2000年以降、徐々に日本でもホームインスペクションの利用・活用が浸透していき、2018年4月より施行された宅建業法(改正)では、中古住宅の売買時にインスペクションについての説明・紹介等の告知が不動産会社に義務化され、より浸透しました。
今では、新築でも中古でも住宅売買の際には当たり前のように利用されるようになったホームインスペクションですが、売買時以外にも活用されることは多いです。
どんなときにインスペクションが利用されるのか、どのような目的で活用されているのかについて、紹介しますので、皆さんもより有効に活用することができないか考えるきっかけや判断材料としてください。
ホームインスペクション(住宅診断)とは?
ホームインスペクション(住宅診断)の基礎知識を紹介しておきます。
住宅インスペクションで建物の状態を把握できる
ホームインスペクションは住宅の建物を対象としたものであり、土地の調査ではありません。建物の施工状態や劣化具合をホームインスペクターとも呼ばれる建物診断のプロに診てもらい、その調査結果を報告書という形で受け取るサービスです。つまり、診断時点における建物の状態を把握できるということです。
補修すべき箇所の判断やメンテナンスの参考にできる
建物の状態を把握することで、補修すべき箇所を知ることができますし、すぐに補修しなくても将来のメンテナンス(維持・修繕)に活かすこともできます。
つまり、ホームインスペクションは、建物状態を把握し、その結果から次にどうするかを検討する、または参考にするための有効な材料となるものです。
ホームインスペクションのいろいろな利用目的
次に、ホームインスペクションが、実際にどのような目的で利用されているのか、多くの診断実績があるアネストのサービスの活用経験から紹介していきます。
建築中(工事中)
新築住宅を建築する途中、つまり工事中にホームインスペクションが利用されています。工事中は、基礎工事の段階から、構造躯体の工事、防水工事、断熱工事など、様々な工程で利用されるため、多い人なら10回以上の検査回数となっています。
アネストの検査実績では、8回程度の検査を依頼する人が多いですが、要望や予算などに合わせて回数や検査タイミングを組み立てることもできます。
リフォーム時(またはリノベーション工事)
リフォームまたはリノベーション工事をする際にホームインスペクションを利用することもあります。工事に着手する前に建物の現状を把握するためや、解体工事をしたところ、工事を進めていく途中、工事が完了した後と利用するタイミングは複数あります。できれば、解体後や工事途中の利用が望ましいですが、個々のタイミングについては、インスペクション業者に事前に相談しましょう。
住宅の購入前
新築住宅で完成物件を購入しようとするとき、または中古住宅を購入しようとするとき、その売買契約の締結前に利用されることは多いです。購入したい住宅の状態を把握して、不具合が多い、もしくは重大な不具合があるなら購入を中止しようと考える人は多いですから、当然の利用目的でしょう。
住宅の売却前
中古住宅の売買時には、売主がホームインスペクションを利用することもあります。建物の調査結果を提示することで買主に安心してもらう方が売りやすいのではないかという期待(販売促進が目的)もありますが、不具合を買主に知っておいてもらうことで、売却後のクレームや損害賠償請求を無くす(または減らす)ことを期待しているケースもあります。
売買契約後・引き渡し前
売買契約を締結した住宅について、引き渡しを実行する前に、利用することもあります。引き渡しとは、売主から買主に実際の使用権を写すことで、多くの場合、その日に売買代金の残金を精算し、所有権移転の登記申請を行います。
その引き渡し前に、建物の状態を確認して、施工不具合が見つかれば、売主に補修対応を要求します。なお、注文建築の家の場合は、建築会社(ハウスメーカー)に補修を要求することになります。
このタイミングでの利用は、新築住宅において多く見られますが、中古住宅でもありうることです。
買った物件の引渡し後・入居前
住宅を購入するとき、前述のように売買契約前や引渡し前にホームインスペクションを利用することが多いですが、契約前や引渡し前にその機会を設けられないときは、引渡し後に利用することもあります。このタイミングであっても、施工不具合などの問題が、売主や建築会社の責任によるところであれば、請求して補修などの対応をしてもらえることも多いです。
ただし、中古住宅の売買で、売主が不動産会社以外であれば、売主の契約不適合責任を付けていないと補修等の要求が難しくなります。
10年保証と新築住宅かし保険の対象期間が切れる前
新築住宅を建てたり、購入したりした場合、住宅の品質確保の促進等に関する法律によって、引渡し日から10年間は売主または建築会社に保証を義務付けています(保証の対象は建物の構造耐力および雨漏りを防ぐための部位)。また、同法律によって、売主等は、10年間の新築住宅かし保険に加入するか、供託することも義務付けられました(供託ではなく、かし保険に加入していることが多い)。
つまり、引渡しから10年を経過するまでに、建物の状態をチェックして、保証やかし保険の対象となるような不具合があれば、補修等の請求をする必要があるということです。
