住宅の設計に際しては、建物の構造等の面における安全性や生活する上での利便性、デザインの好み、建物の性能・機能など、様々なことを考えるものです。そこには、施主の要望や設計者の考えなどもあって、それぞれの住宅が作られていきます。

個々の考え方、優先順位、さらにはリスクの取り方にも違いがあって当然ですから、何が正解と決めつけられるわけではありません。このことが前提ではあるのですが、今回のコラムでは、あえてホームインスペクション(住宅診断)を長年行ってきた経験より、住宅の設計・計画時に検討してほしいことを紹介します。

※参照:ホームインスペクションとは?

繰り返しますが、こうしなければいけないという話ではなく、いろいろな視点のうちの1つとして読んでいただければと考えています。

勾配天井

勾配天井

1つ目に紹介するのは、勾配天井です。「こうばいてんじょう」と読みます。

勾配天井とは、室内から天井を見上げたときに、勾配のある屋根(斜めになっている屋根)に沿うように天井も斜めになっているものを指します。斜めになっている、つまり勾配のある天井ということですね。

勾配天井にすることで室内空間を大きくして開放感のあるおしゃれな住宅にできるメリットがありますが、ホームインスペクションをする視点で見ると、決して小さくないデメリットがあります。

それは、勾配天井にしている部分の多くは、天井点検口などから天井裏の部分を調査できないという点です。

その理由は、勾配天井にしていない場合と比べるとわかりやすいです。

勾配天井ではなく、一般的に多くみられる水平な天井にしている場合、天井裏(屋根裏)スベースが広くなるため、そこを点検するための天井点検口(屋根裏点検口)を設けることが多いです。その点検口からホームインスペクターなどが進入していくなどして、屋根裏を調査することができます。

勾配天井では、そもそも天井裏(屋根裏)スベースがほとんどないため、点検口を設置することもありません。

勾配天井であっても、棟の部分付近(最も高い箇所)だけ天井を斜めにしておらず、僅かな天井裏(屋根裏)スベースが存在する住宅プランも多いですが、その僅かなスペースのために点検口を設けることは稀です。設けたとしても、調査できる範囲が狭い範囲に限定されています。

天窓(トップライト)

天窓(トップライト)

住宅のプランニングに際して、天窓を取り入れる人も多いです。天窓とは、トップライトとも言われますが、天井面に設ける窓で、壁に設ける窓よりも採光が期待できるメリットがあります。

写真のように、勾配天井にしているところに、天窓を設けている住宅が多いですが、この天窓にもホームインスペクション視点ではデメリットがあります。いや、正確にはインスペクションというよりもプラン上のリスクというべきかもしれません。

ホームインスペクションの依頼を受けて調査をしていると、この天窓部分から雨漏り(またはその疑いがある症状)を確認することが本当に多いです。雨漏りしやすいということですね。

もちろん、天窓にすれば必ず雨漏りするということではなく、適切な方法で丁寧に施工してもらわないと漏れやすいということです。多くの設計者や建築会社はこのことを知っていますが、きちんとできていない業者もいるので注意しましょう。

アネストの住宅インスペクション

小屋裏収納

小屋裏収納

小屋裏収納(屋根裏収納)のある住宅も多いです。小屋裏のスペースを使わずにおいておくのではなく、収納などに有効活用したいというニーズは多く、合理的でもありますね。

しかし、この小屋裏収納は、その仕様・作り方次第では、ホームインスペクション視点で見るとデメリットとなることもあります。

小屋裏スペースに物を置くための床材を取り付けている程度であれば、収納にしていない住宅と比べてもホームインスペクションの調査範囲にそれほど大きな違いはありません。しかし、収納スペースの周りに壁や天井を設けると、それによって本来なら目視確認できる梁や小屋束、母屋などの構造材、構造金物といった大事な部位が目視できなくなる(または部分的にしか目視できなくなる)ことが少なくありません。

小屋裏の壁や天井にクロスなどの仕上げ材を施工するかどうかは問題ではなく、ベニヤ板で囲ってしまうだけでも目視できなくなってしまいます。

ただし、小屋裏収納の壁に点検口を設けて収納以外の小屋裏スペースを点検できるようにしているプランなら、この問題も解消します(ただし、点検できる範囲が限定されることも少なくない)。

参照:一戸建て住宅の屋根裏調査のメリットと重大な指摘事例

屋根断熱と基礎断熱

住宅の断熱性は、住まいの快適性やエネルギー効率への影響も大きいことから、こだわりを持つ人も増えています。

断熱材は、簡単に言えば、建物の全体を覆うように施工されます。断熱する箇所は、外壁、天井(または屋根)、床(または基礎)です。建物全体を断熱材で覆うようなイメージを持てたでしょうか。

この断熱する箇所としてあげた3箇所のうち、天井(または屋根)、床(または基礎)が、ホームインスペクションに影響します。

屋根断熱

天井断熱と屋根断熱

多くの住宅では、天井材の上に断熱材を施工する工法(天井断熱)が採用されています。この場合は、天井裏(屋根裏)へホームインスペクターが入るなどして、屋根裏で梁・母屋などの構造材や断熱材と一緒に野地板(屋根の内側(屋根裏側)の状態も確認することができます。

しかし、一部の住宅で採用されている屋根断熱(屋根材の内側へ断熱材を施工する工法)の場合、梁などは確認できるものの、野地板を確認することができません。野地板は、雨漏りの疑いのある染みなどを確認したい箇所ですので、雨漏りの確認がしづらい、または雨漏りに気づくのが遅くなるリスクがあります。

基礎断熱

多くの住宅では、1階の床材の裏側(床下側)に断熱材を施工する床断熱を採用していますが、一部の住宅では、基礎の内側(床下側)に断熱材を施工する基礎断熱を採用しています。床下スペースも室内と同じように断熱するかどうかの違いですね。

基礎断熱では、基礎に断熱材を密着するように施工するため、ホームインスペクターが床下へ潜っても、外周部の基礎立ち上がり部分や底盤(スラブ)のコンクリートの状態(構造耐力に影響がありうるようなひび割れ・欠損・ジャンカなどの有無)を確認することができません。

ただし、基礎の屋外側で断熱する工法の基礎断熱である場合は、床下側で基礎コンクリートの状態を確認することができます。

また、プラン上のリスクとしては、床下空間も適切に、十分に換気できるようにしておかないと酷いカビなどの被害にあうことがあるため、注意が必要です。

参照:一戸建て住宅の断熱材のチェックポイントと不具合事例


勾配天井・天窓・小屋裏収納・屋根断熱・基礎断熱について、ホームインスペクション(住宅診断)の視点で感じていることをまとめてみました。いろいろな考えのもと、優先順位の違いがあることなので、押し付けたいわけではありませんが、住宅プランを検討するときの1つの材料としてはいかがでしょうか。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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