住宅の購入・新築・リフォーム・メンテナンスなどのために、ホームインスペクション(住宅診断)を活用することが普及し、多くの人が専門家に建物を診てもらうことが普通のことになりました。大事な資産である住宅を専門家に診てもらったりアドバイスをもらったりせずに、買ったり、売ったり、活用したりすることはもうすぐなくなるかもしれません。
それだけ普及してきたホームインスペクション(住宅診断)ですが、どの業者に依頼すればよいのか迷う人は多く、おすすめの業者を教えてほしいと考えることでしょう。なぜならば、そう何度も利用するサービスではないからです。
今の時点で、ホームインスペクションが何なのか知らない方は、「ホームインスペクションとは?」もご覧ください。
今回のコラムでは、これまでに蓄積してきた実績・経験や見てきた業者や業界動向から、一般消費者の皆さんがホームインスペクション業者を選ぶときにどういったポイントを見て判断すべきであるか、真剣に考えてまとめてみました。
おすすめできるホームインスペクション業者選びに際して見るべきポイントは、大きくわけると以下の8項目です。
- 資格は一級建築士が必須
- ホームインスペクション業者の第三者性
- 適切な価格設定
- 経験・実績
- プロフィールの公開
- コミュニケーション能力
- 少なくとも5人以上の組織であること
- ホームインスペクションの報告書
以上の8項目について、どうして大事なことなのか、どういったところに注意すべきなのかを以下で解説していきます。
資格は一級建築士が必須
ホームインスペクション(住宅診断)に関連のある資格はいくつもあります。民間が独自に作って運営している資格も多数乱立しており、その信頼性は不透明です。調査専門の資格を謳っているものの、明らかに能力に欠ける人も数多くいることも事実です。
能力や知識が不足していたとしても、建築業界の経験がそれなりにあれば、依頼する皆さんよりは詳しいでしょう。その場合、資格からその人や会社の能力を見極めることは一般の人には無理がありますから、あまり資格にとらわれるべきではありません。
一級建築士は必要最低限の資格
そこで、資格に関しては最低限必要なものを持っているかどうかをチェックすることに徹した方がよいです。それは、建築士の資格です。それもできれば一級建築士です。この資格は、後述する経験(住宅の設計や工事監理)を積むためにも必要なもので、その経験がホームインスペクションにも必ず活きてきます。
一級ではなく二級建築士が担当する業者もあります。木造なら二級というだけで不十分といわけではありませんが、様々な経験を積んでいくべきときに、二級よりも一級建築士に優先的に業務を任されることが多く、二級より一級の方が多くの大事な経験を積んでいることが多いのは事実です。
試験の難易度が一級と二級では全く違ってくるのですが、違いはそれだけではなく、業務を始めてからの経験値にもあるということです。
二級でもよい人はいますし、一級でも能力不足の人もいますが、一級の方が二級より能力の高い人が多いのは間違いない事実です。事前に個々の能力差を確認しづらいことや一級に担当してもらうことがマイナス材料になることがないこともよい参考になります。
以上のことから、何もあえて二級建築士に依頼する必要性はないですね。一級の人に依頼した方がよいでしょう。
中古なら既存住宅状況調査技術者も必須
中古住宅に関して言えば、既存住宅状況調査技術者という資格を持っていることも必須ですから、確認してください。この資格はおすすめの条件というよりも必須条件です。これは、2017年に創設された資格制度によるもので、まさに中古住宅のホームインスペクション(住宅診断)を行うためのものです。
この資格の講習において、国交省が規定する最低ラインの調査(これ以上は調査しなければならないとする調査項目等)を学んでいるはずです。実際には最低ラインの調査だけでは、情報不足なことが多いのですが、最低ラインを知っておくことも大事です。
一級建築士事務所でも担当者が二級建築士かも
ホームインスペクション業者によっては、会社としては一級建築士事務所として登録していても実際に現場へ来る担当者が二級建築士だと言うことはよくあることですから注意してください。会社に一級建築士が在籍して管理建築士になっておれば一級建築士事務所として登録できるのですが、担当者も一級とは限らないわけです。
