中古住宅の売買件数(取引件数)は、今後、ますます増えていくことと予想されていますが、それと同じく既存住宅売買瑕疵保険の加入件数も増えていく可能性が高いです。
2021年までは、既存住宅売買瑕疵保険に加入することで、住宅ローン控除を受けたいというニーズが多かったのですが、税制改正の影響により、現状ではこのニーズは非常に少なくなりました(※)。今後は、純粋に既存住宅売買瑕疵保険に加入して安心感を得たいという人の利用が増えていくと思われます。
しかし、既存住宅売買瑕疵保険の加入は、やや難易度が高く、検査の結果、不適合となり加入できない物件が多いです。
買主にとっても売主にとっても気になる不適合の事由ですが、いろいろなケースがあります。そこで、多くの検査実績があるアネストの中古住宅のホームインスペクション(住宅診断)の検査・審査結果より、不適合となった劣化事象をランキング形式で紹介します。
既存住宅売買瑕疵保険とは?
何度も住宅を売買する人は多くありませんから、既存住宅売買瑕疵保険と聞いてもよくわからない人の方が多いです。そこで、まずは既存住宅売買瑕疵保険の基礎的なことから解説します。
既存住宅売買瑕疵保険の基本的なこと
既存住宅売買瑕疵保険とは、中古住宅の売買に際して加入することができる保険で、この保険の対象となる瑕疵が見つかったときに、修補費用(補修工事にかかる費用)や調査費用などが保険金として支払われるものです。
加入者にとっては、安心感をもてるものですから、中古住宅を購入する人は検討するとよいでしょう。また、売主にとっても売却後に見つかった瑕疵への対応を保険金で賄えることはメリットとなるため、売主・買主の双方にとってメリットがあると言えます。
ただし、現地で検査(ホームインスペクション)を行って、瑕疵保険の基準をクリア(適合)していることを確認してから加入できる保険ですから、不適合となり瑕疵保険に加入できない住宅も多いです。検査で適合と判断された住宅について、住宅瑕疵担保責任保険法人)が保険を引き受ける形です。
中古住宅の瑕疵保険は不適合物件が多い
新築住宅では、瑕疵保険の基準に適合するようにプランニングして建築していきますので、瑕疵保険の加入を前提とした住宅であれば、適合しないことは一般的にはないはずです(一部の新築住宅は瑕疵保険を利用していない)。
一方で、中古住宅では、様々な劣化事象が見られるために、検査の結果、不適合と判断される物件は多いのです。
ホームインスペクション(住宅診断)のアネストでは、多くの検査実績がありますが、やはり不適合と判断される中古住宅の方が多いです。
不適合とされた中古住宅の全てが危ないわけではない
既存住宅売買瑕疵保険に加入できない物件だとなれば、重要な瑕疵があって非常に危険な状態の建物だと感じる人もいますが、実はそうとも限らないので、あまり安易に決定づけないようにしてください。
経験上、半数以上の物件(築年数が古ければ、80%以上の物件)が不適合になっていますが、その不適合の理由にはいろいろなものがあり、直ちに危険な状態というわけではない住宅も大変多く含まれています。
既存住宅売買瑕疵保険に加入するための基準が、少し厳しいものだと考えていてよいでしょう。依頼する人も、必ず瑕疵保険に加入したいというよりは、「もし適合して加入できればラッキーかな」くらいの考えの人が多い印象です。
特に、雨漏り事故が多いこともあり、雨漏りもしくは雨漏りが生じる可能性のある症状について、不適合の事由に上がることは多いです。購入検討中の物件が不適合と判断されたとしても、その事由について慎重に検討してから判断するとよいでしょう。
既存住宅売買瑕疵保険で不適合になる劣化事象ランキングTOP4
買主でも売主でも、そして不動産会社にしても、よくある既存住宅売買瑕疵保険の不適合事由は把握しておきたいものです。事前に不適合事由を把握できれば、検査費用を無駄遣いせずに済むこともありますし、その事由や各条件によっては補修してから検査依頼できることもあるからです。
それでは、よくある劣化を要因とした不適合事由をランキング形式で紹介します。
外壁周りのシーリングの劣化
最も多い不適合となる劣化事象は、外壁にあります。それは、外壁の各所に施工されているシーリング材の劣化(破断・欠損)です。これは、本当に多く指摘される劣化事象の1つで、雨漏りのリスクがあるため、既存住宅売買瑕疵保険の加入有無に関係なく、中古住宅を購入するときには必ずチェックしておくべき大事な調査項目です。
