新築一戸建て住宅の完成時には、施主検査(竣工検査)が行われます。施工不具合の有無をチェックして、見つかった指摘事項を建築会社に伝えて補修してもらう機会ですが、多くの住宅購入者にとって初めての経験であるため、わからないことが多くて心配する人も多いです。
また、このタイミングで施主と建築会社の間でトラブルとなる問題に直面することも多く、その対応に困っている人や、その会社に建ててもらったことを後悔する人なども少なくありません。
そこで、新築一戸建て住宅を建築した施主や、建売住宅を購入した買主に向けて、建物完成時点に行う施主検査の基本的なことを説明し、その上でこのタイミングでよく起こっているトラブルを4つに分けて紹介します。
施主検査の基礎知識を得た上でよくあるトラブルを知ることにより、住宅購入者がトラブルに遭遇する可能性を下げたり、遭遇しても落ち着いて適切な対応を取れたりできるしょう。
施主検査の基礎知識
新築住宅の完成時に行う施主検査とは、建物の完成状態で施工不具合の有無や注文したとおりに出来上がっているか確認する非常に大事な機会です。
施主検査の読み方は「せしゅけんさ」です。意外と読みづらいとの声もありますが、ご存じでしたか。
完成時に行う施主検査は、竣工検査とも言われています。
施主検査で行うこと
完成時の施主検査で行うことには、大きく分けて以下の2点があります。
- 契約図面と出来上がった建物の照合
- 施工不具合の有無のチェック
契約図面と出来上がった建物の照合
現地に契約図面(平面図や立面図などの最終図面)を持参して、窓の位置やサイズ、扉・引き戸の種類、電気のスイッチ・コンセントの位置、キッチン・トイレ等の設備の種類などが、図面と一致しているか確認します。
万一、誤りが見つかった場合は、是正等の対応をお願いする必要があります。
施工不具合の有無のチェック
建物の完成状態において、目視できる範囲に施工不具合がないかチェックします。
基礎や外壁のひび割れ・欠損、シーリングの施工状態、防水上の懸念がある隙間、床・壁の傾斜精度、建具や水周り設備の動作状況、床下・小屋裏の断熱材、床下配管の状況など、様々な項目を調査しなければなりません。
もし、施工不具合が見つかれば、補修を求める必要があります。
施主検査には必ず施主が立会うべき
施主検査では、図面との照合や施工不具合の有無を確認する必要がある大事な機会なわけですが、多忙な人であろうとも自分自身で現地に立ち会ってください。
忙しいとか、遠方に居住しているといった理由で、身内に任せてしまう人もいますが、自分自身で見て、判断する必要性が高いので、時間を作りましょう。
4つの代表的なトラブル
施主検査(竣工検査)では、多くのトラブルやクレームが発生しており、これまで長い間、引渡し前の建物チェック業務(=内覧会立会い・同行サービス)を行ってきたアネストでは、いろいろなトラブル(買主と建築会社のトラブル)の事例を見てきました。
よくあるトラブル、クレームを分類すると以下の4つにわけることができます。
代表的な4つのトラブル
- 工事遅延による未完成で、施主検査(竣工検査)をできる状態にない
- 工事が雑で(見栄えが悪くて)納得して引渡しを受けられない
- 住宅の機能・性能に影響する施工不具合があり、見えない箇所が心配になる
- 発注した図面・仕様と相違する点がある
今回は、この4つについての事例と、最悪な結果とならないため、そして後悔しないための対策などについて解説しますので、引渡し前の新築住宅の施主検査(竣工検査)でチェックする前に理解しておきましょう。
工事遅延による未完成で、施主検査(竣工検査)をできる状態にない
まず、1つ目に工事遅延による問題です。新築住宅の工事遅延は、全国各地で頻繁に発生していますが、そのなかにはやむを得ない事情によるもの、建築会社のミスによるもの、そして買主(建売住宅の場合)や施主(注文住宅の場合)に原因があるものがあります。
新築工事遅延の理由(1)やむを得ない事情
やむを得ない事情で新築工事が遅延することがあります。
その1つは、天候不良の日が一般的に想定されるよりも長いことです。ポイントは、「一般的に想定されるよりも長い」という部分です。建築期間中に天候不良により、工事を進められない日があることは、当然ながら建築会社も想定しておくべきであり、その想定を超えるような状況だったために完成時期が遅れるというのであれば理解できます。
しかし、そういった想定をしていなかったのであれば、建築会社の判断ミスとも言えるので、やむを得ない事情には当たらないとも言えます。
他にもやむを得ない事情は起こりえます。特別な社会情勢によって建材・住宅設備などの供給が、ストップしたり大幅に遅れたりした場合です。特別な社会情勢としては、大きな自然災害で工場が操業停止になることや、外国の紛争等による海外工場の操業停止・輸入遅延などが考えられます。
新築工事遅延の理由(2)建築会社のミス
建築会社のミスに起因する新築工事の遅延もよくあることです。
