ホームインスペクション(住宅診断)は、新築住宅に対しても利用されることが多く、建物の施工不具合、つまり欠陥工事がされていないかどうか、その診断時に確認できる範囲において調査されています。もちろん、中古住宅の購入や売却の際に利用されることも多いですが、新築でも多く利用されているということです。
新築といっても建売住宅と注文住宅に分けることができますが、今回は、建売住宅に対してホームインスペクションを依頼しようとする人を対象として、その有効性(必要性)や依頼するメリット、調査内容、費用、依頼するタイミングと利用の流れについて解説します。
建売住宅の売買契約をする前の人にも、契約後の人にも役立つ内容となっていますので、ご覧ください。
なお、注文住宅を建てる人にも役立つことを記載していますが、注文住宅なら、以下がより役立ちます。
新築の建売住宅に第三者のホームインスペクションが有効
新築の建売住宅では、非常に多くの人が第三者の専門家(建築士であるホームインスペクター)によるホームインスペクションを利用していますが、その有効性に疑問を持つ人もいるため、その有効性・必要性を解説します。
建売住宅とは?
まず、建売住宅を正確に理解しておく必要があります。建売住宅とは、売主が、建物のプラン(間取りや仕様レベルなど)を企画して、多くの場合は土地と一体で販売するもので、分譲住宅とも呼ばれています。土地と一体でない場合としては、定期借地権付きの建売住宅があります。
プランを売主が決めているわけなので、本来ならば、買主が間取りなどを変更することはできないのですが、最近の不動産業界では、建売とセミオーダーの注文建築の家との間をとるような販売手法もありますので、絶対にプラン変更できないと決めつける必要はありません。
以前の建売住宅は、建物が完成してから販売していたので、プラン変更できなかったのですが、今の不動産業界では、着工する前や建築途中に販売し始めることが多くなったため、一部のプラン等の変更を受け入れる不動産会社が増えたわけです。
建売には施工不具合が多い
建売住宅の建築現場では、経験の浅い現場監督が工程を管理していたり、経験の浅い職人が工事をしていたり、詳細な図面もなく現場任せで施工していたりすることがあるため、どうしても施工ミスが起こりがちです。
現場監督が若くて年配の職人があまり言うことを聞いて切れないケースや、現場監督が担当する現場数(棟数)が多すぎて工事進捗を把握しきれないケース、職人が次々とやめてしまって経験・ノウハウを蓄積できないケースなどが続発していることが、施工不具合・欠陥工事が怒る要因になっているのです。
一人一人の人の問題や1つ1つの建築会社(工務店)の問題という面もありますが、業界構造の問題とも言える根深い課題を抱えているため、長年、住宅の欠陥問題が無くなっていません。
新築にはホームインスペクションが必要。無駄ではない
一部の不動産業界の人から、「今どきの新築にホームインスペクションを依頼して調査費用を払うのは無駄だ」という意見を聞くことがあります。
しかし、実際に、基礎の構造クラックや床下浸水、雨漏り、防水上の懸念がある外壁等のひび割れ、シーリングの破断、断熱材の施工不良などの事象が、ホームインスペクションによって発見されています。しかも、こういった不具合は、たまに見つかるという程度ではなく、多くの新築で見つかっています。
こういったことが新築住宅で起こっているという事実があるので、新築の建売住宅には第三者のホームインスペクションが有効で、必要性が高いものだと言えます。決して無駄ということはないでしょう。
新築でホームインスペクションを依頼するメリット
ホームインスペクションを依頼するか迷っている人向けに、新築でも依頼するメリットを紹介します。
施工不良を見つけてくれる
「新築にはホームインスペクションが必要。無駄ではない」で書いたように、新築でもいろいろな施工不良が見つかることがよくあります。これらは、建築に関する専門知識がない人には判断できないこと、発見が難しいことも多く含まれています。
つまり、専門家が代わりに施工不良箇所を見つけてくれることが大きなメリットです。
プロが指摘事項を伝えてくれる
買主が自分で建物をチェックしていて、「これ大丈夫だろうか?」「補修してもらうべきだろう」などと思っても、専門知識や経験に基づく裏付けがないため、指摘として売主等へ言いづらいという人は少なくありません。