外壁には、多くの箇所にシーリング材が使われています。
たとえば、外壁材の一種であるサイディングとサイディングの継ぎ目、サッシ周り、配管等の貫通部周りです。配管等の貫通部周りには、そもそもシーリングが施工されていない住宅もありますが、別途の防水対策を施していない限り、雨漏りリスクが高まります。
バルコニー周りのシーリングの劣化
次に紹介するよくある劣化事象は、バルコニー周りのシーリングの劣化です。外壁周りと似たもので、外壁の一部として一緒に考えてもよいかもしれません。
具体的には、バルコニーの立上り壁の笠木という部位と外壁の取合い部分に施工されるシーリングの劣化が非常に多いです。また、室内からバルコニーへ出ることができる掃き出し窓の下部のシーリングの劣化も多く見られます。
実際にバルコニー周りからの雨漏り事故も多いため、こちらも既存住宅売買瑕疵保険の加入有無に関係なく、しっかりチェックしてから購入判断したいものです。
基礎のひび割れ
3番目に紹介するよくある劣化事象は、基礎のひび割れ(クラック)です。
巾0.5mm以上、または深さ20mm以上のひび割れがあると既存住宅売買瑕疵保険の基準に不適合となってしまいます。また、これより小さめのひび割れでも、広範囲に存在する場合も不適合となってしまうことがあります。
基礎のひび割れは、その症状次第では、構造耐力に影響があるものと考えられるため、注意が必要です。床下側においても、ひび割れがないか確認しておきたいところです。
雨漏りの可能性がある染み
最後に紹介するのは、雨漏りの可能性がある(雨漏りを否定できない)染みです。これは、少し微妙なところもある指摘です。
室内の天井・壁・屋根裏(下屋裏を含む)・軒裏などで、何らかの染みが確認された場合、その染みが雨漏りではないと断定できればよいのですが、雨漏りの可能性も考えられる場合、基本的には既存住宅売買瑕疵保険の審査では、不適合と判断されることが多いです。
染みを目視で雨漏りかどうか判断できないケースは多いですが、こういった場合、基本的には保険に加入できないことが多いです。雨漏りと迷う対象になりうるのは、たとえば、結露による染みではないか、新築工事中の降雨によるものではないか、といったものがあります。
劣化事象以外に不適合となる事由もある
今回の記事のメインは、建物の劣化事象による不適合事由ですが、劣化事象以外に不適合になることがある事例をいくつか紹介しておきます。
点検口がなく、床下・屋根裏を確認できない
原則として、既存住宅売買瑕疵保険に加入するためには、床下や屋根裏を確認する必要がありますので、逆に言えば、これらのスペースを確認できない住宅は、必要な調査をできず、不適合となってしまいます。
床下や屋根裏の点検口の設置は義務化されているわけではないため、無い住宅もあるのです。事前に、床下や屋根裏を確認できるのか、最初の内見時に確認しておくとよいでしょう。点検口という名称のものがなくても、きちんと確認できれば問題はありません。
ベランダの床面を確認できない
ベランダの床面にウッドデッキや後付けタイルなどを設置していることがありますが、その場合、バルコニー床目の劣化事象の有無を調査することができません。ウッドデッキ等のある程度の範囲を外してもらえれば、それで調査できることもありますが、その辺りは事前に検査会社に相談が必要です。
売主都合で確認できない部屋・スペースがある
中古住宅のホームインスペクション(住宅診断)をする際は、売主が居住中の状況で行うことも多いですが、稀に、売主より、特定の部屋などの調査・確認を拒否されることがあります。調査できない部屋・スペースがあると、基本的に既存住宅売買瑕疵保険に加入できなくなります。
既存住宅売買瑕疵保険に加入するためには、全室・全スペースの調査が必要です。保険と関係ないときに実施したホームインスペクションでも、売主が確認を拒否していたスペースから、引渡し後に雨漏り跡が見つかった事例もありました。
確認拒否にはいろいろな事情もあるとは思いますが、買主側にとってはリスクがあるということも理解しておきましょう。
関連記事
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。