新築の一戸建てやマンションを購入した人は、建物が完成した後、引き渡しの前のタイミングで内覧会を行います。多くの人にとっては、はじめて経験する内覧会ですから、それが何をする機会なのか、何に注意すればよいのかわからないことが多いものです。
内覧会を終えた人から、「ひどい施工状態だった」とか、「何もわからず行ってみたら、やるべきことをできず、準備していなかったことを後悔した」、「施工ミスを指摘したら、ハウスメーカー側の対応が悪くて残念で、嫌な想いをした」などという声を聞くことが何度もありました。
購入代金を支払ったり、引渡しを受けたりする前であるこのタイミングでは、実際にいろいろなトラブルが生じ、クレームになっている住宅・不動産業界の現状があります。
内覧会の基礎知識と注意すべきこと、よくあるトラブルやクレームについて紹介し、トラブル対策として役立つ建築士による専門家の立会いサービスについて解説しますので、酷い結果にならないようにご活用ください。
引渡し前の内覧会とは?
新築住宅の引き渡し前に行う内覧会について、必ず知っておくべき基礎知識を紹介します。そもそも内覧会とはどういうものであるか知っておかないと、適切に準備することもできず、引き渡しを受けた後に失敗に気づいて後悔することになるので、注意しましょう。
内覧会とは施工不良の有無をチェックする機会
内覧会とは、別の言葉に言いかえれば、竣工検査や施主検査と呼ばれているもので、検査というくらいですから、住宅をチェックする機会です。
基本的には、建物に施工不良がないかチェックする機会です。また、同時に契約したとおりに建物が完成しているか、目視などで確認できる範囲において確認する機会でもあります。
もし、施工不良が見つかれば、是正してもらう必要がありますので、売主や建築会社に指摘事項として伝えておかないといけません。このように、内覧会とは引渡し前のタイミングに行う買主にとって非常に大事な場なのです。
購入・建築を検討中の人へのモデルハウス利用の意味もある
実は、内覧会という言葉は、別の意味で使われていることもあります。それは、完成した住宅を購入検討している人や、新しくマイホームを建築しようと考えている人向けに、モデルハウスとして内覧してもらう機会としての内覧会です。
この記事では、施工不良の有無をチェックする機会としての内覧会について解説していきます。
所要時間
契約した新築住宅の内覧会、つまり施工不良の有無をチェックするときは、適切に作業していくためには、それなりに長い時間がかかります。
100平米ほどの住宅を建築士などのホームインスペクターという専門家に依頼した場合、所要時間の目安は以下のとおりです。
調査範囲 | 所要時間 |
---|---|
床下・屋根裏進入なしの場合 | 2時間程度 |
床下・屋根裏進入ありの場合 | 3~4.5時間程度 |
ただし、建物のプラン、指摘事項の内容と量、当日に立ち会っている人の対応、調査する範囲・項目などの条件によって、大きな差異があります。
専門家に依頼せず、買主だけで対応する場合は、調査する範囲・項目が限定されていることが多いため、1時間以内に終える人が多いです。本当は、もっと時間をかけてしっかり確認したいものです。
誰が立会うべきか
内覧会に立会うべき人は、その住宅の買主です。もちろん、買主の家族が立会うのはよいことです。できるだけ多くの人の目でチェックする方が見落としを減らせる効果が期待できるので、一人だけで参加するより、家族と参加することをお奨めします。
ただし、小さなお子さんがいる場合、お子さんから目が離せないため、ゆっくりチェックできないことも考えられます。可能であれば、親や兄弟に立ち会ってもらって子供の面倒をみてもらうなどの対処も検討するとよいでしょう。
内覧会でよくあるトラブルとクレーム
買主が、内覧会を適切に対応するためにも、よくあるトラブルやクレームの内容を理解しておくことは、良い参考になりますので、ここで紹介しておきます。
売主から内覧会開催の案内がなかった
多くの場合、事業者側(建売住宅なら売主、注文建築なら建築会社)から買主に内覧会を実施する日程について、引渡し日の何日も前に打診が入ります。そこで、開催日時を調整するのが、本来の進め方です。
しかし、いつまで待っていても事業者側から内覧会の案内が無いという話を聞くことがあります。大手のハウスメーカーや不動産業者であれば、その案内をしないことはほとんどありませんが、小規模の不動産業者や工務店の場合、何も言ってこないという事例が何度も報告されています。
引渡し日の直前になってから、買主より「内覧会はいつするのか?」と質問すると、「その予定はない。引き渡し後にチェックしてください」と返事されたという話まであります。この対応は酷いですね。