そこで、第三者のホームインスペクションで施工不具合の有無を確認するために利用することがあります。売主等に点検してもらっても利害関係の問題があるため、第三者に依頼することがあるわけです。
定期点検
住宅を所有すると、適切なタイミングで適切なメンテナンスをしていくことで、建物を長く良い状態を保つことを考えるべきです。これをするかしないかで、住宅の寿命が異なりますし、対応が遅れすぎることで、余計な費用までかかってしまうことがあるからです。
そのためには定期点検が重要であり、その点検としてホームインスペクションを利用すると有効です。
また、新築住宅を購入した場合、売主等によって、1年・2年・5年などの時期に定期点検をすることがありますが、売主等は大きな不具合が見つかったときには、その対応にかかる手間とコストを考えてしまうことがあるため、症状を過小評価することや黙っておくリスクがあります。
定期点検にも第三者第三がある方がよいと言えます。1年・2年などの定期点検を行うときの全てに第三者への依頼する必要性はないと言えますが、一度は利用するとよいでしょう。特に、新築時の契約および保証条件によっては、2年で保証が切れる項目もありうるので、2年点検時の利用は多いです。
長期優良住宅の定期点検
定期点検にも種類がありますが、ここでは長期優良住宅の定期点検をあえて別枠で紹介します。
長期優良住宅を購入した場合、その維持保全計画にのっとって定期点検をすることが義務づけられています。この点検は、建てたハウスメーカーがすることが多いですが、所有者がしてもかまいません。しかし、ハウスメーカーは利害関係がありますし、所有者には建築に関する専門知識・経験がないことが多いですから、第三者の専門家にホームインスペクションを依頼することがあります。
また、その住宅を建てた工務店が倒産していると、自分以外に点検してくれる人がいないことになるため、そういうときにも利用することがあります。
最初の5年目や10年目に依頼する人が目立ちます。
売主が倒産したとき
購入した住宅の売主や工務店が倒産した場合、そのような会社が建築した住宅が大丈夫か心配になることがあります。購入後、1~2年ですぐに倒産した場合、自分の家を建築中も資金繰りが悪くて大変だったのではないかと考え、より不安になりやすいのも理解できます。
そういったときに、念のため、早めに建物の状態を把握したいと判断して利用することがあります。
売主が不動産会社であった中古住宅を買ってから2年以内
中古住宅を購入した人で、その物件の売主が不動産会社であった場合、引渡し後2年以内のタイミングでホームインスペクションを利用することがあります。
その理由は、売主に引渡しから2年以上の契約不適合責任を負うことが、宅地建物取引業法によって義務付けられているからです。2年以上と書きましたが、ほぼ全ての取引において2年に限定されています(これは認めらえている)。
よって、契約不適合責任の期限を迎える前に、その対象となりうるような不具合がないかチェックしようということです。
実家等を相続したとき
実家などの不動産を相続したときに利用することもあります。
相続人がそこに長く暮らしていたのであれば、改めてインスペクションを利用することも少ないですが、そうではない場合、建物の状態について何も知らないことが多いため、それを売却するのか、賃貸するのかなどの次の対応を考えるための参考情報とするべく利用されています。
相続してから何年も経過した空き家の活用や処分をどうするか検討するための利用もあります。
所有する不動産を貸す前
所有する住宅を収益物件として賃貸する人も多いですが、賃貸する前に利用することがあります。貸すことで、借主から建物に関してクレームを受けることを少しでも抑えておきたいという理由です。調査結果次第で、補修工事をしてから貸すこともありますし、補修せずに、建物の状態を借主に知らせて承諾を得てから貸すこともあります。
賃借人が退去したとき
賃貸していた住宅において、賃借人(=借りている人)が退去した後に利用することがあります。一般的には退去する度に利用することはほとんどありませんが、使い方が悪すぎて建物の痛みが相当激しいときに利用されるケースがあります。
生活していて建物に不具合を気付いたとき
自ら居住している住宅において、生活するなかで、何らかの不具合・異常に気付いたときにホームインスペクションを利用することがあります。
たとえば、基礎や外壁に大きなひび割れがあるとき、傾きを感じるとき、漏水したときなどです。
これらの調査は、一般的なホームインスペクションではないため、各症状に応じて必要な検査内容を提案してもらう流れとなるでしょう。
利用回数が多いのは、購入時と建築途中
多くの利用目的などについて紹介してきましたが、そのなかでもホームインスペクションが多く利用されるのは、住宅の購入時(売買時)と建築途中です。この2点がダントツで多いです。
このタイミングは、住宅を購入または建築するために、多くの資金を投じることになるので、リスクを減らしたいと考える人が多いです。よって、当然のことだと言えるでしょう。しかし、購入時や建築時以外にも様々なシーンで利用されていることを知っておきましょう。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。