建物の一部に住宅診断(ホームインスペクション)

建物の不具合を心配して、住宅診断(ホームインスペクション)を検討している人からのよくある質問・要望のなかで、以下のようなものがあります。

  • 基礎だけ見てほしい
  • 床下だけ調査してほしい
  • 外壁だけ診断してもらえますか?

つまり、住宅の一部分についてのみ調査を希望しているわけです。建物全体を調査した場合、その所在地や面積、オプションなどにもよりますが、5万円程度以上の料金がかかるものですが、少しでも安くするために建物全体を診断せず部分的な調査を希望しているものです。

建物の一部分のみに限定した住宅診断(ホームインスペクション)は危険

「基礎だけ見てもらえればいいので」などと希望されるのですが、建物の一部分のみに限定した住宅診断(ホームインスペクション)は、危険なので推奨できません。「基礎だけ見ても適切に判断できないことがあるので、関連ある範囲や建物全体を点検する方がよい」と説明しても話を聞いてもらえず、怒られることもありますが、大事なことなのでここで説明しておきます。

診断結果は総合的な観点が必要

建物を調査・診断するうえで、非常に大事な基礎的な事項として診断結果は総合的な観点から検討して導き出すべきだという考えがあります。建物の一部に現れた症状のみを見て安易に判断せず、他にも関連のありそうな症状が出ていないか、何か他の兆候が見られないか確認したうえで、その建物の抱える問題点の有無やその内容を検討すべきなのです。

事例:基礎のひび割れと傾き

総合的な観点が必要だといえる事例を1つ紹介します。

「基礎にひび割れがあるので見てもらいたい」という相談は多いですが、このときに相談者が見ている箇所は基礎の外側(建物外部)であることが一般的です。基礎は基本構造部分ですから、ひび割れがあれば気になるのも当然でしょう。

このときに基礎の外側だけを住宅診断(ホームインスペクション)の対象として、ひび割れだけをみて「構造部分に達していないひび割れで、ヘアークラックというものだから大丈夫」という結果を出したケースがありました(他社さんの調査結果です)。

しかし、床下へ潜って調査したところ、外にひび割れのあった箇所の床下側にはもっと大きなひび割れが入っていることが確認されました。床下側から見る基礎は、コンクリートが露出しており主要構造部にひび割れが生じていることがわかったのです。

さらに、1階と2階で床の傾きが確認されました。それほど大きな傾きではないのですが、新築してから1年も経過していない時期なので、傾きが進行中の可能性も考えられます。そこで、次に地盤調査報告書を確認したところ、軟弱地盤であることがわかりましたが地盤補強がなされていません。設計者の判断で不要と判断したようですが、補強しないと心配される調査結果だと判断しました。

基礎外側のひび割れが軽微なものであったものの、築年数が新しく、まだ症状が出てきている途中だったのです。

ひび割れや傾き、染みなどは1つの症状でしかありません。人間でいえば、熱があるとか体がだるいと言った症状だと同じで、それだけでは適切な診断結果を出せないことがあるのはわかりますね。他にも異変がないか問診したり、ときには検査したりして診断結果を出すものです。

住宅でも同じように、他にどのような症状があるのかないのかを確認しないことには、適切な診断結果を導き出せないことは多いです。建物の異変・症状というものは、一般の人が気づきづらいものもあるため、建物全体点を点検することが大事なのです。

基礎のひび割れの調査については、一戸建て住宅の基礎ひび割れ(クラック)の住宅検査・診断を参考にしてください。

高額なインスペクション

部分的な調査をきっかけに高額な住宅診断(ホームインスペクション)へ

部分的な調査・診断では、適切に判断できないことがあることを説明しても、「他社は一部分のみの調査もしているではないか」と言われることもあります。確かにそういう業者を見かけることもあります。なぜ、そういう業者が存在するのかも説明しておきましょう。

部分的な診断(インスペクション)が不適切なのは専門家なら知っている

前述したように、部分的な調査・診断では適切に判断できないことがあることは、住宅診断(ホームインスペクション)の基礎的な知識ですから、部分的な診断(インスペクション)を行っている業者もこのことはよく知っているはずです。

建築現場関係の仕事の経験が何年もある人ならば、部分的な診断のリスクを想像できるでしょうし、住宅診断(ホームインスペクション)を業務としている専門家なら必ず知っているのです。

但し、詳細に調査するまでもなく、主要構造部に関わるような心配はないというケースもありますから、それだけを判断する目的ならば部分的な調査もありかもしれません。ただ、そういったものは写真だけ見ればわかることも多いです。

最初は安くても後から高額請求がくる

部分的な調査を実施して、詳細な調査が必要と判断されれば、結局、その後の調査費用の負担が生じます。最初の部分的な調査だけでは判断できないので、次回は全体を調査すべきだという結果が出れば依頼せざるをえないですね。

最初に格安で部分的に確認してもらうと、その業者に継続的に調査依頼するケースが多いため、その後の調査費用が割高になることも多いです。酷い金額を請求されているケースもあります。

住宅診断(ホームインスペクション)の依頼に際しては、部分的な調査ではなく、建物全体を診てもらうことを前提として考えたほうがよいでしょう。

ここで取り上げたことは、業者選びとも関係があることですから、ホームインスペクション業者の選び方も参考にしてください。

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。