住宅を購入するとき、自宅を売却するとき、そしてリフォームやリノベーションするときなどに利用されるホームインスペクションですが、プロに依頼するからには、決して安くはない調査料金、つまり費用がかかります。
大事な住宅のこととはいえ、費用がかかるとなれば、インスペクションを依頼するかどうか悩む人は多いものです。
実際に利用した人からは、
「マイホームを買う前にホームインスペクションを頼んでおいてよかった」
「欠陥だらけの家を買わずにすんだ」
「大きな問題がないとわかって、安心して購入することができた」
など、多くの喜びの声がある一方で、不動産会社の担当者からは、
「インスペクションを利用する人は多くない」
「その費用を高価な住宅設備に回す方がよいのではないか」
「ホームインスペクションに費用をかけるなんて、もったいない」
などと言われることがあり、迷うことになるのです。
この記事では、主に住宅を購入する人向けに、ホームインスペクションを依頼してその費用を支払うことがもったいないことなのか、その調査費用をより有効活用するにはどうすればよいかといったことを紹介しますので、インスペクションを依頼するかどうか検討するときの参考としてください。
ホームインスペクションに費用かけるのはもったいないか?
アネストでは、2003年の創業以来、非常に多くの住宅に対してホームインスペクションを実施してきたので、新築住宅にも欠陥工事が生じている事実、中古住宅に著しい劣化事象が生じている現実というものをよく見てきました。ごく一部の住宅に限った話ではなく、多くの住宅で見つかっている問題だということを知っています。
しかし、何度も住宅を買う人は稀ですし、いろいろな人が、それぞれの立場で違ったことを言うために迷ってしまう気持ちもよくわかるので、ホームインスペクションに費用かけることが、もったいないことかどうか、解説します。
インスペクション費用を住宅設備へまわすべきか?
対象物件の条件や利用するサービスの範囲によりますが、ホームインスペクションの費用は、安くても5万円以上で、10万円を超えるケースも非常に多いです。床下や屋根裏といった大事な箇所まで調査すれば、10万円を超えることが大半です。
10万円と考えれば、確かに大きな金額ですね。
住宅購入時には、カーテンや照明、家電などで多くの費用がかかるため、必要ないものは利用せずにおきたいものですし、不動産会社の営業担当から「インスペクションの利用をやめておいて、食洗器でも入れたらどうですか?」と勧められて、その通りにし、後で後悔している人もいました。
住宅設備機器やカーテンなども大事な物ですし、できれば欲しいし、もっと良いものを買いたいとも考えますよね。当然の考えです。
しかし、ホームインスペクションは、将来のリスクを抑制することが主な目的の1つですから、インスペクションの利用目的は、火災保険や地震保険の方が近いと言えるでしょう。そういう意味で、住宅設備等とは予算を分けて考えておくことをお勧めします。設備等の予算は、その中で調節しましょう。
売主が実施済みなら買主はお得?
中古住宅を購入しようとした時、その物件の売主が、既にホームインスペクションを実施済みというケースがあります。買主が自分で実施しなくても調査済みであり、その調査結果を見せてもらえるのであれば、調査費用を負担せずに済むので嬉しい話で、お得に感じるでしょう。
ただし、買主としては、知っておくべき事実があるので、紹介しておきます。
売主が依頼しているホームインスペクションの多くは、国土交通省の告示で規定している基準において、調査項目として挙げているものだけを調査しているか、それに少し足した程度の調査です。つまり、最低ラインかそれに近いレベルの調査となっているケースが多いです。
多くの中古住宅のインスペクションをしているとわかることですが、基準で調査項目となっていない項目で大事な指摘事項が上がることは少なくありません。買主の立場であれば、知っておきたい重要な劣化事象が報告されていないことが多々あるのです。
インスペクション費用を払わずに済むことはお得感があるものの、実は、結果的に損することもあるのです。その対策として、売主とは別に、買主側でもインスペクションを入れているケースもあります。
調査費用が必要経費だと言える建物の不具合事例
ホームインスペクションの料金を支払うことがもったいないとか、不要だと判断する前に、実際の調査現場で見つかった建物の不具合について、写真で事例を見るとよいでしょう。
