事は、新築の注文住宅や建売住宅、中古住宅の全てが対象です。主に一戸建て住宅の購入等に際して、欠陥住宅を掴みたくない、建築のトラブルを避けたいという人に向けて書いています。

ホームインスペクションは無駄、必要ないという不動産業者がいる

住宅購入者が不動産業者に対して、ホームインスペクション(住宅診断)の利用意思を伝えて受け入れ要請をしたときに、「ホームインスペクションをする必要はない、費用が無駄になるだけだ」と言う営業マンがいます。

アネストでは、2003年2月より20年以上にわたり、非常に多くの住宅(新築も中古も)に対してインスペクションを実行してきましたが、不動産業者から無駄だから必要ない、お金がもったいないなどと言われたという人の話を何度も何度も聞いてきましたので、そういう考えの業者や営業マンは少なくないでしょう。

無駄だと言う不動産業者には、ホームインスペクションに関する知識や立会い経験がないことから、思い込みで住宅購入者に説明しているケースと、インスペクションを実施した調査結果次第では、買ってもらえないのではないかという心配から説明しているケースがあります。

ホームインスペクションへの知識・経験の不足

ホームインスペクションは、2010年頃以降は、多くの人が利用するようになっており、最近では本当に多くの人が利用し、主に住宅購入者や売却者、リフォーム検討者の間で普及してきました。これだけ普及しているにも関わらず、インスペクションの知識・経験が不足することに少し驚くこともありますが、実際にそういう業者は少なくありません。

知識・経験が不足する主な理由は、買主や売主などが利用したときに、インスペクションの調査開始から完了まで立ち会って、調査する様子を見ていない人が多いからです。

立ち会って見ていれば、多くの住宅において、様々な施工不具合や著しい劣化が見つかっていることを目の当たりにしますから、必ずホームインスペクションの必要性や有効性が理解できるはずです。そうなれば、利用したいという人に対して、無駄だとか、必要ないものだと言うこともないでしょう。

一級建築士

インスペクションには建物規模等の条件によりますが、数時間もかかるため、不動産会社もずっと立ち会えないことは多いです。

調査結果次第で購入中止となることを恐れている

不動産業者が、ホームインスペクションが無駄だというもう1つの大きな理由は、その調査の結果、大きな欠陥などが見つかってしまうと、その住宅を買ってもらえないのではないかと考えることがあるからです。

売らないことには、売り上げも利益も出ないですし、営業マンの歩合給も入ってきません(不動産業界の営業マンの多くの給与は歩合制です)。そういう環境下では、「売るために必要な説明」という考えで、間違った説明を積極的にする人も少なくありません。

実は、買主にとっては、無駄どころか必要なこと、やるべきことだと考えているにも関わらず、目の前のお客様には、無駄だからやめおく方がよいなどと言っている人もいるのが現実です。

実際に、不動産の営業マンをしている人が、自分のマイホームを購入するときに、ホームインスペクションを依頼する人は多いです。実は、業界人でも建物に対する不安があり、売買に際して必要なものだとわかっているのですね。また、ハウスメーカーや工務店の営業マンが依頼することもあります。

一級建築士

不動産の営業マンの多くは建築知識に関して詳しくないため、いざという時にはプロを頼る人もたくさんいるわけです。それなら、お客様(買主)が頼るときに後押ししてあげてほしいですね。

アネストの住宅インスぺクション
施工不具合や劣化状態を専門家が診断するサービス

ホームインスペクションが無駄ではないと示す5つの指摘事例

ホームインスペクションを実施した結果、つまり調査で見つかった指摘事例を見れば、無駄ではないことがわかりやすいでしょう。アネストでは、毎日のようにどこかで診断している現場があり、毎日、多くの調査報告書があがってくるので、結果的に、毎日いろいろな指摘事例を見ています。

そのなかから、新築の購入前のホームインスペクションや完成後・引渡し前の内覧会立会い・同行、中古のホームインスペクションの結果から、5つの事例を紹介しますので、参考にご覧ください。

床・壁の著しい傾き

最初に紹介するのは、床や壁の著しい傾きです。以下の写真をご覧ください。

床と壁の傾きの測定

この写真は、床と壁の傾斜を測定している様子です。傾きの大きさは、残念ながら写真だけでは伝わりませんが、このように傾斜を測定する機材を用いて計測したところ、6/1000以上の傾斜が見つかりました。

傾きは、6/1000以上のものは、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高いとされています(本来は個別の状況により判断すべきですが、基準ではこうなっています)。

こういった傾きがあったときは、他の症状との関連性も考慮しつつ、補修対応を検討しなければなりませんし、他の症状次第では購入を中止するべきときもあります。

床下・屋根裏の断熱材の施工不良

次に紹介するのは、断熱材の施工不具合です。写真は新築一戸建ての屋根裏と床下で確認された指摘事例です。

屋根裏の断熱材の隙間

上の写真は屋根裏です。この屋根裏では、天井材の上に断熱材(この住宅ではグラスウール)が施工されておりますが、非常に雑な状況で隙間が多くなっていて、断熱材が適切に機能していない状況です。施工した職人もわかっていたのに、補修対応せずにそのまま放置している可能性があります。

