新築の建売住宅を購入しようとして、いくつかの物件を内見するなかで、不動産会社に漠然とした建物の品質への不安を伝えたとき、不動産会社の営業担当者より、「新築だから大丈夫」「今どきの建て売りは、しっかり建てられていて心配する必要はない」と説明を受けることがあります。
しかし、実際に新築住宅を購入した人から、「不動産会社の話を信用して購入したことを後悔している」と聞くことは少なくありません。
新築だから大丈夫という考えが幻想であったことを、購入後に思い知る人は多いのです。
そこで、新築の建売住宅を購入しようと考えている人向けに、不動産会社が大丈夫だと言う根拠と理由を説明した上で、新築住宅が大丈夫だと言えない事実について、事例を挙げて紹介します。
不動産会社が「新築だから大丈夫」だと言う根拠と理由
新築の建売住宅を購入検討している人に対して、「新築だから大丈夫ですよ」と言っている不動産会社の営業担当者には、2つのパターンがあります。
1つは、多くのトラブルを経験してきて、本当は大丈夫とは言えないことを知っているのに嘘をついているパターンです。もう1つは、トラブル経験がなくて、もしくは業界の先輩たちから聞いた話を信用して、悪意なく間違った説明をしているパターンです。意外と後者に該当する人も少なくはありません。
不動産会社が、新築住宅は大丈夫だと買主に説明する根拠とそういったことを言う理由を解説します。
「新築だから大丈夫」だと言う根拠
不動産会社の営業担当者によっては、新築は大丈夫だと言う人がいて、それが本当に真実だと思っている人がいます。なぜ、そのように考えているのか、彼らなりの根拠がありますので、それを説明します。
昔に比べて品質が良くなったから
かなり古い時代、30年や40年以上も前の時代は、今よりも酷い施工レベルの建て売り住宅が多く存在していました。当時は、買主側も施工品質のレベルや欠陥工事について深く考えていない人が多く、建築業界側も一度建てた住宅を長く良い状態で使ってもらおうという意識の人が少なかったのです。
それが、今では時代の環境、消費者や社会が求めるものが大きく変わり、長く良い状態を保つ家が求められています。昔の建てては壊すことを繰り返す時代(=スクラップ&ビルドの時代)の住宅と今のものを比べて説明しているわけです。
全ての住宅で同じとは言えないものの、確かにそのような時代の酷い施工レベルのものと比べると、今の住宅の品質は向上しているものが多いです。ただし、現実には、今でも大変多くの施工不具合の被害にあっている住宅はたくさん存在していることを知っておく必要があります。
住宅瑕疵担保保険や性能表示制度の検査があるから
昔は無かった制度として、住宅瑕疵担保責任保険や住宅性能表示制度というものがあります。これらは、それぞれで建築途中に現場検査を行っているため、不動産会社や建築業者が、「第三者検査を入れているので、施工ミスなどの心配はありません」と言う根拠になっています。
しかし、この説明には誤りがあります。
住宅瑕疵担保責任保険の現場検査では、保険の基準に関係する部分だけについて、その基準通りの仕様で建築しているか確認するのみで、その基準・仕様と関係ない点は確認していません。また、基準等に該当するものでも、見逃されていることがあります。なぜなら、確認する範囲が一部のみだからです。
また、住宅性能表示制度に基づく現場検査でも前述の住宅瑕疵担保責任保険と同じことが言え、その基準・項目に関係がある部分のみを検査対象としており、それも確認範囲が一部のみとなっています。
その証拠に、消費者側から依頼を受けてアネストが検査(=ホームインスペクション)に入ったとき、住宅瑕疵担保責任保険や住宅性能表示制度の検査対象項目にも関らず、施工ミスが見つかることがよくあるのです。
「新築だから大丈夫」だと言う理由
不動産会社が、買主に対して「新築だから大丈夫」だと言う理由は、営業担当者が本当に大丈夫だと信じている以外にもありますので、それを紹介します。
購入してもらうため
営業担当者は、売ることが仕事ですから、当然ながら買って欲しいと考えています。また、多くの営業担当は歩合制で働いているので、「買って欲しい」という想いは強い傾向にあります。自分の収入に直結することですから、そう考える仕組みになっていると言ってよいでしょう。
購入して欲しいと考えているわけですから、建物に対する不安を持っている人には安心してもらいたいわけです。よって、前述のような根拠を真実かどうかに関わらず説明して、購入の決断を促そうとすることがあるのです。
ホームインスペクションで施工ミスが見つかると困るから
建売住宅を購入する前に、購入検討者がホームインスペクションを依頼しようとする人も多いです。建物の施工状態を把握してから、購入するかどうか判断したいと考える人は増えており、有効なサービスとして認識されています。
