住宅の建物のチェックをするホームインスペクションという言葉を聞かることもあると思いますが、このホームインスペクションとはどういうものであるか正確に理解されているでしょうか。
また、深く考えずに業者を選んで依頼した結果、後悔している人もいます。インスペクションは、それを実施する業者や実施時期(タイミング)、調査範囲などによって、得られる効果・メリットに小さくない違いがあるため、注意が必要です。
ここでは、ホームインスペクションを利用したいと考えている人向けに、依頼する前にしっておくべき注意点について解説します。
ホームインスペクション(住宅診断)とは
ホームインスペクションは、住宅診断や住宅検査などと呼ばれることも多いですが、新築住宅における施工不良や中古住宅における構造耐力または雨漏りなどの大事な問題に影響がある劣化事象を調査するサービスです。
日本では2005年頃から徐々に普及してきて、2010年頃からはハイペースで普及するようになり、現在では数多くの方が利用するようになりました。
本サイトを運営するアネストでは、2003年からホームインスペクション(=住宅診断)に取り組んできており、ホームインスペクション業界を先導してきています。
2013年6月には、国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」をまとめて公表しており、ホームインスペクションは国も推し進めていると言える注目の建築系専門サービスです(「既存住宅のホームインスペクション(住宅診断)が一般化」を参照)。
ホームインスペクション(住宅診断)は、住宅の購入前や購入後に利用されておりますが、長く居住してきた住宅の点検のために利用したり、リフォーム時に利用したりするなど利用目的も広がりを見せています。
ホームインスペクション(住宅診断)を利用する時の注意点
ホームインスペクションを利用するときに依頼者にとっての注意点はいくつもありますので、紹介・解説します。
どのホームインスペクション会社に依頼するか?第三者性を重視
ホームインスペクション(住宅診断)は住宅の購入判断であったり、リフォームや補修工事の参考にしたりするために利用することがほとんどです。そのためには、住宅の売買やリフォームをするときに利害関係のない立場の人や会社に診断してもらわないと、より利益の出る方向へと誘導されてしまう恐れがあります。実際にそのような被害は増えています。
第三者性は超重要
不動産会社によるホームインスペクションや、リフォーム業者によるホームインスペクションは利害関係があるのは明白です。そして、不動産会社などと提携関係にあるホームインスペクション会社による診断も注意しなければなりません。第三者の立場で診断するホームインスペクション会社を選ぶべきことが最大の注意点です。
自称第三者に要注意
ホームインスペクション会社のなかには第三者をうたいながらも、不動産会社と提携して紹介料を得たり(支払ったり)しているケースもあります。
また、補修すべき箇所として指摘したことを自社または関連会社でリフォームできると営業している業者もいます。それでも、第三者を自称していることがあります。
依頼者としては、注意深く第三者の事実関係を確認しなければなりません。
ホームインスペクターの資格は要チェック
ホームインスペクションを行う人のことをホームインスペクターと呼びます。建築知識や経験があり、それを活用して診断業務を行う人であり、診断のプロフェッショナルです。これは誰でもできる仕事ではないので、依頼するときには注意が必要です。ここでは、最低でも確認しておくべき資格について紹介します。
建築士の資格は確認すべき
建築士資格ももたず、大した根拠のない民間資格をPRしているケースもありますが、設計・工事監理の十分な経験もなく、机上の勉強だけでできるほどホームインスペクションは甘い仕事ではありません。設計や工事監理の経験を積むためには建築士の資格が必須ですから、建築士の資格保有は必要最低限の条件であると考えてください。
建築士にも種類があり、一級建築士と二級建築士、木造建築士があります(木造建築士の人は非常に少ないです)。資格取得の難易度では一級建築士が圧倒的に上位のものです。
一級の人の方が二級より、良い経験を積んでいることが多いですが、一級でも必要な経験が不足している人もいれば、二級でも十分な経験を積んでいる人もいます。
しかし、個人の能力を依頼前に的確に判断することは現実的には無理がありますし、一級より二級の方がよいとする理由はないので、依頼者としては「とりあえず一級建築士の方がいいな」と考えておいてもよいでしょう。
既存住宅状況調査技術者は中古住宅のインスペクションに必須
中古住宅についてホームインスペクション(住宅診断)を依頼するのであれば、既存住宅状況調査技術者の資格有無を確認してください。
2017年(平成29年)に創設された既存住宅状況調査技術者講習制度があり、その講習を受講した人が得る資格が既存住宅状況調査技術者です。
これは、中古住宅の診断について規程された調査基準を学んでいる人です。この資格があるだけで大丈夫というわけではなく、最低限必要なものだと考えてください。
若すぎるホームインスペクターに要注意
若くして(40才未満ぐらい)でホームインスペクションのみを専業にしてしまうと、まだまだ業界経験が足りずに適切なホームインスペクションやアドバイスができない可能性が高まるため、20歳台や30歳台の年齢で「ホームインスペクション会社の正社員」というのも微妙です。