こういったことにならないように、買主としては、売買契約(注文建築なら工事請負契約)を結ぶときに、内覧会の開催有無と凡その実施予定時期を聞いておきましょう。この時点で、「その予定はない」などといわれた場合は、契約を見合わせるとか、交渉するなどといった対応をとることもできます。
施工が雑でひどいものだった
何も指摘事項が無く、無事に内覧会を終えられれば理想ではあるのですが、どの住宅でも多少の指摘事項はあるものです。建物の性能や機能的に問題がなくとも、傷や汚れを指摘して補修を求めることもありますし、性能面に影響があるような施工不良が見つかることもあります。
それでも、指摘箇所数が数箇所だけで、且つ容易に補修できるものであればよいのですが、施工があまりにも雑でひどいものであったとき、その物件の買主としては本当に残念な想いをしますし、ときには怒りを感じることもあります。
完成していなかった(未了工事が多かった)
完成後の状況をチェックするつもりで内覧会に行ってみたら、工事が終わっていなくて、とても普通の内覧会のように施工状況を確認しようがなかったというケースがあります。
外構工事が完了していないというレベルではなく、内装材(壁や天井のクロス)が施工途中だったり、キッチンやトイレの配管が接続されていなかったり、室内が養生シートだらけで床や壁を見られなかったりというケースです。
これでよく内覧会をすると案内したものだと、不動産業者やハウスメーカーに対してクレームを付けざるをえない現場があるのです。
施工ミスを指摘したら建築会社が不機嫌になった
施工状況が酷くてあまりにも雑であったため、買主が多くの指摘事項を出していくと、なぜか指摘された建築会社の担当者がどんどん不機嫌になっていくケースがあります。そんなに施工状況がひどい場合、不機嫌になるのは買主であって、そのような施工をした側の対応が悪くなるというのはどういうことでしょうか。
本当に驚くことなのですが、この業界では、実際にそのような人がいて本当に残念な話です。買主にとっては、最悪な気分にもなりますし、揉めてトラブルになるのも無理はありません。
買主が失敗し後悔したミスとその対策・注意点
前述の「内覧会でよくあるトラブルとクレーム」では、不動産業者や建築会社側のミスなどが要因となって起こっていることを取り上げましたが、ここでは、買主側の失敗によって起こっていることを紹介します。こういうことになり、後悔することのないように対策や注意点とともに紹介します。
何をチェックすべきわからなかった
「はじめての内覧会なので、何をチェックすればよいかわからなかった」とか、「何も考えていなかったので、現地で突然、チェックしてくださいと言われて困惑した」という話を聞くことがあります。
まず、内覧会とはどういうものであるかを把握して、やるべきことを理解し、準備する必要があります。
これは、内覧会がどういうものであるかきちんと説明することもなく、日程だけ調整した不動産業者やハウスメーカーの方に問題があるとは言えます。この対策としては、シンプルなことですが、買主側としても自分で調べるか、不動産業者などへ聞くなどして確認するよう注意しておきたいところです。
この点は、この記事をここまで読まれた時点で理解できたことと思います。
指摘事項を記録し忘れた
建物の外部や室内などを細かく見ていくなかで、いくつかの指摘事項が出てくることでしょう。施工状況や買主の指摘レベル次第では、20~30箇所やそれ以上の指摘をすることもあります。指摘箇所数が増えれば増えるほど、どこを指摘したのか分からなくなることが多いです。
この対策としては、平面図や立面図などを用意しておき、指摘した箇所にメモしていく方法が有効です。また、同時にマスキングテープを用意しておいて、それを指摘箇所に貼り、その状況をスマホやデジカメで撮影しておくと後で確認しやすくなります。
注意点としては、記録するために平面図や立面図、マスキングテープ、スマホ(カメラ機能)を用意しておくということです。ただし、不動産業者側で、平面図付きの記録用シートやマスキングテープを用意していることもありますので、先にその点を聞いておくとよいでしょう。
時間がなく細かくチェックできなかった
意外と聞くことがある話で、「チェックするための時間が足りなかった」というものがあります。
時間不足の要因としては、内覧会の開始時間の2時間後に銀行へ移動して決済するスケジュールだったとか、売主が次の予定を入れていて、1時間しか時間をもらえなかったというものです。これらは、最初から買主に十分な時間を与えようとしていなかった不動産業者側の問題と言えますが、こういうことが実際にあるので、買主は対策をしておく必要があります。
対策としては、当日のスケジュールを事前に聞いて把握しておくことと、2時間くらいはかけてゆっくり確認したいなどと要望を伝えておくことです。後述しますが、ホームインスペクターなどの専門家に依頼してチェックしてもらう場合はもっと時間がかかるので、注意してください。
無茶な指摘をして不動産業者と険悪な関係になった