たとえば、著しい施工ミスが確認され、その補修・補強工事の検討・実施等に何日もかかったときや、軽微な施工ミスとその補修が何度も繰り返し発生したとき、下請け業者の手配に問題が生じて工事がストップした時などが考えられます。
意外と下請け業者への支払いが滞ってしまい、建築会社の信用問題から下請け業者を手配できないという新築現場の話を聞くことは何度もあります。
下請け業者への支払いが滞るとなれば、最後まで完成させられるか?途中で倒産しないか?という心配もあり、最悪の結果も想定しておくべきです。
新築工事遅延の理由(3)買主(建売住宅の場合)や施主(注文住宅の場合)側の要因
工事遅延の要因が、買主や施主にあると聞くと意外に思うかもしれませんが、実際にそう言ったケースも見られます(とはいえ、建売ではあまりないです)。
これは、注文建築の家を建てている時によくあるケースですが、工事が始まったあとに、施主(工事の発注者)が様々な変更工事や追加工事を要求したときに起こることが多いです。それも、担当営業や設計者を介さずに現場で職人に直接指示してしまうことで問題がより大きくなることもあり、後から遅延に関する責任の所在について施主と建築会社がトラブル(言い争いなど)になっていることもあります。
意図せずして現場を含めた建築会社側を混乱に追い込んでしまうことで、結果的に工事遅延につながることがあるのです。
こういったことがないように、建築会社としても契約時や着工前などに、変更工事・追加工事に関してはよく施主へ説明しておくことが重要です。説明が不十分な場合は建築会社側の責任もないとは言えないでしょう。
施主検査(竣工検査)の当日にまだ完成していないと大きなトラブルになる
新築工事が遅れた原因が何であれ、予定していた施主検査(竣工検査)の当日に現地へ行ったときに、工事が遅延していたことが発覚したとなれば、買主(注文建築の場合は施主)より強いクレームになるのも当然です。
施主にしてみれば、最後のチェックの機会だと思い、準備して現地に行っているのに、そのときになって初めて遅れていると言われたら誰だって怒りたくなるでしょう。
工事遅延により完成が間に合っていないなら、早めにその説明とともに施主検査(竣工検査)の日程を再調整したいとの要望を建築会社側からすべきでしょう。建築会社のミスで遅延し、引渡し日が遅れることがあれば、その責任を求められることもありうるでしょう。
未完成なのに引渡そうとするトラブル
工事が遅延して未完成の状態ならば、予定していた引渡し日を延期し、きちんと完成させてから引渡すべきですが、そうしようとしない住宅メーカー・工務店も少なくありません。
未完成物件の引き渡しを受けてしまうと、施工不具合の補修対応が悪くなる事例が頻発しており、トラブルが大きくなっていき、買主(または施主)が後悔することも多いです。
このトラブルは、会社の決算期に増える傾向にあり、3月・6月・9月・12月(決算期とする会社が多い)が要注意です。このなかでも、3月は、春休みに入居したいという買主側の希望が多いこともあり、毎年、トラブルが最も多い時期です。
建築会社や営業マンの成績に絡むため、決算月の月末までに何としても引き渡したいという要望をしてくることがありますが、施主にとってはリスクですから注意してください。
工事が雑で(見栄えが悪くて)納得して引渡しを受けられない
多くの人にとって、新築住宅を購入するからには、一定の見栄えを求めるものです。完成時点で、傷や汚れなどがあまりに目立つようであれば、誰でも気になるものです。たとえ、それが建物の機能や性能に影響を与えないものでなくても、見るからに雑な工事だと思えば心配になるのも無理はありません。
専門家が行う施主検査(竣工検査)への立会いサービスでは、こういった傷や汚れなどの美観上の問題は、一般的にはチェックの対象外です。しかし、購入した買主としては、せっかくの新築ですからそういったものも補修してほしいと考えるのは不思議なことではありません。
そして、見た目で雑だと感じた場合、見えていない部分の施工がどうなっているのかと不安を感じるのも無理はありませんし、そういった意見を建築会社へはっきりと伝える人も少なくありません。
これに対して、建築会社が「構造や性能に影響がないから大丈夫」とか、ただ「信用してほしい」などと伝えても理解を得られないことも多いでしょう。最後の仕上げ工事まで丁寧に施工してほしいものです。
見た目と建物の寿命に関係性がなくとも印象としては大事な部分ですね。些細なキズ、汚れではなく、多くのキズ等があるのは本当にどうかと思います。
住宅の機能・性能に影響する施工不具合があり、見えない箇所が心配になる
アネストでは、非常に多くの新築住宅に対して、ホームインスペクション(住宅診断)をしてきましたが、本当に多くの施工不具合を確認してきました。それだけに「新築だから大丈夫だろう」という甘い考えではいけないことをよく知っています。
専門家ではなくても、買主(または注文建築の施主)がそういった施工不具合に気づくことがあります。
