中古住宅を売買するとき、買主および売主がホームインスペクション(住宅診断)を利用することがよくあります。買主と売主がそれぞれの目的のために利用するようになったのですが、そのインスペクションを行う業者を不動産仲介業者が紹介または斡旋することもあります。
不動産会社が斡旋などをすることによる弊害が一部で生じて問題となっていますが、それはホームインスペクションの第三者性の重要性を示す話でもあります。
この記事では、中古住宅のホームインスペクションを買う人や売る人向けに、インスペクションの基礎知識を紹介した上で、不動産業者による斡旋・紹介のメリット・デメリット、売主と買主の立場の違い、ホームインスペクション業者を探すときは第三者性を重視すべきことを解説しています。
中古住宅のホームインスペクションの基礎知識
中古住宅のホームインスペクションとは、主に中古住宅(一戸建て・マンション)を売買する際に、その物件の購入検討者や売主が利用するもので、調査時点における建物の劣化状態を部位ごとに診断するものです。では、中古物件のインスペクションについてもう少し詳しく説明していきます。
中古住宅の定義
中古住宅は、誰かが使用したことがある住宅または誰も使用したことがなくても築後1年超が経過した住宅を言います。築後1年以内で、且つ誰も使ったことがないものは新築住宅となります。
中古物件のホームインスペクションを行う者
中古住宅に対してホームインスペクションを行う者は、建物の知識や設計・監理・検査などの経験がある専門家ですが、既存住宅状況調査技術者(国交省が指定した機関の講習を修了した者)の資格を持っています。そして、この既存住宅状況調査技術者の講習は建築士の資格がないと受講できないため、建築士でもあるということになります。
中古住宅のホームインスペクションは、一般的には国交省が規定した既存住宅状況調査方法基準でいう既存住宅状況調査、宅地建物取引業法でいう建物状況調査に該当しますが、既存住宅状況調査技術者ではない無資格者が行うものはこれらの調査に該当しないこととなるので、注意が必要です。
調査範囲は目視可能な範囲
ホームインスペクションの対象となる調査範囲は、原則として調査時に目視できる範囲です。この範囲には、床下や屋根裏で目視できる範囲も含まれています。
ただし、床下と屋根裏の内部まで進入して調査するかどうかは、基本的には依頼者が選択できることが多く、希望した場合で、且つ内部の奥まで進入できる場合は、調査範囲が広範囲に広がる一方で費用が高くなります。床下も屋根裏も基礎・土台・配管・断熱材などの大切な部位を確認できるため、調査依頼を希望することを推奨します。
インスペクションの費用相場
中古住宅のホームインスペクションを依頼するときに必要な費用は、対象物件の規模(大きさ)・所在地・床下と屋根裏の調査の有無などの条件によって大きな違いがありますが、5~14万円くらいの範囲であることが一般的です。
依頼範囲 | 費用(料金) |
---|---|
基本調査 | 4~8万円 |
床下調査 | 1.5~3.5万円 |
屋根裏調査 | 1.5~3.5万円 |
詳細報告書 | 0~1万円 |
安い業者に依頼したいと思いがちですが、調査範囲が限定されることや、診断担当者(=ホームインスペクター)の経験・能力に疑問がある確率が高まるので、値段だけで選ばないように注意しましょう。
不動産仲介業者の斡旋・紹介のメリットとデメリット
中古住宅でホームインスペクションを利用しようとした際、不動産仲介業者から「知っている業者を紹介しますよ」と言われることがあります。これには、メリットもあるものの、デメリットやリスクもあるので、これらについて説明します。
不動産仲介業者が紹介するホームインスペクションが増えた
ホームインスペクションを利用することは、そう何度もあるわけではないため、どこに依頼すべきか悩むと言う人やそもそもインスペクション業者の探し方がわからないという人が多いです。
また、宅地建物取引業法においても、不動産会社がホームインスペクション業者を紹介・斡旋することを禁止しておらず、むしろ紹介・斡旋を希望するかどうか、売主や買主へ聞くこととしています。つまり、紹介・斡旋を堂々と行ってよいこととしています。
売主にとってのメリットとデメリット
売主にとっては、不動産会社が紹介・斡旋するなら、自分で業者探しをする手間が不要となるので便利です。インスペクション業者への問合せ・お見積りの確認・日程調整まで対応してもらえることもあります。
売主にとってのデメリットは、大きなことはありませんが、一部では不動産会社が紹介・斡旋した診断結果について買主から客観性に欠けると指摘されることがあります。
買主にとってのメリットとデメリット
買主にとってのメリットも売主の場合と同じく、業者への問合せ・お見積りの確認・日程調整まで対応してもらえることにあります。つまり利便性ですね。
買主にとってのデメリットは、調査の客観性の問題で調査結果について信用しづらいことがあることです。なぜ、客観性が低いかといえば、紹介者である不動産会社の立場にあります。
不動産仲介業者は、その住宅を売ることで仲介手数料を得るビジネスですから、売主と同じ考えです。詰まり売りたいという考えです。
一方で買主はその物件に関する有益な情報をできる限り多く得てから、慎重に購入判断したい立場ですから、売主や不動産仲介業者と買主は立場の違いがあると言えます。
売主と買主は立場が違う
売主の立場から見れば売れればよいので、不動産業者の斡旋・紹介で診断しても構わないでしょう。売った後の問題にはほとんど関心をもっていません。
それに対して、買主の立場でみればホームインスペクション(住宅診断)が適切に実施され、買主の立場で診断結果を報告やアドバイスしてもらうことが最も重要になります。
不動産業者の斡旋・紹介であれば、無料や格安でホームインスペクション(住宅診断)を利用できることがありますが、その診断結果が買主にとってメリットのあるものかどうかは疑問があります。
売りたい人(=不動産業者)と買う人とでは、ホームインスペクション(住宅診断)の診断結果に求めるものが真逆になることもあるわけですから、買主は自分自身で費用負担して買主の味方になってくれる会社に依頼しなければなりません。
アネストが経験してきたなかでも、不動産業者の斡旋するホームインスペクション(住宅診断)の結果に問題があった事例がいくつも確認されています。見落としか意図的なものか不明なものもありますが、意図的に診断結果の表現をやわらくしたものもありました。
ホームインスペクション業者は第三者性を重視すべき
不動産業者から仕事を斡旋してもらうホームインスペクション会社は、その不動産会社からの斡旋がなくなれば経済的に、経営的に困ります。それだけに、不動産業者に嫌われては困る立場です。その会社にとってのお客様は、物件の買主ではなく不動産業者であることが明白です。
不動産会社が、買主に代わってホームインスペクション業者へ問合せすることは少なくありませんが、そのなかには、「あまり細かく診ないでほしい」などと言ってくる不動産会社の担当者もいます。そういう意図を汲んでくれる業者を探しているようです。
一生に何度も無い大きな買い物をするときに必要なのは、本当の第三者のホームインスペクション(住宅診断)であることをよく考えて判断した方がよいでしょう。特に、このことは買主にとっては非常に大事です。
そのために、ホームインスペクション業者選びで大切なことは以下の3点です。
- 買主自身で費用負担すること
- 買主自身でホームインスペクション業者を探すこと
- 実績・経験が豊富なホーインスペクターに担当してもらうこと
中古住宅の売買に際しては、不動産会社がインスペクション業者を紹介・斡旋することを禁止していないため、これから不動産会社とホーインスペクターの癒着やそれによる被害の話が増えてくると懸念されます。自己防衛のためにも、自分でインスペクションを依頼するようにしてください。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。