新築住宅を建築するとき、着工から完成に至るまでの工期(=工事期間)は大切なものであり、短すぎると施工不良が多発することもあるので、施主としては建築会社(工務店)を焦らせることのないようにしないといけません。
しかし、施主の立場としては、工期だけではなく、着工時期についても大切なものです。着工の遅れは、完成や引渡し、さらには引越し時期まで遅らせる可能性がある小さくないトラブルだからです。
アネストでは、新築一戸建て住宅の着工から完成までの間を第三者の一級建築士が検査する住宅あんしん工程検査というサービスをしていますが、その依頼者からもたびたび着工が予定より遅れていると連絡をいただくことがあります。ときには、「いつまで経っても工事が始まらない」とか「もう1年くらい伸びている」という声まで聞くことがありました。
着工の遅れには、それぞれのケースで様々な理由があり、建築会社の責任であったり、建築・住宅業界の一時的に特別な事情であったりしますが、施主側に責任があることも見られます。
今回は、新築住宅の工事請負契約をしたものの、着工が遅れている人を対象として、着工遅延によるリスクや遅れる原因、遅延への対処方法を紹介します。
なお、着工は予定どおりであっても、工事着手後に工事が遅延することもあります。その場合は、「新築住宅の着工後に工事が遅延して引渡し日に間に合わないときの注意点」をご参照ください。
新築工事の着工遅れによるリスク
最初に、施主にはぜひ知っておいて欲しい新築工事の着工遅れによるリスクを施主側の目線で紹介します。リスクを知っておくことは、予防方法を考えるきっかけにもなるので、理解しておいてください。
完成と引渡し、入居が遅れる
新築工事の着工が遅れるということは、棟上げの時期も完成時期も引渡し時期も全て遅れていく可能性が高くなります。引渡しが遅れれば、当然ながら入居できる時期も遅れてしまいます。最初につまづくとその後の状況次第で大きなトラブルへと発展してしまうこともあるわけです。
着工遅れとなることがわかれば、全体スケジュールを再検討する必要がありますね。
自宅の建て替えなら仮住まいの家賃が増える
それまで居住していた自宅を建て替えようとして、着工の直前に一時的に退去して仮住まいへ移転した後、何らかの原因によって着工が遅延することになり、引き渡しや入居まで遅れると、予定していた以上に仮住まいの家賃負担が増してしまう可能性があります。
この場合、施主としては経済的な被害が生じることになり、決して小さくないリスクです。
建築工事を急いで施工不具合・瑕疵が増える
住宅検査をしていると、着工の遅れを取り戻そうとした建築会社が、施工を急いでしまった結果、数々の施工不良が起こるという問題に何度も遭遇しました。普段よりも工期を短くして、雑な工事、手抜き工事になってしまうことがあっては、施主にはデメリットでしかありません。
無理な工程を組むようなことだけは避けてほしいものですし、工程は適切な期間を考慮して計画すべきでしょう。
新築住宅の着工が遅れる原因
着工時期は、建築会社側が守れない日程を提示することは普通ならないことなのに、なぜ、実際に着工遅れが多発してしまうのでしょうか。その遅れによって迷惑を被るのは、多くの場合は施主ですから、そのようなことにならないようにしてほしいものですね。
ここでは、着工遅延の原因となっていることを紹介します。このような可能性が高そうだと感じれば、契約する前に発注先を見直すことも考慮してみましょう。
建築業界の慢性的な職人不足で職人を手配できない
住宅・建築業界では、慢性的な人手不足となっています。特に、現場技術者、職人の人材不足が言われ始めて長いです。若手人材の育成に苦労し、外国人労働者の普及ペースも遅く、今後はますます人手不足が酷くなると予想されています。
そのなかでも人手を確保できている建築会社とそうではない会社があるわけですから、業界の人手不足問題を理由とした着工遅れは、建築会社側の責任も小さくはないでしょう。
下請け業者からの信用不足で職人が見つからない
建築業界では、信用を失うと通常業務に支障をきたしてしまい、ついには倒産してしまうことはよくあることです。下請け構造で成り立っている業界ですが、下請けへの支払いが滞るようなことがあれば、新たな仕事を請け負ってくれなくなるのは想像できますね。
