今まで多くの方から、「大手のハウスメーカーで家を建てるので安心ですよね?」と質問されてきました。
その回答は、「ノー」です。
これまでたいへん多くの大手ハウスメーカーが建築した住宅を検査してきましたが、非常にひどい施工がされているものも少なくありません。これは、今までに住宅検査をしてきた実績から断言できます。
もちろん、素晴らしい施工がされていることも多いです。
つまり、個々の住宅によって施工品質の差異があるということです。
大手ハウスメーカーも工事監理ができていない
「住宅の工事監理者がいない!(監理と住宅検査)」でも記載した問題は、何も中小零細企業だけのことではなく、大手ハウスメーカーも全く同じなのです。むしろ、大手ハウスメーカーは抱えている現場数が多く、その全てを工事監理者がしっかり監理することは難しいのです。
以前、実際に施工に問題があった際に大手ハウスメーカーのその現場の工事監理者に現場に来てもらったことがあります。その工事監理者が私の目の前で言ったセリフがこちらです。
「うちは大手で現場が多いので、いちいち現場になんか行っていられない」
しかも怒り気味に言っていました。
完全に感覚がマヒしていて、自分たちのやっていることの問題には気づいていないですし、開き直っている様子には驚きました。 このようなことを堂々と言ってしまう以上、事の重大さは理解していないですし、本気で悪いことだと思っていないのでしょう。
誰もが知っている大手ハウスメーカーのケースでした。
これは、この工事監理者の個人だけの問題ではありません。住宅業界システムの構造的問題であり、ほぼすべてのハウスメーカー、全ての工事監理者に言えることです。
担当する住宅が多すぎるから起こる問題
工事監理者も現場監督も担当する棟数が多すぎるために、工事監理や管理(工程等の管理)がまともに実施できないという問題があります。
工事監理者
工事監理者が同時に担当する住宅の数が多すぎるので、現場へ行って工事監理(設計図書・仕様書と工事の照合)をする時間など取れないのです。それだけ多くの担当案件をもたせてしまっては、工事監理が適切にできないことは会社側もわかっていることですから、個々の工事監理者より会社の責任が重いと考える方がよいでしょう。
大手ハウスメーカーといえども、現場で施工しているのは下請けや孫請けの業者であって、ハウスメーカーの社員ではありません。現場監督はその社員でも、作業する職人は下請け業者なのです。
現場監督
現場監督は、工事の進捗や下請け業者の手配、場合によってはある程度の品質管理を任せられていることが多いです。しかし、この現場監督も担当させられる住宅の棟数が多すぎるという問題があり、工事の進捗管理などが適切にできていないケースは異常なほどに多いです。
その日、その日に現場で実施されている工事内容を把握していない現場監督は多いですし、現場で勝手に工程が変更されていても1週間も気づいていないなんてこともありました。大手ハウスメーカーの工事監理者が言っていたのと同じように、「現場が多いので、全ての住宅の工程を把握するなんてできません」とはっきりと言っている人もいました。
これも、やはり会社側の責任が重いというべきでしょう。完全に処理能力を超えた棟数を同時に担当させているからこそ起こっているからです。
1戸の住宅を建築するには、こういった多数の下請け・孫請け業者が現場に入ります。これらの業者を現場監督が適切に管理し、さらに工事監理者が適切に監理しないと、良い住宅が建てられる可能性は低くなってしまいますが、その工事監理者が現場にいないのです。
適切な人件費の負担がよい住宅を造る
工事監理も現場管理も人件費というコストがかかります。建築に関わるコストのなかで最も大きいのは人件費です(下請け業者の分も含めて)から、建築コストを抑えようとする考えの中で、工事監理や管理のコストを削ってきた結果として起こってきた問題ですね。
消費者としても、安ければよいという考えはリスクを大きくするので、少し慎重に考えてほしいことです。
しかし、大手ハウスメーカーの住宅は決して安くはありません。むしろ高価格帯の住宅です。必要なコストを抑えても高価格なのは、営業・バックオフィス部門などの人数が多く、中小のハウスメーカーや工務店より高級であることと、会社の利益が大きいことが要因の1つです。
工事監理や現場管理にもっと投資してもらえれば嬉しいものですが、なかなかそうもいかないようです。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。