建物の性能・機能に関わる施工不具合があれば、内覧会で指摘しておくべきですし、性能に関係なくても、気になる傷などは指摘して是正を求めるべきです。
しかし、施工不具合ではないことや、あまりにも細かな指摘を大量にあげていくと、それが原因となって建築会社の態度を硬化させてしまうことがあります。本当に施工不具合であれば、伝えるべきことですが、よく見てもわかりづらいような細かな傷や何らかの隙間、ときには、床材の模様にまでクレームを付ける人がいますが、こういったことを言いすぎると、本当なら補修してもらうべき施工不良への対応まで悪くなることがあります。
この対策や注意点は、あまりに細かなことを言いすぎないことです。住宅は、職人が現場で仕上げていくものですから、多少の仕上げのずれや隙間が生じることがあります。あまりに目立つなら別ですが、そうでもなければ、多少は許容する心も必要です。
内覧会の直前で専門家同行サービスの予約をとれなかった
内覧会に建築士などの専門家に同行してもらって、施工不良の有無をチェックしてもらうサービスがあり、多くの人が利用しています。しかし、そういったサービスは、現場で人が業務を行うために1日あたりに対応できる件数に限りがあります。
内覧会の直前、たとえば、前日や前々日などになると、予約が一杯で依頼を受けてもらえないこともあります。もし依頼するならば、内覧会の日程が決まった段階で早めに申し込みしておくことを考えましょう。
専門家(ホームインスペクター)の立会い・同行サービスでトラブル対策をオススメ
内覧会に、専門家を同行する買主が多いことを紹介しましたが、そのサービスの基礎知識を紹介しておきます。
立会いする専門家とは?
内覧会に同行して、依頼者の代わりに、または一緒に建物の施工状況をチェックするサービスのことを、内覧会立会い・同行サービスと呼んでいます。
これは、建物の竣工後、引き渡し前のタイミングで依頼し、実行してもらうもので、建築に関わる専門知識と経験・技能をベースとして、その時点で目視可能な範囲の不具合の有無を確認してもらえます。
建築の知識・経験などが必要なわけですので、その仕事は、建築士のうち、そういった経験等を有する人が担当しています。そういった専門家のことをホームインスペクターと呼んでいることが多くなりました。
残念ながら、本当に専門家と呼べるレベルなのかと疑問に感じる人や建築士ではない人も一部で確認されているため、依頼するときは、その業者の経験や担当者の資格を確認しておきましょう。
専門家への依頼がオススメな理由・メリット
内覧会に際して専門家に同行依頼すると、依頼者にとっていくつものメリットがあり、それにより依頼することをオススメしています。その理由・メリットを紹介します。
チェックすべき項目を網羅している
建物の完成状態で何をチェックすべきか、それまでに多くの住宅を診断してきた経験から判断できることが多いです。また、どういった施工ミスが多いかも蓄積された経験によって理解できるものです。
完成後の状態では、専門家といえども確認できない範囲もあるものの、確認可能な範囲においてチェックすべき項目を網羅していることは心強いですね。
売主・ハウスメーカーの言い訳に誤魔化されない
買主が、自分自身で頑張っていくつかの不具合と思われるものを建築会社などへ指摘しても、「それは、そういうものです」「許容範囲です」「別に問題ないことですが?」などと言われてしまうことが、よくあります。
そして、その説明が正しいときもあれば、誤魔化そうとして不適切なことを言っていることもありますので、この点の妥当な判断が買主には難しいところです。「無茶な指摘をして不動産業者と険悪な関係になった」のところで書いたような問題に発展することもありますが、本当に是正してもらうべき事象という可能性もありますから、困りますね。
専門家に依頼した場合、売主やハウスメーカーの言い訳に誤魔化されることはないですし、売主側への質疑・ヒアリングなどで理解できることも多いです。適切な指摘をするためにも役立つということです。
安心感を得られる
チェックすべき項目をきちんと確認し、売主側に誤魔化されることもなく、内覧会を終え、さらに適切に補修してもらうことができれば、何よりも安心感を得られるというメリットがあります。せっかく購入するマイホームですから、安心して住み始めたいものですよね。
ただし、建築途中に住宅検査を依頼したわけでなければ、隠れていて見られない箇所の施工状況までは判断できません。その点は理解した上で依頼するかどうか検討するとよいでしょう。
もし、床下や屋根裏の内部へホームインスペクターが進入できる入り口やスペースがある住宅ならば、その内部まで調査依頼しておくことをオススメします。そういったスペースで、構造耐力や建物の性能に関係する不具合が見つかることが多いからです。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。