床下の断熱材の落下

上の写真は床下です。断熱材が明らかに外れていて、全く機能しない状況になっています。家の断熱性能に関わる指摘です。

こういう指摘は、日常的に見つかっているものですが、屋根裏も床下も、ホームインスペクションを依頼しない限りは、自分たちだけで確認しづらいため、見つからないと思って対応していなかった可能性があります。

ベランダの漏水リスクのあるビスの取り付け不良

3つ目に紹介するのは、ベランダの防水リスクがある指摘事例です。

サッシ下のビス穴

ベランダでは、いろいろな指摘事例があがっていますが、この写真は室内からベランダへ出る掃き出しサッシの下側をベランダ側から見上げた部分です。ベランダの床に伏せるようにして見上げるか、鏡を使って調査する部分です。

ビスの取り付け箇所がビス穴からずれていて、尚且つ止水処理をしていないため、雨漏りするリスクがあります。このような小さな穴から雨漏りするのかと驚く人もいるかもしれませんが、実際に起こりえる指摘です。

雨漏りの可能性がある染み跡

4つ目に紹介するのは、雨漏りの疑いが濃厚な天井などの染み跡です。

天井の雨染み

雨漏りの跡は、見るからに明らかなものもあれば、雨漏り以外の可能性も十分に考えられる微妙なものもあります。結露や設備配管等からの漏水、小動物の糞尿というケースもあるのです。いずれにしても、そういった可能性が考えられるものも含めて、水染みの跡がないか確認することも大事です。

上の写真では、天井や壁に水染み跡が見られ、雨漏りの可能性があるものでした。誰が見てもわかりやすい目立つ染みもあれば、あまり目立っていない者もあるので注意が必要です。

構造材の著しい欠損

最後に紹介するのは、床下で見つかった構造材の大きな欠損です。

床組み(構造材)の欠損

この写真は、床下へホームインスペクターである建築士が潜っていき、大引きという床組みの一部を確認したところですが、排水管や上水管などの設備配管が大引きを貫通するように施工されています。こういうときに、慎重に考えたいのは、その貫通(=大きな欠損)の箇所あたりに建物の荷重が大きくかかるかどうかです。

こういうところは、やはりプロの意見を聞いて補修等の対応を検討してほしいものです。

以上、5つの指摘事例を写真とともに紹介しましたが、いかがでしょうか。こういった指摘が見つかったという実例は、ホームインスペクションを無駄と考えるかどうか、参考になりますね。安心して購入するために必要なものだと言ってよいでしょう。

一級建築士

紹介した5つの事例のなかでも最も多い指摘は、床下・屋根裏の断熱材の施工不良です。写真の状態よりも酷い物件もあるので、注意したいものです。

ホームインスペクションは無駄という不動産業者への注意と対策

ホームインスペクションが無駄なサービスではないということは、指摘事例である程度は理解して頂けたと思いますが、無駄だと言う不動産業者への注意点と買主がとるべき対策をお伝えしておきます。

無駄と言う不動産業者への注意点

不動産業者が、ホームインスペクションを無駄だとか、必要ないという理由については、前述したとおりです。特に注意を要するのは、そのうち「調査結果次第で購入中止となることを恐れている」業者です。

これは、裏を返せば、買ってもらうためなら、自分のお客様が不利になることを厭わないということでもあり、信頼性の問題がありますね。インスペクションに非協力的であること以外にも、何か事実と異なる説明を受けていないか慎重に判断すべきです。

過去には、対象住宅に不具合があることを知っていたために必要ないと主張していたのではないかと思えることもありました。購入後に後悔しないように、買主なら利害関係者の説明だけで判断すべきではないと言えます。

無駄と言う不動産業者への対策

ホームインスペクションが無駄だと言い、あまり協力的ではない不動産業者への対策について説明します。

まず、前提として、あなたが買主である場合、その住宅の所有者である売主の許可なく、ホームインスペクションを実施することはできないことを理解しておきましょう。たまに、「鍵を置いている場所を知っているから、一緒に行って診断してほしい」という人がいますが、無断で侵入することは犯罪になりますね。

不動産業者がインスペクションをすぐに受け入れてくれない場合、基本的には根気強く、粘って受け入れてもらう必要があるのですが、以下の事実を伝えながら交渉するとよいでしょう。

  • 新築住宅でも中古住宅でも依頼する人が多い。
  • 拒否しない不動産業者の方が多い。
  • 中古住宅なら、宅地建物取引業法で建物状況調査(=ホームインスペクション)の実施有無を不動産業者の方から買主や売主へ確認することになっている。
  • そもそも不動産仲介業者が拒否するのはおかしい(売主は拒否できるが)。

10年以上前に比べれば、拒否したり、非協力的な姿勢を示したりする不動産業者や営業マンは減ったものの、まだまだ否定的な対応をとられることはあります。そういうときは、あなた自身の毅然とした態度も重要となりますので、意識して対応してください。

アネストの住宅インスペクション

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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