基礎のひび割れ
基礎コンクリートに、構造耐力上の影響があるひび割れ(=構造クラック)が見つかった事例です。
外壁シーリングの穴
外壁面で、窓周りのシーリングに穴があり、雨漏りが心配される事例です。
ボルトの緩み
床下でボルトのナットが緩んでいて、構造耐力上の影響がある事例です。
屋根裏の雨漏り跡
屋根裏の野地板などに染みがあり、雨漏りの可能性が高いと判断された事例です。
断熱材の設置漏れ
屋根裏の一部で、断熱材が設置されていない箇所が見つかった事例です。
床の傾き
室内の床の一部で、基準を超える傾きが計測された事例です。
ホームインスペクションの費用を有効活用する秘訣
ここまでに、ホームインスペクションは必要なことであり、費用が無駄ではないことを説明してきましたが、かける費用をより有効に活用するために、依頼者が知っておきたい秘訣、注意点を紹介します。基本的には、インスペクションは中途半端にやるより、しっかり投資すべきだという内容です。
床下と屋根裏は調査してもらうべき
ホームインスペクションを依頼するときに迷う要素の1つが、床下や屋根裏(小屋裏)の内部まで調査依頼するかどうかという点です。
住宅によっては、床下や屋根裏に検査員(ホームインスペクターのこと)が進入できないケースがあることや、進入する手間が大変なことから、これらはオプション・サービスの扱いとなっていて、別途料金がかかるものです。
別途料金がかかるわけですから、依頼するかどうか迷うのも無理はありません。
しかし、床下でも屋根裏でも重要な項目を調査できるので、ぜひ依頼するようにしましょう。
床下の主な調査項目
- 基礎コンクリート
- 土台・大引き等の床組み(構造金物を含む)
- 断熱材
- 配管
- シロアリ被害
屋根裏(小屋裏)の主な調査項目
- 小屋組み(構造金物を含む)
- 野地板
- 断熱材
- 雨漏り(疑いのある染み等を含む)
特に木造なら重要
床下と屋根裏は、ホームインスペクションを利用する上で重要なスペースですが、建物の構造・工法によって、その重要性には多少の差異があります。
木造住宅では、構造部材そのものの問題(例:土台などの著しい劣化)が見つかることもありますし、甚大な基礎の不具合やシロアリ被害が見つかることもありますので、床下や屋根裏の調査はすべきでしょう。鉄骨造であっても、基礎の不具合や雨漏りが見つかることはありますが、木造の方が重大な指摘が見つかる率は高めです。
フラットルーフなら屋上も大事
屋根がフラットな形状になっている住宅がありますが、そこは雨漏りの要因になることが多い箇所です。よって、フラットルーフに安全に登れるプランとなっている場合は、調査してもらうとよいでしょう。フラットルーフの面積等の条件次第で、調査費用が上乗せになることはありますが、調査依頼する価値は高いです。
フラットルーフになっている場合、最上階の屋根裏(天井裏)には、検査員(ホームインスペクター)が進入できるだけのスペースがなく、十分に調査できないことが多いですが、その分、その屋外にあたる屋上は診ておきたいものです。
調査時に立ち会おう!
ホームインスペクションを依頼するならば、依頼者はできる限り、調査時に現地で立会いすることを考えてください。現地立会いすることで、調査内容とその結果を理解しやすくなりますし、不明な点を質問しやすく、その回答やアドバイスも理解しやすいことが多いです。
これによって、より有効にインスペクションの費用を活用できることにもなるでしょう。
アネストのホームインスペクションでは、詳細な報告書が提供されるため、立会いしなくても報告書の確認などにより、十分に役立ちますが、現地立会いするとより大きなメリットを感じられますので、お勧めします。
まとめ
ここまで読んでみて、ホームインスペクションの費用に対する印象はいかがでしょうか?
まだ、もったいないと感じるなら、それは、利用をやめておいた方がよいかもしれません。当サイトとしては、ホームインスペクションの利用価値を知っているのでお勧めしていますが、誰もが同じように感じるとは言い切れませんし、他に優先したいことがあるなら、それも否定はしません。
インスペクションがどういうものであるか、住宅購入に関するリスクといったことを理解した上で、適切に判断できればよいですね。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。