本当は遠慮せずに、「これは、大丈夫ですか?」「補修すべきですよね?」などと積極的に質問するなどしてもよいのですが、言いづらいこともあるでしょう。
プロに依頼すると、見つけた施工不良については、その場で立会っている売主か建築会社の担当に指摘事項を伝えてくれるので、買主のメリットになっています。
売主や建築会社の言い訳が本当か確認できる
買主が気になる施工状態を発見して、「これは、大丈夫ですか?」と売主等へ聞いたとき、理由などもきちんと説明することなく、「大丈夫です」とか「気にしすぎです」などと言われてしまうことがあります。よくあるフレーズとしては「どこも、そんなものです」というものもあります。
知識がないと、その判断が妥当なものかどうかわからず心配になることもあるでしょう。そういうとき、プロにホームインスペクションを依頼していると、その説明(言い訳)が本当かどうか確認することができます。
施工ミスの抑止力になる
第三者のホームインスペクションが入ることは、多くの売主や建築会社にとっては、少なからずプレッシャーとなっていて、現場に良い意味での緊張感が生まれることも少なくありません。
早い段階で、ホームインスペクションを入れると売主側へ伝えておくことで、施工ミスの抑止力となることも期待できるので、早めに伝えておくとよいでしょう。ただし、必ず、抑止できるというわけではないので、過信は禁物です。
安心感を得て新生活を開始できる
ここまでに挙げたように、施工不良を見つけてくれて、それを指摘してもらえ、売主側の説明の確認や抑止力まで期待できることから、ホームインスペクションを依頼することで、多くの買主は安心感を得ることができます。これも大きなメリットの1つです。
新築の建売住宅のホームインスペクションの調査内容
建売住宅の完成物件における調査内容について解説します。新築であるという点において、注文建築の家の完成後に行う調査内容と基本的には同じです。ここでは、2003年より多くの新築住宅に対してホームインスペクションを実施してきた実績のあるアネストの調査内容をベースに紹介します。
調査範囲
新築住宅のホームインスペクションにおける調査範囲を屋外、屋内、床下・屋根裏に分けて紹介します。
屋外(建物外部)
まず、屋外(建物外部)における調査範囲は、基礎、外壁、軒(軒裏)、屋根、雨樋、ベランダ(バルコニー)です。ただし、地上またはベランダから確認できる範囲であるため、3階建ての外壁上部の詳細は確認できないことがありますし、屋根の形状次第では、屋根をほとんど確認できないこともあります。
屋上(ルーフバルコニー)がある建物で、屋上へ階段などで安全に上がれる場合は屋上の防水等も確認することができます。
門扉・フェンス・カーポートなどの外構がある場合、調査時点で完成しているものは、一緒に確認します。ただし、ホームインスペクション業者によっては、外構は全く見てくれないこともあるので注意してください。
屋内(建物内部)
次に、屋内(建物内部)の調査範囲ですが、リビングや居室などの各スペースで床・壁・天井(床と壁は傾斜測定も行う)、扉・引き戸などの建具やキッチン・トイレなどの水周り設備について動作確認を行います。調査時に水道を開栓しておらず使えない場合、排水テストはできません。
床下と屋根裏
そして、床下と屋根裏(小屋裏)も調査します。一般的には、点検口から覗き込んで目視できる範囲が基本的な調査の対象であり、その内部へ潜って奥まで進入して調査するのは別途オプション扱いです。
床下では、基礎、土台等の床組みとその構造金物、床下配管、断熱材が主な調査項目です。意外と新築時点で基礎の構造クラックが床下で見つかることが少なくありません。
屋根裏(小屋裏)では、梁などの小屋組みとその構造金物、野地板、水染み(雨漏りの疑いなど)、断熱材が主な調査項目です。床下でもそうですが、断熱材の施工不良が見つかることが最も多いです。
床下と屋根裏は共に大事な部位を診断できるので、依頼を推奨しますが、住宅によっては新築であっても進入できなものもあります。
調査方法と機材