購入検討者がホームインスペクションを入れたいと不動産会社の担当に伝えた際、ここでテーマとしている「新築だから大丈夫だ」と言われることがあります。また、「新築住宅にインスペクションを入れる人はいない」と嘘の説明を受けることもあります。
このようなことを不動産会社が言うのは、インスペクションを実行することで、建物の施工ミスが見つかると買ってもらえなくなるリスクがあるからです。これは、買主のことを考えない身勝手な理由ですが、そういった担当者は少なくありませんので、注意しましょう。
新築住宅でも大丈夫ではなかった事例
ここまでに、新築住宅であっても大丈夫とは言えないと書いていますが、それを示す明確な事例を紹介します。事実関係の把握のためには事例の確認が大事ですね。
施工不具合の事例
アネストが新築一戸建て住宅に対して実施したホームインスペクション(住宅診断)において、見つかった施工不具合の指摘事例を写真付きで紹介します。
基礎のひび割れ
床下で見つかった基礎のひび割れです。巾0.5mmある大きなものであり、構造的な影響があるもので、構造クラックと言わえるものです。
基礎の配管貫通部の隙間
床から基礎を貫通している配管の周囲を見ると隙間があり、外部の光が入っています。構造耐力上の問題ではないですが、外部から雨水が浸水するリスクがあるものです。
床下のゴミ
床下にゴミが散見される状況です。この時点で構造や性能の問題が生じているわけではないですが、床下のゴミは白蟻を誘発することもあり、清掃しておく必要があります。また、見えない箇所を軽視する証でもあります。
床下の漏水
床下に潜ってみると、広範囲で漏水している状況です。新築住宅でも、完成時点で漏水している事例は少なくありません。給排水管からの漏水でしたが、雨水が基礎の打ち継ぎ部から浸水していた事例もありました。
配管の逆勾配
床下には排水管などが配管されていることが一般的ですが、その一部において配管の勾配方向が逆になっていました。正しい方向に配管を傾斜させていないと、詰まりを起こし、最悪は漏水事故となることもあります。
配管の固定金物の施工不良
床下の配管は、しっかり固定しておかないと適切な勾配をとれなかったり、配管内の詰まりを起こしたりし、漏水を招くことがあります。固定金物をとめておかないと写真のようなことになってしまいます。
断熱材の施工不良
屋根裏の調査時に見つかった断熱材の施工不良です。フィルムで包まれたものが断熱材ですが、壁の一部に断熱材がなく隙間が見えています。僅かな隙間でも断熱効果を下げてしまいます。
断熱材がない箇所がある
屋根裏の点検口の周囲にも断熱材が必要ですが、設置されていない状況です。この箇所は設置漏れしていることが多いので、注意が必要です。
外壁の継ぎ目の施工不良
外壁材の継ぎ目は防水上の懸念がある箇所なので、雨漏りを防ぐために丁寧な施工が必要です。継ぎ目のシーリング施工が粗いと早期に雨漏りする可能性があるため、注意が必要です。
外壁の配管貫通部の隙間
外壁を配管が貫通している箇所の写真です。貫通部分は雨漏りの原因となることが多い箇所であるため、シーリング等でしっかりと隙間を塞ぐ必要がありますが、隙間があいてしまっています。
鋼製束の浮き
床下にある鋼製束が浮いてしまっています。大引きの下に設置される鋼製束ですが、これがこのように浮いていると大引きという木材が撓んで、床材も撓んでしまいます。その結果、室内側で床鳴りが生じやすくなります。
いろいろな施工不具合が見つかっていることがわかりますね。すぐに補修できることもあれば、時間を要することもあるのですが、まずは購入時に見つけて補修などを求めておくことが大事です。
売主が倒産して補修対応してもらえない
多くの施工不具合の事例を紹介しましたが、こういった建築上のトラブルがあったとき、建売住宅なら売主に、注文建築なら建築業者(ハウスメーカー)に補修等の対応を求める必要があります。引渡しを受けて、入居してから気付く不具合もあれば、何年も生活しているなかで気づく問題もありえます。
そのときに売主や建築業者が、普通に営業しているならよいですが、倒産するなどして無くなっていると大変です。責任を負うべき立場の会社が既に無くなっていると、補修等の対応を請求することすらできません。
住宅瑕疵担保責任保険に加入している住宅ならば、その保険会社に補修等を求めることができますが、その保険の対象とならない不具合であれば、求めることができません。建築トラブルには、瑕疵保険の対象項目ではないことも非常に多いので、保険を過信することはできないのです(もちろん、保険がある方が断然よいですが)。
つまり、購入してから何年も経過してから売主等の倒産による悪影響を受けて、新築住宅を買っても大丈夫ではなかったことに気付くことがあるのです。
そのため、購入する前、もしくは引渡しの前に、ホームインスペクターのような専門家によるホームインスペクション(住宅診断)を利用しておくことが重要だと言えます。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。