依頼時には、現場を担当する者が一級建築士であることを確認した方がよいです。
ホームインスペクション業者の第三者性
ホームインスペクション業者を選ぶ際に最も注意しておくべき点は、第三者性です。これまでも第三者性については業界内で問題となってきたことで、インスペクション先進国でも問題視されていることですが、この1~2年で明らかに業界との癒着などの問題が増えてきました。
不動産業者や建築業者との癒着が横行
不動産業者や建築業者・リフォーム業者とホームインスペクション業者の癒着はどこの国でも問題になっていますが、日本でも例外ではありません。買主が依頼するのは一度だけですが、不動産業者等とホームインスペクション業者は常に業界内にいて隣り合わせにいるわけですから、いろいろな形で互いに関係を構築していくことがあります。
最も顕著なパターンは、不動産業者等がホームインスペクション業者へ依頼者を紹介・斡旋して、ホームインスペクション業者がその紹介に集客を依存するケースですが、これは、おすすめできない業者です。
本来ならば、ホームインスペクション業者にとってのお客様は依頼者であるはずです。依頼者のために役立つ調査をして調査結果を提示し、アドバイスしていく立場にあります。しかし、継続的に依頼者を紹介してくれる不動産業者等の機嫌を損ねてしまうと仕事がなくなる恐れがあるため、依頼者ではなく不動産業者等の顔色を伺うようになってしまうのです。
癒着した業者は、本来ならば、補修等の対応な必要な瑕疵や著しい劣化事象であっても、大きな問題ではないかのように報告することもあれば、何も報告しない事例まであります。しかも、こういった事例はどんどん増えており、不動産業者等からの紹介に依存していないアネストには被害にあった方からの相談も絶えません。
紹介する側と紹介してもらう側では、力関係がはっきりしていますから、どうしてもこのようなことになってしまいがちです。紹介してもらったお礼(謝礼)まで求める不動産業者もあるようです。
不動産業者等から紹介してもらうことなく(紹介されても断って)、自分で業者探しをすることが大事なのです。
リフォーム業者によるホームインスペクション(住宅診断)に要注意
癒着ではないですが、そもそもホームインスペクション業者がリフォーム業者でもあるというケースもあります。リフォーム業者がホームインスペクション業もやっている理由はシンプルで、これをきっかけにリフォーム工事を受注したいわけです。
昔から点検商法というものがありましたが、リフォーム業界は無料や格安で住宅を点検して、工事受注へとつなげていく営業手法が根付いています。これは、悪用しなければ何も悪いことではないのですが、実際には悪用しているケースが多いために問題となり、トラブルにもなっているわけですね。
たとえば、屋根の葺き替え工事を狙っている業者なら、屋根の診断をして「このままだと雨漏りするのですぐに葺き替えた方がいい」と営業するわけです。同じように、シロアリ駆除・改修や外壁工事、断熱工事などの工事を目的としたリフォーム業者によるホームインスペクションが多いので注意が必要です。
補修する緊急性がないことまで、依頼者を焦らせて工事を受注しようとしても、一般の皆さんには真偽がわかりづらく、後で後悔しても手遅れになります。
第三者性の見極め方
そのホームインスペクション業者が、不動産業やリフォーム業をしていないことを確認しましょう。もちろん、関連会社・子会社でやっていても同じことです。
ホームページを見ても明記していないこともあるため、「何か補修すべきことが見つかれば、リフォーム業者を紹介してくれますか?」と尋ねてみましょう。これに「第三者性を維持するために、工事を受注しないし業者の紹介もしない」と回答すれば大丈夫でしょう。
また、住宅の売買に際しては不動産業者から紹介されることもありますが、それで紹介される業者は前述したように不動産業者の顔色を窺う業者の可能性が高いですから、紹介を断って自分で探すとよいでしょう。紹介すること自体が悪いわけではなく、慣れあいや癒着という悪い副作用が強く心配されるからです。
