ホームインスペクションは新築でも必要

新築でもホームインスペクションを利用する人が多いですが、その必要性に疑問を持つ人や迷う人もいます。費用もかかることなので、利用しなくてよいならやめておきたいと考えるのも無理はないですが、住宅業界の現実をよく知っている人ならば、新築でも必要だということを理解しています。

新築住宅に施工不良がよくある原因や調査範囲、利用するタイミングなどを紹介するので、あなたにとって必要かどうかを考える参考としてください。

ホームインスペクションは新築でも有効。不動産会社の「必要ない」に騙されないで

「必要ない」に騙されないで

ホームインスペクション(住宅診断)は、中古住宅だけではなく、新築住宅に対してもよく利用されています。「新築なら大丈夫ではないか?」と考える買主もいますし、「新築には必要ない」と主張する不動産会社の営業マンもいます。

しかし、長年、ホームインスペクション業界で多くの新築物件の診断結果を見てきた結果から言えば、新築でもインスペクションは有効ですし、必要性が高いことは間違いありません。この点について、解説します。

ホームインスペクションで新築工事の施工不良をチェック

ホームインスペクションは、住宅を対象として、建物の状態をチェックする建築技術に関わる専門的サービスで、一般的には建築士の資格を持つ者で、且つ検査の知識・ノウハウを習得した専門家が行います。この専門家は住宅検査員ということになりますが、最近では、ホームインスペクターとも言われています。

新築で行うホームインスペクションでは、建物の施工不良の有無をチェックしています。

たとえば、床や壁の水平・垂直の精度や、防水上の懸念がある外壁のひび割れ、構造耐力に影響がある基礎のひび割れ(クラック)、断熱材の著しい隙間などの確認です。

施工不良はまだまだ多い

昔ならともかく、今の時代の新築住宅において、専門家が調査しなければならないほど、施工不良が生じるなんて信じられないという意見を耳にすることもありますが、業界の実態としては、まだまだ施工不良が多いです。

施工不良が生じる根本原因としては、以下の6点が挙げられます。

施工不良が起こる6つの原因

  • 熟練した職人・現場監督者の不足
  • 技術の継承・習得の仕組みが無い建築会社が多いこと(技能不足)
  • コスト削減が優先されがちなこと
  • 工事遅延とそれを取り戻すための突貫工事が頻発していること
  • 監理者・監督・職人の連携不足
  • 職人・技術者の単純な手抜き

こういった問題を減らすように誠実に努力する建築会社がある一方、何も対策を講じていない業者が多いため、施工不良はまだまだ多いのです。

不動産会社は必要ないと言うが、実態を知れば、必要だとわかる

新築物件の購入検討者が、不動産会社(売主または仲介業者)にホームインスペクションを入れるかどうか相談すると、「新築だから大丈夫。必要ありません」とか、「新築で依頼する人なんてほとんどいない」と言われることがあるようです。

しかし、施工不良が生じる根本原因を挙げたように、建築・住宅業界の現場レベルでは、問題が山積しており、とても必要ないとは言えないでしょう。インスペクションを実施すると、何も指摘が無い住宅は少なく(軽微な指摘を含めた場合)、購入判断に影響を与えるような大きな指摘が見つかる住宅も少なくありません。

インスペクションの実績が豊富なアネストでは、指摘事例について、以下の見解を持っています。

軽微な指摘ほとんどの現場で指摘がある
中程度の指摘5~10回の検査に1現場程度
重大な瑕疵の指摘10~20回の検査に1現場程度

また、新築で依頼する人なんてほとんどいない」との説明は事実ではありません。アネストだけでも、毎日のようにインスペクションを実施しており、非常に多くの人が利用しているという事実があります。

新築向けホームインスペクションの調査内容

新築向けの調査内容

新築住宅向けのホームインスペクションでは、どのような調査が行われているのでしょうか。その調査内容を紹介します。

調査対象の前提

一般的なホームインスペクションの調査の前提を把握しておきましょう。プロが行うインスペクションでは、建物の構造耐力や性能、機能に影響がある施工不具合の有無を診断しています。逆に言えば、これらに影響がない見た目だけの問題(傷や汚れ、多少の隙間など)は、指摘対象とはなりません。

傷や汚れなどを指摘してはいけないということではなく、プロが見るべきは、もっと専門的で且つ大事な項目だということです。傷・汚れなどは、買主が気になるところを自分自身で確認して指摘するとよいでしょう。つまり、全てをプロに任せきるのではなく、セルフチェックも必要だということです。

