中古住宅を売買する際には、買主が購入時の参考にするためや、売主が売りやすくするためなどの目的で、ホームインスペクション(住宅診断)が利用されることが本当に多くなり、当たり前のように検討、または依頼されています。
ホームインスペクションを実施することにより、建物のその時点の状態を把握することで、買主も売主もトラブルや後悔することを抑制できるのではないかと考えることが増えてきた結果でしょう。
買主の立場で考えれば、売買契約の締結前に実施することで、リスクをできるだけ抑えておきたいところですが(完全にリスク排除することはできない)、売主が拒否することや、一部の不動産会社がホームインスペクションに対して後ろ向きで非協力的な対応をすることがあり、残念ながら契約前(購入前)の実施をあきらめて、購入後(引渡し後)に依頼することもあります。
また、売主や不動産会社に拒否されたわけではないものの、買主が対象物件を購入する意思に変わりがないからという理由で、購入後のインスペクションをしようと考える人もいます。
基本的には、購入前に依頼する人が多いのですが、一部では購入後に依頼する人もいるわけです。今回は、そういった購入・引渡し後にホームインスペクション依頼しようと考えている人向けに、依頼する前に知っておいて欲しいこと、注意すべき点を紹介します。できれば、購入前に読んでおいて欲しい内容でもあります。
家財道具を入れる前・入居前のインスペクションをおすすめ
中古住宅を購入・引渡し後にホームインスペクション(住宅診断)を依頼人に、必ず守ってほしいことは、家財道具を新居へ入れる前、入居する前に利用するということです。家財道具とは、家具や家電、その他の様々な家庭の荷物類です。
家財道具で隠れる範囲は少なくない
なぜ、家財道具を入れる前のインスペクションを推奨するかは想像できますよね。家具や家電などを入れてしまうことによって、隠れてしまう箇所があるからです。たとえば、冷蔵庫を置けば、その向こう側の壁や真下の壁を目視できなくなります。
ホームインスペクションの基本的な調査方法は目視がベースとなっているため、隠れてしまう箇所は少ないほどよいと言えます。多少の家財道具なら影響は限定的ですが、全て搬入してしまうと、隠れて見られない範囲は少なくないです。
せっかくの機会(荷物なしの状態)を有効活用
ホームインスペクションには費用もかかるわけですし、建物の専門家に診てもらう数少ない機会でもありますから、荷物が無い状態で利用することで、調査をできる限り有効活用することを優先しましょう。そのためにも、中古住宅を購入し、引き渡しを受けたらすぐに利用するとよいでしょう。
点検口の有無を事前確認すべき
ホームインスペクションを依頼する前に、点検口の有無を確認しておきましょう。点検口があるかどうかは、インスペクションをする上で重要なことだからです。ここで言う点検口とは、床下点検口と小屋裏(屋根裏)点検口のことです。
床下点検口は床下収納庫が兼ねていることも多いです。また、ユニットバスの上に天井点検口が付いていることが多いですが、そこから確認できる範囲は限定的なことが多いため、それ以外に屋根裏点検口がほしいところです。
点検口の有無で調査範囲が異なる
「点検口があるかどうかは、インスペクションをする上で重要なこと」だと説明しましたが、その最大の理由は調査範囲の違いです。
点検口が全くない場合、床下や屋根裏を覗き見ることもできず、普段隠れている床下や屋根裏の状況が全くわからないことになります。そして、その床下や屋根裏では、構造耐力に関わる部位やシロアリ、雨漏り、断熱欠損、漏水など大事なことを確認できるため、そういった大事なことをあまり確認できないということにもなります。
調査範囲、重要性を考えれば、点検口があってほしいですね。
ホームインスペクションを依頼する前に点検口の有無と位置を見よう
そこで、ホームインスペクションを依頼する前に、自分で点検口の有無を確認しておきましょう。自分でとは言っても、売買する際に売主は不動産会社に聞いた上で、実際に現地で確認する手順が最もおすすめです。
点検口が、畳やカーペットの下、棚で隠れている箇所、収納内などにあって、発見しづらいこともありますが、売主や不動産会社から説明を受けられれば、見つけられる可能性も高まります。「知らない」と返答された場合は、家財道具がない状況のときに自分で探してみるしかないです。
昔の住宅における屋根裏は、収納の天井板をずらして確認できることもあります(明確に点検口が無い状況)。そういったことも考えながら探してみましょう。
点検口が無ければ先に設置をおすすめ
探してみた結果、もし、点検口がないということならば、できれば、ホームインスペクションを依頼する前に設置することを考えてください。リフォーム業者などに依頼して設定してもらう人が多いですが、リフォームで撤去予定の床などなら、ご自身で開口しておく人もいます。
綺麗な点検口でなくても、45cm角以上の穴なら、その代わりを果たせることが多いです。ただし、自分で開口する場合は、大事な部位を傷つけないように注意しましょう。わからなければ、業者に依頼する方が賢明です。
とにかく、点検口が無い場合は、調査範囲を広げてホームインスペクションをより有効に活用するため、事前に設置しておくことをおすすめします。
売買契約時の契約不適合責任を要チェック
中古住宅の購入後のホームインスペクションを検討しているなら、できれば、売買契約を締結するとき、契約不適合責任について注意しておきたいものです。
契約不適合責任とは?