ホームインスペクションの調査方法は、基本的には目視調査が主体となります。目視だけで何を確認できるのか、素人の自分が見ても同じではないかと疑問を持つ人もいますが、確認できることは多いですし、専門知識と経験がないと同じ範囲を目視しても適切に判断できるかできないかの違いが大きいです。
調査項目については、項目数が多いですが、以下をご参照ください。
目視以外では、以下のような機材を調査時に使用しています。
調査機材
- レーザー水平器(床・壁の傾きを計測する)
- 水平器(水準器)(場所によってはレーザーではなくこちらを用いる)
- 水分計(土台などで含水率を計測する)
- 打診棒(タイルなどの浮きを確認する)
- 鏡(見づらい場所を確認するのに役立つことがある)
こういった調査機材と目視調査を組合せながら調査を進めていくのです。
新築住宅に対応するホームインスペクター
ホームインスペクターとは、住宅の建物について調査・診断する専門家のことを指しますが、新築住宅のホームインスペクション(住宅診断)を担当する専門家とは、どういう人かご存じでしょうか。
当然のことながら、建築知識が必要ですが、ある程度の知識があればよいというわけではありません。適切なインスペクションを行うために求められる資格、経験というものがあるため、それを解説します。
適切な資格
適切なホームインスペクションを実施するために保有しておくべき資格は、国家資格である建築士です。
建築士とは、建物の設計や工事監理を行うために必要な免許です。つまり、この資格がなければ設計や工事監理といった経験を積むことができないため、ホームインスペクションに必要な経験を適切に積んでいけないことになります。
建築士にも種類がありますが、最上位の一級建築士が最も良質な経験を積んでいる可能性が高いため、できれば一級建築士へ依頼することをお勧めします。
知識・経験・実績
ホームインスペクションとは、建物を検査する業務ですから、建物に関する専門知識が必要であることは誰でも理解できますね。そして、机上の知識だけでは役に立ちづらいですから、経験も必要なことは言うまでもありません。
前述の「適切な資格」にあるとおり、良質な経験を積みやすいという意味で一級建築士を推奨しましたが、そういった経験値は大事です。ただし、一級建築士であっても、経験の対象がビルなどの大規模建築物に偏っている場合は、ホームインスペクションを担当する意味では適切な経験を積んでいるとは言えません。
木造住宅のインスペクションをするには、木造の経験が必要ですし、鉄骨造ならその経験が必要です。
資格と住宅の設計・工事監理といった経験がある上で、ホームインスペクションの実績を積んでいる人が、理想のホームインスペクターだと言えます。
新築の建売住宅の調査費用
新築の建売住宅に対してホームインスペクションを依頼すると必要になる調査費用(料金)を紹介します。
基本的な調査範囲、床下、屋根裏、詳細報告書にわけて、それぞれの費用相場を範囲で示しています。
依頼サービス | 調査費用 |
---|---|
基本的な調査範囲 | 5~7万円 |
床下の調査 | 1.5~3.5万円 |
屋根裏の調査 | 1.5~3.5万円 |
詳細報告書 | 0~1万円 |
ただし、ホームインスペクション業者によって調査範囲、報告書の質・料、ホームインスペクター(検査員)の質・経験・資格などに大きな違いがあるため、単純な金額の比較は後悔につながるので注意してください。
たとえば、新築住宅の設計や監理経験がないにも関わらず、専門家と称して依頼を受けていることがあるので、あまり安い業者はリスクがありうることを理解しておきましょう。
また、詳細報告書は、業者によってはそれほど詳細でもないのに、そう名付けていることもあるので、報告書のサンプルをHPで確認して比較してください。
ホームインスペクションを依頼するタイミングと利用の流れ
新築の建売住宅において、ホームインスペクションを依頼するタイミングとして、3つの機会を紹介し、それぞれの利用の流れを解説します。
最も多い依頼タイミングは売買契約後・完成後・引渡し前に利用する場合
建売住宅においてホームインスペクションを依頼することが最も多いタイミングは、売買契約を締結し、建物が完成した状態で、引渡し前に利用するケースです。このタイミングは、住宅業界では内覧会と呼ばれていることが多いですが、不動産会社によってはそういった呼称を使っておらず、単に引渡し前の立会いと呼んでいることもあります。
