「今の住宅は、部材を工場で作っていて工業化された製品だから安心です」
これもよく聞く話ですが、本当でしょうか?
今回のコラムでは、工場生産と安心の関連性について書いてみます。
工場で住宅の部材を加工・生産
確かに現代の住宅では、工場で多くの部材を加工・生産しており、それを現場で組み立てていく作業が多くなっています。このことから、営業マンから、安心だと説明を受けているようです。
工場生産は、コストを抑えることに成功し、住宅供給者にも購入者にもメリットとなっています。
しかも、工場生産は一部の大手企業だけが恩恵を受けているわけではありません。地域の工務店も、その製品を仕入れて利用することができるからです。
地域の工務店は、大手企業に比べれば、まだまだ現場で行う作業も多いですが、以前に比べれば作業量が減り、恩恵を受けているのです。
「工場生産 = 安心」は本当か?
工場生産により、住宅の建築について安心してよいか、先に結論を言えば、現実はそうではありません。
アネストが行うホームインスペクション(住宅診断)でも、多くの指摘箇所(=是正すべきもの)が見つかっており、何も指摘が無い住宅の方が相当に少ないです。
時には納入時点での異常もある
耐火偽装事件などもありましたが、コントロールするのは人ですし、実際に現場に納入された製品(部材)を現場でチェックすると欠損など不良品もあります。そもそも間違った部材が納品されていたこともあります。
しかも、不良品を返品してもう1度、納品するのを待っていてはその現場に取られる日数が増えてしまい非効率になるためか、現場の職人は納品された部材が不良品だとわかっていても、そのまま使用しているところを弊社の検査で何度か目の当たりにしてきました。もちろん、これは是正対象です。
これは、現場の職人が易い報酬で工事を請け負い、コストダウンを強いられていることにも起因していると考えられます。
現場で組み立てるだけではない
その部材を現場で組み立てる「だけ」というイメージをお持ちの方も少なくありませんが、それは誤解です。
以前に比べて現場で行う作業量は減ったのは事実ですが、簡単に組み立てるだけというわけではありません。巨大なプラモデルを作るくらいのイメージでは、大きな誤解があるというものです。
技術力の低下
技術不足や手抜き工事が検査で発覚することは少なくありません。現場で行う工事が以前より簡素化されることで、技術力の低下を嘆く業界人は多いですが、簡素化された後の工事も適切にできない職人が増えているのが現状だと言えます。
親方から若手へ着実に技術をつないでいくということが難しくなっており、一部の工務店が職人の社員雇用と教育などでしっかり対策しているものの、多くの工務店は有効な対策を打てないでいます。
まとめ
工業化された製品自体が完全なものではなく、納品時に問題が生じることもあるし、コストダウンの影響や、さらには職人の技術力も低下している。これが現実です。
何よりも、住宅部材の工場生産が当たり前になった現代であっても、全国で新築住宅の欠陥問題が無くならないことが、現実を示しているでしょう。
これらから、「工場で作られる=安心」という発想が誤りだとおわかりではないでしょうか。
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執筆者
- 2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。