瑕疵担保責任がある中古住宅のホームインスペクション

中古住宅を購入するときに、買主からホームインスペクション(住宅診断)を入れたいと不動産業者へ申し入れすると、「瑕疵担保責任があるから大丈夫。インスペクションなんて必要ないですよ」と言われることがあります。

瑕疵担保責任があれば、本当にホームインスペクション(住宅診断)を利用する必要がないのでしょうか?

このテーマについて解説します。このコラムは、買主の立場にたって本当に必要ないことなのか説明していますので、できれば契約を締結する前に読んでおいてください。

※瑕疵担保責任は、2020年4月1日より施行された改正民法により、契約不適合責任に変わりました(2020年4月8日:追記)。

そもそも瑕疵担保責任とは?

住宅を購入しようとしたときに、瑕疵担保責任という言葉を始めて耳にした人も少なくないでしょう。なんとなく知っているようで、きちんと理解できていない人も多いので、説明しておきます。

中古住宅の購入時の瑕疵担保責任

中古住宅の売買における瑕疵担保責任とは、その住宅の売主が買主に対して負う責任で、売買した後に、もしその住宅に隠れた瑕疵があれば売主の責任と負担で補修等の対応をするというものです。瑕疵があることを売主が知っていても知らなくて売ったとしても責任を負うというものですから、買主にとっては大変重要なことです。

買主が購入する前に知っていた瑕疵ならば、売主に責任を求めることはできませんが、知っていたならば、購入する前に購入を中止するか交渉して先に補修を求めるなどの対応ができますね。

瑕疵担保責任の期間

売主が瑕疵担保責任を負う期間は、以下のようになっています。

売主が不動産業者以外の場合

引渡しから3ヶ月以内で定められた期間であることが多いです。具体的な期間は売買契約書で確認できますが、契約する前なら不動産業者に聞いてみるとよいでしょう。

最も多いのは引渡しから3ヶ月ですが、2カ月や1ヶ月とすることもあれば、免責(=売主が責任を負わない)とすることもあります。築年数が古い物件(例えば20年以上など)については免責とすることが多いです。

売主が不動産業者の場合

引渡しから2年とすることが非常に多いです。規制により、引渡しから2年以上としなければなりませんが、実際に最低ラインの2年とする契約がほとんどです。

これまでにいろいろな売買契約書を見てきましたが、実質的には不動産業者であるにも関わらず、所有者の名義を会社の代表者やその身内にすることで個人間売買を装い、瑕疵担保責任を無しにしているケースもありました。いろいろな業者がいるものです。

瑕疵担保責任の対象項目

瑕疵担保責任の対象項目は限定的

買主にとって重要な売主の瑕疵担保責任ですが、実は売主が責任をおってくれる範囲はそれほど広範囲ではありません。売買契約書を見てみると対象項目が以下のように記載されていることが多いです。

  • 建物の構造上主要な部位の腐食
  • 雨漏り
  • シロアリ被害
  • 給排水管の故障

但し、売主が不動産業者である場合には、上のように項目が限定されることはありません。つまり、不動産業者以外が売主となっている物件を購入するよりも不動産業者が売主となっている物件を購入する方が売主の瑕疵担保責任の対処項目が広範囲に及ぶわけです。

瑕疵担保責任の期間もほぼ全ての取引で不動産業者が売主の方が2年と長くなっているため、買主にとってはメリットになっていると言えます。

瑕疵担保責任の対象外でリスクのある項目

次に、売主の瑕疵担保責任の対象項目となっていないことが多い項目について紹介します。ここで紹介するのは、売主が不動産業者ではない場合です。

将来の雨漏りの可能性

雨漏りは瑕疵担保責任の対象項目なのですが、それは対象期間内に雨漏りが発生し、発見した場合です。期間を過ぎてから雨漏りしても瑕疵担保責任を求めるのは難しいです。

しかし、ホームインスペクション(住宅診断)を行うと、現時点で雨漏りしていなくとも近い将来に漏水するリスクがある症状が見つかることは非常に多いです。たとえば、外壁材の継ぎ目部分やサッシの周囲、配管貫通部のシーリング、バルコニーの防水層などの劣化がこれに該当します。

こういった症状はできる限り早めに補修しておくべきことですが、その補修を売主に求めることはできません。実際に雨漏りするまで求められないわけですが、漏ったときには期間を過ぎているわけです。

雨漏り

断熱材

中古住宅のホームインスペクション(住宅診断)では、断熱材の著しい劣化や不具合が見つかることは非常に多く、それは床下や屋根裏で確認されます。しかし、断熱材がどれだけ劣化していようとも、瑕疵担保責任とは関係がないため補修等を求めることはできません。

建物の傾き

ホームインスペクション(住宅診断)で床や壁の傾斜を計測してみたところ、著しい傾斜が確認されることがあります。しかし、傾斜の程度やそのほかの症状によっては瑕疵担保責任の対象とならないことは少なくありません。

ここに挙げた項目は一例にすぎず、実際にはいろいろな事象が見つかることがあります。瑕疵担保責任として売主に対応を求められないことは多いため、買主は売買契約を結ぶ前にホームインスペクション(住宅診断)を実行して、建物の状態を把握してから購入判断するように努めてください。

契約前にホームインスペクションすべき理由はほかにもある

契約前にホームインスペクションをしておくべき理由はほかにもあります。それを最後に紹介しておきます。

売主の瑕疵担保責任期間を過ぎてから気付くことがある

瑕疵担保責任の対象となりうる症状であっても、その期間内に気づくことができるとは限りません。中古住宅を購入した方が不具合を感じてアネストへ調査依頼してこられたケースでも、期間を過ぎてから対応している人は非常に多いです。

売主は基本的に責任を負いたくないですから、期間を過ぎてから責任を求めても対応は期待できないです。売る前に知っていたのではないかと思われる事象が見つかることもありますが、それでも黙って売ったことを立証するのは困難です。

売主が瑕疵だと認めないこともある

購入して引渡し後、瑕疵担保責任の期間内に見つかった瑕疵について売主に補修等の対応を求めたとしても、スムーズに責任を認めて補修等の対応をしてもらえるとは限りません。売主と買主は利害が対立するわけですから、当然と言えば当然です。

雨漏りや給排水管の故障なら、明確なことが多いので、責任は簡単に認めてもらえることも多いですがそれ以外の瑕疵はすぐに認めてもらえず、交渉が難航することも多いです。また、雨漏りなど明らかな瑕疵であっても、補修する範囲については双方の意見や希望が食い違い、交渉が難航することがあります。

以上のことから、中古住宅を購入するのであれば、売買契約を締結する前にホームインスペクション(住宅診断)を依頼しておくことをお勧めします。

最近は売主や不動産業者が事前にホームインスペクションを実施しておくケースも多いです。その調査結果をもって買主に安心してもらおうということです。

しかし、そういったインスペクションの多くは最低ラインの調査しかしておらず、且つ、見つかった症状を全てきちんと報告していないケースも数多く確認されているので、買主のための情報としては不足していることが多いです。

たとえ、売主側でインスペクションを実施済みであっても買主が自ら探したインスペクション業者に詳細に診断してもらうよう依頼した方がよいです。

ここまでに解説してきたように、中古住宅の瑕疵担保責任については、売主が不動産業者かどうか、期間、対象項目の確認が大事であることを理解して、売買契約の前にきちんと確認しておきましょう。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。