たとえば、雨樋の固定金具の著しいぐらつきや基礎のひび割れ、外壁材の欠損などです。インターネットで簡単にチェック項目を知ることができるので、簡単に自分でチェックしてみると是正すべき箇所(判断に迷うことも含めて)がいくつも出てきて不安になる人は多いです。
こういったとき、買主や施主としては、「見えない箇所は大丈夫だろか」「(見えている部分であっても)自分たちだけでは気づけない問題がないだろうか」と不安になるのも当然です。
実際に、これをきっかけとして、アネストの引渡し前チェック(=内覧会立会い・同行サービス)を依頼する人も少なくはありません。
発注した図面・仕様と相違する点がある
注文建築の家では、発注していた内容と完成した住宅に相違する点があるとして、トラブルになるケースも多いです。
たとえば、窓の位置・サイズ・種類が発注と異なるとして、建築会社ともめているケースがありました。図面と現地を見比べると明らかに場所が違っているのです。なぜ、建築会社がそれまで気づけなかったのか不思議なほどでした。
また、配管経路が給排水管図と違っていた事例がありました。それによる悪影響がなければよいのですが、間違った上に配管を無理に通すため、構造材(大引き)に複数の大きな穴をあけてしまっていたので、問題が大きくなりました。この場合は、図面との相違だけではなく、施工不具合でもありますので、トラブルとしては大きいです。
他にも、扉やフローリング材、クロス材などが注文と異なるものになっていたなどのトラブルとクレームも見られます。建築会社には確認を徹底してもらいたいものです。
新築住宅の施主検査(竣工検査)でクレームを伝えるときの注意点
新築住宅の施主検査(竣工検査)でトラブルが生じて、建築会社にクレームを伝えるときに、少し考えてほしいことがあります。これは、買主(または注文建築の施主)側を守るための対策です。以下の3点について覚えておきましょう。起こった問題をより大きくして施主検査やその後の対応を最悪なものとしないためにも気を付けましょう。
指摘事項(是正すべき事項)は書類に残す
引渡し前の施主検査(竣工検査)で発見した指摘工事、つまり是正が必要な事項については、建築会社ときちんと共有することはもちろんですが、その記録を書類に残すことが大事です。
間取り図に指摘事項を書き込んでいくか、単純に指摘事項をリスト化してメモしておくこと、そして、同時に該当箇所を写真撮影しておくことです。
そして、是正工事の後にきちんと是正されている確認するようにしてください。
本来ならば、施主から出た指摘事項については建築会社側が積極的にメモを取る用意をしておくべきことですが、何も用意していない担当者もいるので、そういうときは「きちんと指摘箇所を記録してほしい。その記録を後で共有してください。」のように要望をはっきり伝えましょう。
まとめてチェック後の指摘事項を伝える
施主検査で見つけた是正すべき指摘事項、つまり施工不具合などについては、できる限り、一度にまとめて建築会社へ伝えることが理想です。特に引渡し前の施主の立会いでは、指摘事項を伝達した後に「これ以上の指摘事項・是正事項はない」とする書面に署名を求められることもあるから尚更です。
自分なりにチェックリストを準備して施主検査に臨むのもよい方法です。「新築住宅の引渡し前の施主検査・完成検査の立会いと注意点」には、施主検査の基礎知識などとともにチェックリストもあるので活用してください(PDFファイルもある)。
細かなことを言いすぎると対応が悪くなる・警戒されて認められなくなる
多くの新築住宅の現場で、買主と建築会社のやり取りを見てきた結果、強く感じることの1つは、買主が細かな指摘をしすぎることで、建築会社の態度を硬化させてしまい、かえって対応が悪くなっていくという問題の多さです。
内装仕上げ材の非常に細かな傷や僅かな色ムラを神経質になって指摘しすぎると、対応が悪化していき、補修対応を拒否されるケースがあります。こういったとき、本来なら補修すべき機能・性能上の問題がある指摘まですぐに対応してもらえない事例もあるので、注意したいところです。
とはいえ、新築ですから、気になる箇所があれば言いたくなる人がいるのも理解できます。住み始めれば、細かな傷や多少の隙間などが生じてくるものですから、程度を考えながら指摘の是非を検討しましょう。
専門家の引渡し前チェックの依頼を検討する
前述したように、アネストでは本当に多くの新築住宅を見てきました(中古住宅もですが)。そのなかには、酷い施工不具合が確認される住宅もあり、建築知識や経験のない買主が自分でそれを指摘し、是正を求めることは難しい面も大いにあります。
大きな買い物であり、そこで長く暮らすことを考えれば、引渡しの前に専門家に依頼してでもしっかりチェックしておくことはお勧めすべきことと考えています。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。