設計や工事監理の経験も多く積みながら、ホームインスペクションをしていると、新たな技術・知識の習得もしながら業務を遂行できますが、専業になるとそれが難しくなるのです。
年配であれば安心というわけでもありませんし、若い人が全てダメというわけではありませんが、専業会社の正社員である場合は担当者(ホームインスペクター)の年齢(40歳以上)も1つの目安にした方がよいでしょう。
ホームインスペクションの調査範囲
専門家にホームインスペクション(住宅診断)を依頼しようとするとき、その調査範囲についても注意しましょう。会社によって、調査範囲が異なるからです。
多くの会社は建物本体のみを調査しており、外構の確認をしてくれません。外構とは、塀やフェンス、敷地内の土間コンクリートなどです。
この外構は建物本体と構造的に一体で無いために重要ではないと考えがちですが、それは誤りです。
外構で確認される症状、たとえば土間コンクリートのひび割れや塀の傾きなどが、地盤の問題と関係することがありますし、塀のぐらつきが安全性に問題あるときもあります。
きちんと調査範囲・項目を確認しておくことが大事です。アネストの住宅診断(ホームインスペクション)の具体的な調査項目も確認してみてください。
依頼するタイミングは契約前がベスト
住宅を購入する際にホームインスペクションを利用する場合、依頼するタイミングとしていつがよいか聞かれることがあります。最もお勧めなのは、売買契約を締結する前です。
その理由は、インスペクションを実施した結果、建物の構造耐力に関わる大きな施工不良や著しい劣化事象が見つかったときに、その物件の購入を中止することができるからです。
もちろん、見つかった問題を補修などで解決できるものであれば、そのまま購入する判断もよいでしょう。ただし、見つかった問題によっては、調査時に確認できない範囲で同様の被害がないか、もっと大きな不具合があるのではないかと不安になることもあります。
そういったときに購入を中止できるかどうかは、住宅購入者にとって重要な問題となります。よって、契約前がベストタイミングだと言えるのです。
細かな傷チェックを重視しない
ホームインスペクションを実施していると、依頼者が傷や汚れについて非常に細かくチェックしている状況を見かけることがあります。これは、特に新築住宅でよく見かけるものです。
もちろん、気になる傷や汚れは対応してもらう方がよいですし、それ自体は悪くはないと考えますが、あまりにも細かなことを言いすぎて、売主や建築業者と険悪な関係になっているときもあります。
居住し始めたら、傷などはつくものですから、細かすぎる指摘は本当に必要かどうか少し考えてもよいでしょう。もちろん、それをやめるべきだと断定するわけではありません。
床下と小屋裏を診てもらおう
一戸建て住宅では、床下および小屋裏(屋根裏)で建物の構造耐力上の大事な部位を直接に確認することができます。床下では、基礎コンクリートや土台・構造金物などを調査できますし、小屋裏では柱・梁・構造金物などを調査できます。
また、構造耐力と直接に関係ない点でも、指摘事項が多い断熱材の状態や配管、床下漏水、雨漏りなどを確認することもできます。
床下と小屋裏はそれだけ重要なスペースですので、ホームインスペクションを依頼するならば、できるだけ一緒に診断してもらうように依頼することをおすすめします。
床下と小屋裏への進入には、準備・経験(リスク対応)なども必要なため、プロに任せるのがおすすめです。
調査後のレポートを重視すべき
ホームインスペクションを利用すれば、調査後にレポート(=調査報告書)が提出されるはずです。調査時に立会いすれば、その結果を概ね理解できることが多いですが、後から結果を見返して補修やリフォームなどの参考とすることもあるので、レポートは大変重要です。
依頼する業者によっては、驚くほど簡易なレポートで、後から見ても何もわからないようなものもありますし、一方で非常に詳しいものを提出してもらえることもあります。
依頼する前には、必ず、業者のWEBサイトなどでレポートのサンプルを確認してください。WEBサイトに掲示されていない場合は、サンプルを見せてもらえるか聞いてみましょう。ここで拒否されるようなら、依頼しない方が無難です。
調査当日の立会いを強く推奨
ホームインスペクションを実行する当日は、できる限り、現地で立会いすることを強くおすすめします。
その理由は、主に以下の3点です。
- 調査内容(何を見ているか、何をしているか)とその結果を理解しやすいから
- その場で質疑応答しやすいから
- 担当者との関係を作りやすいから(後日、質問しやすくなる)
調査に立会いためには、スケジュールを合わせる必要があるので、仕事や契約予定日、不動産仲介業者や売主の都合などによっては、難しいこともありますが、できる限り立ち会う方向で検討してください。
WEBサイト等をよく確認する
ホームインスペクション業者は、WEBサイトに調査内容・レポートのサンプル・よくある質問と回答・担当者のプロフィール・所要時間・必要書類などを公開していることが多いです。
これらは、業者の比較検討に必須の情報ですから、時間をかけてでもWEBサイトをよく確認してください。
これらの情報が不足している場合、WEBサイト以外で容易に確認できるものがあるのか問合せる方法も必要ですがネット上で情報公開されていないのであれば、別の業者を探すことも考えるとよいでしょう。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。