契約不適合責任とはあまり聞きなれない人も多いと思いますが、以前は瑕疵担保責任と呼ばれていたもので、2020年4月1日より施行された改正後の民法で、「目的物の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合の売主の責任」としているものです。略して、契約不適合責任と呼ばれています。
わかりづらいかもしれませんが、契約した目的物(たとえば、中古住宅の売買ならその土地と建物)が契約内容に適合しないなら、買主が売主に対して損害賠償請求や契約解除、修補請求、代金の減額請求をできるというものです。難しいですが、重要そうなことだとわかりますね。
中古住宅では売主の契約不適合責任を免責とすることもあるので要注意
中古住宅の売買においては、この大事な契約不適合責任を無しとする(=免責とする)ことがあり、条件次第では買主にとっては不利だと言えることもあります(不動産会社が売主の場合では免責とする特約は無効になる)。
「買った後に売主に請求すればいいか」などと考えていたけど、その権利がないなんてことになるので、注意してください。
参考として、築年数が浅い住宅ほど、契約不適合責任を免責にすることは少なく、築年数が経過した古い建物程免責とすることが多いです。古い建物では建物価格を査定にいれていない(売買価格に入れていない)といった理由があるからです。
契約不適合責任が免責で契約前にホームインスペクションできない物件には要注意
建物が古い中古住宅では仕方ないこともありますが、売主の契約不適合責任が免責になっているにも関わらず、契約前のホームインスペクションを受け入れてもらえないケースでは、買主のリスクがより高い状況にありますから、本当にそのような条件で購入すべきかどうか慎重に検討すべきです。
特に、築年数がそれほど古くもないのに、上のような状況で購入して、引き渡し後に大きな建物の問題が見つかったときには後悔することもあるでしょう。
売買契約前に家財道具があったなら、撤去後との違いを要チェック
家財道具(家具・家電など)を入れる前のホームインスペクションをおすすめしましたが、購入前(売買契約前)の現地見学の際に、家財道具があったならば、引渡し後にそれらの撤去箇所の状態をよく確認しましょう。
専門家にホームインスペクションを依頼しない人であっても、これは必ずすべきことですが、依頼する人は、そこで気になる症状を見つければ、診断に訪れた専門家(=ホームインスペクター)に相談するとよいでしょう。
大きな棚や家電があった箇所の壁・天井に雨漏り跡や腐食などが見つかることもあるので、チェックしておきたいものです。
できれば、売買契約前のホームインスペクションを考えよう
中古住宅を購入・引渡し後にホームインスペクションを依頼する人に向けて、注意点や事前準備について解説してきました。契約前にどうしても実施できなかったのであれば、仕方ないところですが、可能ならば契約前の実施が最もおすすめですので、できる限り不動産会社と交渉するなどして、契約前のタイミングで利用することを考えてください。
最初は否定的だった不動産会社や売主でも、2度目、3度目のお願いで対応してもらえたという声を聞くこともあります。すぐにあきらめずに粘ってみてはいかがでしょうか。
購入後に大きな問題が発覚するリスクを少しでも抑えておきたいですね。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。