住宅を購入して何か問題があっても、紹介した不動産業者もなれ合いの中で調査したホームインスペクション業者も責任はとってくれません。自分自身で責任をもった判断を心掛けてください。
適切な価格設定
ホームインスペクション業者選びの大事なポイントの1つに、診断料金の価格設定があります。他に比べて安い場合には、安いだけの明確な理由があるはずです。癒着や工事受注が目的であるならば、低価格になっていて、ホームインスペクションで適正な利益をあげようとせず、別のサービス(工事など)でもっと大きな利益をあげようとしています。
低価格は、癒着や工事目的のサインでもあるということです。
逆にサービスを提供する側の立場のことを考えてみましょう。優秀な一級建築士なら報酬は決して安くありませんし、インターネットで集客と言ってもそれなりにコストはかかります。社内チェック体制など最低限度必要な体制を整えるにもコストがかかります。
本来ならば、とても格安で提供することはできないはずです。
目安としては、基本調査だけで5万円前後~、床下や屋根裏などのオプション調査も依頼すれば10万円前後~といったところです。もっと高度な診断を依頼する場合にはオプション料金が追加されると考えておきましょう。
ホームインスペクションの費用については、「ホームインスペクションの費用はいくらかかるか」を参考にしてください。
経験・実績
ホームインスペクション(住宅診断)という専門職ですから、当然のことながら実績や経験も大事な要素です。経験といってもいろいろな種類が考えられますが、この業務を適切に遂行するうえで必要な経験とはどういったものであるか解説します。
ホームインスペクション(住宅診断)の経験
まず挙げられるのは、ホームインスペクションの経験そのものです。当然といえばそうなのですが、日本でのホームインスペクションの歴史は非常に浅い(2000年代になって普及しはじめて2010年頃から利用件数が大きく増えた)ため、この経験を十分に積んでいる人は少ないです。
よって、個人の経験値だけを重視しても難しいため、同時にその会社が多くの経験を積んで、それを活用したマニュアルや研修体制を整えているかどうかが重要です。少なくとも年間1,000件以上の診断を続けていること、そしてマニュアルや研修体制を持っていることを重視してください。
住宅の設計・工事監理の経験
住宅を調査する上で大事な基礎知識は、住宅の構造や建築現場のことを熟知していることが必要です。建物の成り立ちを詳しく知らないのに、ホームインスペクションを机上で学ぶだけで適切に実施できるほど甘いものではありません。
具体的に必要な経験とは、住宅の設計や工事監理です。特に、工事監理で現場を数多く見ていることは大変役立つことが多いです。この業務経験は建築士の資格がないとできないことですから、必然的に建築士の資格も必須ということになるわけです。
建築士として、工事監理をすることで現場の動きを見たり、様々な現場で起こるトラブルに対処したりしていくことがその人の技術能力になっていくのです。この経験はおすすめの条件の1つです。
建築・設計業界の経験が長いだけではダメ
経験に関してチェックするときに注意すべき点は、業界経験が長いかどうかだけを見ても意味がないというところです。建築業界がいくら長くても、その経験の対象となる建築物が住宅以外であれば、住宅のホームインスペクションにはそれほど役立ちません。
官庁施設や商業ビルなどの大規模建築物ばかり経験していても、木造や鉄骨造の住宅とは違いますから、経験を活かせないのです。経験を確認する際は、住宅に関する経験を重視してください。
プロフィールの公開
ホームインスペクション(住宅診断)を業として行う人にはいろいろな人がいますが、そのなかには普段はゼネコンやハウスメーカーで勤務しつつ、休みの日だけホームインスペクション業者と契約してアルバイトしている人もいます。
副業が禁止されていなくて堂々としているのであればまだよいかもしれませんが、勤務先にばれないようにコソコソしている人もいます。そういった人が責任感をもってあなたの住宅を診てくれるでしょうか。疑問ですね。
また、そういった人に限らずですが、1つ1つの業務ごとに「早く手離れしたい」とばかり考えている人もいます。手離れとは、現場で診断した後にできればアフターフォローなどもせず、業務を終了させたいという意味です。