このタイミングで利用する場合の利用の流れは以下のとおりです。
- 購入する物件を絞る
- 購入申し込み
- 手付金の支払いと売買契約の締結
- ホームインスペクションを実施(内覧会立会いのタイミング)
- 売主による補修工事
- 補修工事後の再確認
- 住宅の引き渡しと決済
- 引越し(入居)
大事なポイントとしては、住宅の引き渡し前に補修工事をしてもらうということと、補修工事後の再確認を行うという点です。
次に多いタイミングは建物完成後・売買契約前
新築工事が完了して建物が完成している建売住宅を購入する場合、売買契約を締結する前にホームインスペクションを利用する人も多いです。このタイミングで診断して、大きな施工ミスが見つかったときには、購入を中止することもできることから、売買契約後よりも契約前のこのタイミングをお勧めします。
このタイミングで利用する場合の利用の流れは以下のとおりです。
- 購入する物件を絞る
- 購入申し込みと売主へホームインスペクション受け入れのお願い
- ホームインスペクションを実施
- 手付金の支払いと売買契約の締結
- 売主による補修工事
- 住宅の引き渡しと決済
- 引越し(入居)
大事なポイントとしては、売買契約前のホームインスペクション実施について売主側へ申し入れしたときに、拒否反応を示されても簡単にあきらめないことです。診断で問題が見つかれば買ってもらえないと考えて嫌がる業者もいるのですが、リスクを負って購入するのは買主ですから、すぐに諦めない気持ちも必要です。
着工前で建築途中の検査を利用する場合
着工前の建売住宅を購入するとき、工事着工のときから建物が完成するまでの間に、複数回のホームインスペクションを利用する人も多いです。新築工事中の施工ミスについて不安を抱く人は多く、年々、依頼者が増えています。
このタイミングで利用する場合の利用の流れは以下のとおりです。
- 購入する物件を絞る
- 購入申し込みと売主へホームインスペクション受け入れのお願い
- 手付金の支払いと売買契約の締結
- 工事着工
- ホームインスペクション(建築中の住宅検査)を実施
- 建物完成
- 住宅の引き渡しと決済
- 引越し(入居)
建築中の住宅検査については、検査回数と検査タイミングをどうするか、事前にホームインスペクション業者と打合せしておき、それに従って進めることが一般的です。依頼者と対象物件の条件によって、検査回数はいろいろなケースがあり、主に5~11回の範囲で利用されています。もちろん、検査回数が増えるほど費用も高くなるので、よく検討しましょう。
建築途中の依頼も多い
建売住宅の売買契約を締結後、新築工事が進んでいく途中で施工品質に不安を感じて、工事の途中からホームインスペクションを依頼する人も多いです。工事の途中から依頼するとそれまでに既に完了して目視できない範囲は、原則として検査対象となりませんが、それ以降の検査をしてもらうことは可能です。
建築途中に依頼する場合の利用の流れは以下のとおりです。
- 購入する物件を絞る
- 購入申し込み
- 手付金の支払いと売買契約の締結
- 工事着工
- 工事途中で施工品質に不安を感じる
- 売主へホームインスペクション受け入れのお願い
- ホームインスペクション(建築中の住宅検査)を実施
- 建物完成
- 住宅の引き渡しと決済
- 引越し(入居)
建築途中からの依頼であっても、その工事進捗次第で、5回以上の検査依頼をすることもあれば、1~3回程度に絞って依頼することもあります。工事進捗や設計図をホームインスペクション業者に提示しつつ、回数やタイミングを相談するとよいでしょう。
今では、建売住宅の新築工事中に第三者の建築士に検査してもらうことが本当に多くなりましたが、依頼は早めにしないと工事が進んで確認項目が限られます。
以上、新築住宅(建売住宅)のホームインスペクションを検討している人、迷っている人に向けて、その有効性や調査内容などを解説しました。引き渡しまでの間に利用せず、入居後に問題を発見して依頼し、「もっと早く依頼すればよかった」という声は多いので、早めの依頼を検討することをお勧めします。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。