施主と建築工事請負契約をするところまで話を進めたものの、その建築会社(元請け業者)の信用不足により、施工の担い手を確保できないというケースもあるのです。これに該当する場合、たとえ着工したとしても建築途中で倒産してしまうリスクも高いため、業者変更を考慮すべきでしょう。
同時期に着工する新築住宅が多くて人手不足
それぞれの建築会社には、同時期に着工する棟数には上限があるものです。着工時期が重なることで、一時的な人手不足となり、着工が遅れることがあります。
しかし、本来ならば、そういった自社の許容受注量を考えながら、施主と契約すべきであり、きちんと管理できていなかった建築会社の責任はあるでしょう。
下請け業者は、特定企業の下請けだけをしているとは限らず、様々な会社から仕事を請け負っていることが多く、各社との関係次第で優先的に工事に着手するとか、しないということもありえます。こういった点のコントロールも本来ならば建築会社(元請け業者)の役割です。
建築資材・設備の大幅な納品遅れ
建築資材や住宅設備機器は、各メーカーが市場動向を確認しながら生産体制を整えており、普段は納品が大きき遅延するということはそう多くあるわけではないです。しかし、これまでも自然災害や海外情勢によっては、生産体制に大きな影響を及ぼして、納品が間に合わないということがありました。
これは、ある程度はやむを得ない事情にあたることが多く、施主としても許容せざるを得ないことと言えるでしょう。
設計に想定以上の時間がかかっている
注文住宅なら、着工する前に施主と設計者(または建築会社やハウスメーカーの担当者)との間で建物プランについて打合せを重ねていき、プランを決めていくわけですが、その設計作業に想定以上の時間を費やすこととなり、着工遅延につながることがあります。
これは設計の遅れとも言えますが、設計の遅れの要因は、施主側にあることも少なくありません。住宅への希望条件・要望を繰り返し変更することや、最後の確認段階でプランの練り直しを要求することは、施主側の要因による部分が大きいので、結果的に着工遅れとなることを施主も許容しているでしょう。
ただし、設計の最終段階における設計ミスの発覚や設計者の急な退職といった設計事務所や建築会社側の責任問題もあるので、都度、内容次第で責任の所在を確認しましょう。
建築確認申請に想定以上の時間がかかっている
住宅に限らず、建物の着工前には、一部の地域を除いて建築確認申請の手続きをとらなければなりませんが、その申請手続きに想定以上の時間を費やしているという事例もあります。申請したプランではスムースに確認がおりず、訂正等が生じることがあるのです。
これは、その要因次第では、設計者や建築会社の不手際ということもありますが、施主には自分たちのミスであることを説明していないケースも見られます。
近隣との境界確定が進まない
住宅などを新築する前に、隣地や道路との境界を確定させることがあります。隣地の所有者の現地立会いの下で、土地の境界の位置を確定させる作業です。しかし、境界位置が目視でわかりづらい場合や過去の隣地とのトラブル次第では、境界確定に協力してもらえず、なかなか確定できないということがあります。
境界を確定できないと建築できないというわけではないものの、後々のトラブルを抑制するためにも確定させておくことが望ましいです。
契約前と着工時に取るべき着工遅延への対策(対処方法)
最後に、新築住宅の着工遅延への対象方法を紹介します。対処方法には、建築会社との契約前の段階ですべきことと、着工遅れが発覚した段階ですべきことがありますが、その両方を紹介しています。
建築工事請負契約書に着工日を明記しておく
住宅を新築する工事の契約のことを建築工事請負契約と言いますが、その請負契約書のなかには、必ず、着工日を明記してもらってください。建築会社(工務店)によっては、あえて着工日を不明瞭にしておき、自分たちの都合でどんどん着工日を遅らせていくということがあるからです。
契約書できちんと明記しておくことで、不当な着工遅れを抑制する効果が期待できますし、着工遅れによる完成遅れが生じた際には損害賠償金を請求しやすくなります。
また、着工日だけではなく、完成日の明記も忘れないでおきましょう。
建築工事請負契約書で遅延損害金を取り決めておく
