中古住宅を買うときに気になる住宅の寿命と資産価値の話です。
中古住宅を購入する人にとって、買おうとしている住宅があとどれくらいもつのか、安心して住むことができるのかという点が気になるのは当然のことです。住宅の寿命は、一般的な人にとって大きな関心事ですし、それは資産価値にも大きく影響することです。
多くの人にとって、住宅という固定資産は、その人の全資産のなかに占める割合が大きいですから、寿命や審査価値について心配するのは当然のことだと言えるでしょう。
そこで、中古住宅の購入を検討している人を対象として、住宅の寿命や資産価値について解説します。
住宅の寿命(この住宅はあと何年もちますか?)
長く住宅に関わる仕事に携わっていますと、「住宅の寿命は何年ぐらいですか?」と聞かれることが多いです。住宅診断(ホームインスペクション)をしていると「購入希望の中古住宅があと何年もつかわかりますか?」と聞かれることも大変多いです。
住まいの寿命はそう単純な話ではない
この質問には、なかなかよい回答はありません。
住宅の寿命といってもどの状態になったときをダメだと判断するかは個人差が大きいものだからです。
街中を歩いていると、見るからに非常に危ない状態の建物であるにも関わらず、そこで生活している人もいます。逆に、まだまだ使用できる状態でも、早々に建替えされる方もいます。全ての方にとって共通の住宅の寿命はないと考えるべきでしょう。
住宅診断(ホームインスペクション)を検討している方から、「あとどれぐらい住宅がもつかわかりますか?」と質問を受けたいときには、「考え方には個人差があって一概には言えない。ただ、今の状態が築年数相当のものであるか、もしくは築年数のわりに状態が悪い(劣化が激しい)ものであるかは判断できる」とお伝えしています。
住宅の寿命というものは、そう単純なものではないからです。
メンテナンスに投資・手間をかけることが住宅の寿命を長持ちさせる
築30年程度の住宅であっても築年数相当の建物の状態であれば、あとはどれだけメンテナンスにコストや手間をかけるかによって、住宅の寿命は延ばせるものです。
住まいを定期的に点検して、早め早めに建物の状態を把握し、そのときの状態に応じて早めに修繕を繰り返していくことで、良い状態で長持ちさせることができるのです。
それには、コスト(費用)もかかりますし、手間もかかります。このコストや手間を惜しむと寿命が縮み、かえって損をする可能性が高まります。購入する時点で築年数相当であるかどうかは重要なチェックポイントです。
住宅の寿命は30年と聞くけど本当か
日本の住宅の寿命は、ずばり30年だと言う人もいます。インターネットでいろいろな情報を見ているとそれくらいの年数を記載している意見も見かけます。
しかし、前述したように、寿命をそんな簡単に、単純に論じるのはおかしな話です。新築するときに、耐久性の面で性能差が大きい住宅もありますし、その後の使い方やメンテナンスのレベル差が大きいこともあるからです。
また、税務上の耐用年数を例に出して寿命を論じるケースもありますが、この耐用年数は建物の実際の寿命(あと何年もつか)を考えるときには全く参考になりません。税務上、何年で償却するか計算するときに使うものであり、本当の寿命とは無関係だからです。
木造住宅でも、適切に点検・メンテナンスを繰り返していけば、50年程度は安心して使えることが考えられます。ただし、古い年代の中古住宅は、耐久性よりも耐震性に問題を抱えていることが多いので、耐震診断や耐震改修を考える必要はありうるでしょう。
中古住宅の購入と資産価値
次に資産価値という点でもお話しておきます。
ずっと住み続けるのであれば、資産価値についてあまり深く考えなくてもよいことのように思えるかもしれませんが、想定外のライフイベント(離婚・死亡・介護・転職など)に起因して、購入したマイホームを売却したり賃貸したりすることは意外と多いです。
それだけに、資産価値は考えておく方がよいでしょう。
資産価値(=売れる金額?)と将来予測の難しさ
資産価値という言葉を住宅購入者が使用するときには、いろいろな意味で用いているように感じますが、今現在の売買価格や将来の売買価格といった売買価格に関することをイメージしていることが多いようです。
今現在の売買価格は、不動産会社で査定される金額や実際に取引される金額ということになりますが、将来の売買価格となると非常に難しいです。将来の価格は、そのときの経済・市場動向やその地域の変化(発展・衰退など)による影響を大きく受けることがあり、それらは予測困難なことも多いからです。
住宅診断(ホームインスペクション)が影響する可能性
最近では、住宅診断(ホームインスペクション)を利用することが多くなり、不動産業界内でもかなり浸透してきましたので、建物の価値を見直す1つのきっかけとなり、これが資産価値に影響を与えていく可能性も十分にあるでしょう。
診断結果に応じたメンテナンスをしていくことは、建物の資産価値の維持にプラスになることも期待できるからです。
しかし、基本的には建物が古いほど建物の資産価値は下がっていくものであり、その傾向はまだまだ続くでしょう(海外では古いものほど価値があると考えて価格が維持または上がることもある)。
日本でも、一部のマンションでは新築当時よりも価格があがっていることもありますが、それは一部に限られます(立地のよい高級なタワーマンション等に見られる)。現実的には資産価値は下がっていくものだと考えておいたほうがよいでしょう。
土地の資産価値は建物より安定
ただ、建物と違い土地には新しいとか古いといった考えはありませんし、実際に経過年数が理由で資産価値が下がることはありません。立地による影響が非常に大きいものですので、資産価値を重視するのであれば立地には注意しましょう。
立地といえば、利便性が思い浮かびますが、それだけではなく浸水履歴などをハザードマップで確認しておくことをお勧めします。集中豪雨などで被害にある住宅もありますが、その事実が将来の売買に影響することもあるからです。
日本の住宅の寿命は延びていく
欧米に比べて寿命が短いとされていた日本の住宅ですが、耐震性・耐久性を高めた住宅が多く供給されるようになってきたこと、建物の維持・管理への意識が高まってきたこと、ホームインスペクション(住宅診断)の利用が普及したことなどから、今後は、寿命が延びていくと予想されます。
今の日本の住宅市場は、30年程度で建て替えることが多かった時代から、建物をリフォーム・リノベーションしながら、長く使っていく時代へと変化していくところです。古いからダメだという安易な考え方から抜けつつあるのは、物を大事にすることや環境面においても消費者の支持を得ていくでしょう。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。