依頼者にとっては、診断して終わりとされても困ります。後から調査結果に関して質問や相談したいことが出てくるのは当然ですから、アフターフォローをきちんとしてほしいものです。責任感を持って対応してくれる人に担当してもらいたいものですね。
これを判断する1つの材料としては、ホームページに個々のプロフィールをきちんと公開しているかどうかです。公開する情報の最低ラインは、本人の写真と名前(フルネーム)です。そして、現場で担当者と会ったときに建築士の免許証などで氏名と資格を確認することです。事前に資格証の確認を希望すると伝えておくとよいでしょう。
適切に業務を行うならば、住宅を買う人や業界のために役立つ仕事をしているわけですから、プロフィールは堂々と公開できるはずです。
コミュニケーション能力
ホームインスペクション(住宅診断)を行う上で重要なスキルの1つは、コミュニケーション能力です。調査した結果をわかりやすく説明することも当然ですが、依頼者が聞きたいことをヒアリングしてそれに可能な限りでお応えする能力です。
建築士は技術的な部分が色濃い資格者でありますが、本来はコミュニケーション能力が問われる仕事でもあります。この点を大事にしているか、意識して対応してくれるかどうかは依頼者にとって大きなポイントですが、ただ事前に確認することが難しい項目でもあります。
少なくとも5人以上の組織であること
ホームインスペクション(住宅診断)という仕事を一人や二人だけでしている人も多いです。建築士事務所(設計事務所)の多くは一人か二人で運営しているために、どうしてもそうなってしまうことが多いのですが、少人数には大きなデメリットがあります。
それは、経験の幅が限定されてしまうという点です。
一人で多くの経験を積んだつもりであっても、元々の判断が誤っていて気づいていないということはよくあることです。その人のやり方(調査方法・判断方法など)が適切なものであるかどうかは、別の専門家の意見もよく取り入れていかないと判断できません。
多人数の意見・経験を活用していくなかで、良いマニュアルができ、良い業務ができるようになっていくのです。そのためには、少なくとも5人以上の組織であることが必須です。5人というのは、現場で診断する専門家の人数ですから事務担当者などは含めて数えません。
できれば、10人以上で長年の経験があることが好ましいです。
ホームインスペクションの報告書
最後に必ず依頼前にチェックしておくべき点をアドバイスします。それは、ホームインスペクション(住宅診断)を実行後に提出される調査報告書の内容です。調査結果がわかりやすいものであるかという点も大事なのですが、調査項目の結果をきちんと項目ごとに記載してくれるかどうかがより重要です。
ホームインスペクション業者によっては簡単な検査結果資料しか作成しないことも多く、それでは後日、何か症状が出てきてから確認するときに役立ちません。調査結果を見返しても詳細がわからず、参考にならないことが多くなるでしょう。
調査報告書の作成に手間をかけてもらえ、情報量も多いものであるかどうかは依頼者にとって大事なことです。また、詳細な報告書と謳っていても比較するとそうとは言えないケースも多いですから、依頼前に報告書のサンプルを確認させてもらうとよいでしょう。
特におすすめできるホームインスペクション業者の5つの条件
ここまでに8つの項目について解説しましたが、いかがでしょうか。なかなか、8つとも条件をクリアしているかどうか見極めて選ぶのは難しいところです。このサイトを運営するアネストでは、これらの条件を全て満たしているので、よければご検討ください。
全ての条件を満たしていない業者も比較検討する場合、特に重要な5つの条件を紹介します。
- 担当者が一級建築士であること
- ホームインスペクション業者の第三者性
- 住宅の設計・工事監理の経験があること
- 少なくとも5人以上(できれば10人以上)の組織であること
- ホームインスペクションの報告書の情報量が多く質が高いこと
この5点だけは必須条件として検討するとよいでしょう。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。