建築工事請負契約書では、着工日や完成日を明記するのと同じく、遅延損害金を明記しておくことも大事です。こちらは、着工時期の遅れに対する遅延損害金というよりは、完成日・引渡し日の遅れに対して生じる違約金です。その金額の計算方法を明記する方法が多いです。
着工時期の遅延期間次第で契約解除できる契約とする
施主の皆さんからいろいろなお話を聞いていると、本当に驚くほど着工遅れとなっているケースがありますが、建築会社からは「契約解除すると違約金を請求する」と言われていることがあります。施主が迷惑を被っている側なのに酷い話です。
こういったリスク、トラブルを抑制するためには、たとえば、着工日を3ヵ月経過しても着工していないときは契約を解除できるなどといった条件を入れておくとよいでしょう(期間は当事者で話し合ってください)。
入居までのスケジュールにゆとりをもっておく
施主側がぜひ考えておいて欲しい対処方法の1つは、入居までのスケジュールに充分なゆとりを持っておくことです。建築会社やハウスメーカーには無理なく可能な範囲で急いでほしいと要望を出しておくのはよいですが、入居日がある程度は遅れても対応できる全体スケジュールとしておくことは大変重要です。
新築住宅の建築工事では、着工遅れの問題だけではなく、着工後の問題で工事遅延となることもよくあるからです。着工遅延や着工後の工事遅延はよくあることだと認識しておいてください。
着工遅延を確認次第、建築会社に理由の説明を求める
同時期の着工案件が多くて、建築会社が対応に苦慮しているとき、「そんなに急がないので大丈夫です」という施主はどんどん後回しになり、いつまでも着工してくれないという事例がありました。
急がないとはいえ、建築会社への適度なプレッシャーが必要なこともあります。着工遅れが発覚した段階で、まずはその理由の説明をきちんと求めていくことで、最初に適度なプレッシャーを感じてもらえる可能性がありますし、理由を把握することで安心できることもあるでしょう。
新居への入居時期と現自宅の退去時期を早めに再調整する
着工が遅れるとわかった段階で、一度、入居までの全体スケジュールスについて考えなおすことも必要です。遅れの程度にもよりますが、入居時期をいつ頃とするか再調整しましょう。新居へ移るまでの間、賃貸住宅に居住しているなら大家と退去時期の変更なども調整するようにしましょう(退去を通知済みの場合)
建築会社に無理な工程を組ませない
入居・退去のスケジュールを見直しつつも、新居の工事進捗も気になるところですね。着工遅れを取り返してもらうために、建築会社を急かしてしまい、無理な工程(=工事スケジュール)を組まれることのないように注意してください。
工事を急ぐことは、雑な工事、手抜き工事へとつながってしまうリスクもあり、施主としては望ましくない結果になりえるからです。
建築工事の品質確保のためにホームインスペクション(住宅検査)を入れる
今では、新築住宅の工事品質を保つため、また欠陥工事から守るため、第三者のホームインスペクション(住宅検査)を依頼する人が多いですが、着工遅れが生じた現場では、その理由次第で建築会社側への信頼が揺らいでしまい、ホームインスペクションの利用を考える人がより多くなりがちです。
ここで重要なことは、建築会社が手配する住宅検査会社ではなく、施主が自分で探してきて依頼することです。建築会社の紹介や依頼では客観性が担保的ないことがありうるからです。
多少の着工遅れで騒がない
長く住宅業界にいると、着工遅れや工事遅延が頻発していることが当たり前にさえなってきますが、本来はよいことではありません。こういった遅延に対して、施主の立場として起こりたくなるのは当然に理解できることです。
しかし、一方で様々な事情を抱えて各社が営業しているなかで、どうしても多少の遅れが生じることもあるわけですので、施主としては多少の着工遅れには許容できる気持ちも必要です(大きな遅れは別です)。そのために必要なことは、やはり前述した「入居までのスケジュールにゆとりをもっておく」という対応です。
多少の遅れで騒がなくてよいように、そして建築会社には適度なプレッシャーを感じてもらいつつ、良い関係を構築しながら新築工事が進んでいくとよいですね。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。