一級建築士

傷や汚れといった表面的なことは、プロではなくても確認できることです。自分で確認できることは自分で、プロでないと判断が難しいことはプロに任せる、つまり役割分担するイメージです。

完成物件

新築の完成物件(建売住宅や注文住宅の完成後のタイミング)では、基礎のひび割れ・欠損、外壁のひび割れ・欠損・シーリングの破断、バルコニー周りの防水施工の状態、床・壁の傾き、室内壁・天井のひび割れ、室内建具・サッシの動作状況、キッチン・トイレ・洗面・浴室など水周り設備の動作状況、床下(基礎・土台・床組み・配管・断熱材)の状態、屋根裏(小屋組み・野地板・断熱材)の状態などが確認対象です。

調査方法は、目視および触診、打診、計測(傾斜・含水率)です。

目視できる範囲、手が届く範囲が対象であり、完成物件では隠れて調査できない範囲もあることを理解しておきましょう。より詳細なチェックポイントは以下を参照してください。

建築途中

建築途中に行うホームインスペクションでは、完成物件なら隠れて確認できないところまで調査できることが大きなメリットです。

ただし、広範囲に検査を希望する場合、検査回数が増えるため、インスペクション費用も高くなります。検査回数が多いほど高くなるわけですが、50万円以上をインスペクションにかけている人も少なくありません。検査項目を抑えて、基礎配筋(底盤)・基礎型枠時(立上り)・構造躯体・防水・断熱・完成の6回に絞ったとしても、30万円以上はかかります。

とはいえ、費用がかかるだけ、完成後では確認できない範囲で、且つ大事なところまで確認してもらえるメリットは大きいです。依頼せず、入居後に欠陥工事問題が生じて後悔するよりも、安心を買っておく意味で効果が期待できるでしょう。

ホームインスペクションを新築住宅に入れるときのタイミング

新築住宅に対してホームインスペクションを入れるタイミングについて、紹介します。

契約前と建築途中のインスペクションがオススメ

ホームインスペクションを実施することで、建物に致命的な問題が見つかることがあります。そういった施工ミスなどが見つかったなら、補修対応ではなく、購入を中止したいと考える人は多いです。契約後でも、見つかった施工ミスの程度・内容などによっては、契約解除の上で支払った手付金の返金をしてもらえる可能性はあるものの、その交渉過程で時間と労力の浪費で疲れてしまうこともあるでしょう。

そういう意味で、ホームインスペクションは、契約を締結する前の利用が最もお勧めです。調査結果を見てから、購入するかどうか判断するということです。

もう1つお勧めのタイミングは、建築途中(工事中)の利用です。完成後では見られなくなる範囲まで検査しておくことで、永く安心して生活できる場を手に入れやすくなるでしょう。

契約後・引渡し前でも効果は大きい

インスペクションは、契約前に入れなければダメだとまでは言えません。購入することを決めているので、契約を先に済ませてから、引き渡し前のタイミングで利用するのも1つの選択肢です。

また、契約前の時点では、完成の少し前のため、インスペクションを入れても中途半端な確認範囲となってしまうケースもあるので、その場合、完成を待ってから利用することもあります。完成を待つ間、他の人に先に買われてしまうリスクを考えて、先に契約しておくわけですね。

契約後であっても、施工不良などが見つかれば、不動産会社や建築会社に指摘して補修してもらうことはできます。

ちなみに、契約後・引き渡し前のタイミングでホームインスペクションを行う機会のことを内覧会と言うことも多いです。売主側から、内覧会の案内があれば、インスペクション業者に依頼するかどうかも検討しましょう。

契約前を勧めない業者は信頼できない

契約後でもインスペクションヲ利用する価値があることを紹介しました。とはいえ、最もオススメできるのは、あくまでも契約前のタイミングです。

一部のインスペクション業者では、契約前の実施を案内することもなく、当然のように契約後にすべきものだと案内していることがあります。しかし、それは、消費者にとって最も望ましいタイミングではないことも少なくないため、買主側できちんと考えて判断する必要があります。契約前か契約後か、いずれのタイミングで実施すべきか相談して、契約前を勧めない業者には注意しましょう。

契約前の方が契約後よりも、不動産会社が嫌がることが多いですが、買主にとっては人生を左右しうる大きな買い物ですから、遠慮せず、契約前の実施を目指して交渉してください。

新築一戸建て住宅診断(建売のホームインスペクション)

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
住宅
ホームインスペクション

住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。