所有する住宅や相続した住宅について、建て替えすべきか、もしくはリフォーム(リノベーション)すべきかで迷っている人は非常に多いです。アネストでは、中古住宅に対してもホームインスペクション(建物の劣化状態の診断)を行っていますが、多くの人から「建て替えするかリフォームするか迷っているので、建物の状態を把握するために、ホームインスペクションをお願いしたい」という依頼があります。
築30年以上の住宅においてよくあるご要望ですが、築40年や築50年といったより古い年代の建物において、依頼する人が多いです。
築年数が何年かという単純な条件だけで判断すべきことではないので、リフォームと建て替えで迷っている人向けに、それぞれのメリット・デメリットを紹介した上で、建築費用や高齢者になってからの建て替えの難しさ、建物状態を確認すべきこと、ホームインスペクションを活用して判断材料にするメリットについて解説します。
建て替えとリフォームの基礎知識
住宅の建て替えとリフォームの違いは皆さん、わかりますよね。ここでは、簡単に説明しておきますので、必要なければ読み飛ばしてもよいでしょう。
建て替えとは?
建て替えとは、今存在している建物を完全に取り壊して、新しい建物を再建築することです。既存の建物の一部を再利用するわけでもなく、完全に取り壊して、最初から全てを建て直すということです。
リフォームとは?
リフォームとは、割と広い意味で用いられる言葉で、住宅の一部について、何らかの変更を加える工事のことです。
たとえば、壁紙(クロス)の張り替えをするだけでもリフォームですし、キッチンやトイレなどの設備の交換もリフォームですし、外壁や屋根の再塗装もリフォームです。一方で、一部の間仕切り壁を解体して間取り変更するような工事もリフォームの一種です。
リフォームには、小規模な工事から大規模なものまで含まれています。
似た意味で用いる言葉にリノベーションというものがありますが、これは、建物の価値を高めるような改修工事を意味して使われていることが多く、一般的には、リフォームよりも工事規模が大きいイメージをもたれています。
しかし、リフォームとリノベーションには明確な違いはなく、リフォーム等の業者によっても使い分けが明確ではありません。
建て替えとリフォームは明確に違いがあり、建て替え既存建物を完全に取り壊してから新築し、リフォームは既存建物の一部の改修や修繕工事です。
建て替えのメリット・デメリット
住宅を建て替えするメリットとデメリットを紹介します。ここでは、リフォームとの比較が目的であるため、リフォームに比べてのメリット・デメリットということになります。
建て替えのメリット
リフォームに比べて建て替えをするメリットとしては、以下の事項が挙げられます。
- 設計・プランニングの自由度が高い
- 耐震性などの住宅性能を上げやすい
- 基本構造部分も新しく長持ちを期待できる
- 保証・保険が手厚い
これらについて、もう少し掘り下げて説明します。
設計・プランニングの自由度が高い
建て替えするのであれば、既存建物の構造等による制約がないため、法規制・土地条件等による制限内において、自由に建物を設計することができます。既存建物から大幅に間取り変更したいのであれば、建て替えの方が向いていることが多いです。
耐震性などの住宅性能を上げやすい
設計の自由度が高いことと関連しますが、既存建物の影響を受けないので、予算の許す限り、住宅性能を高めることができます。地震国ですから耐震性を高めたいというニーズは高いですし、日々の快適性やエネルギー効率を考えて断熱性を高めたいというニーズも高いです。
そういった住宅性能のなかでも、耐震性をあげつつも建物のデザイン、間取りへのこだわりが強いなら、建て替えを優先的に考える方がよいでしょう。
基本構造部分も新しく長持ちを期待できる
建て替え工事をするなら、基礎、柱、梁、筋交いなどの構造耐力上、重要な部位も全てが新しいものとなるわけですので、完成後の耐久性がリフォームより高く、長持ちする住宅を建てやすいです。まだまだ永く住み続けるならば、建て替えを優先的に考えるとよいケースが多いです。
保証・保険が手厚い
新築住宅を建設すると、建物の構造耐力や雨漏りの防止に関わる部位について、引渡し日から10年間は建築会社が保証することが法律によって義務付けられています。さらに、その会社が倒産するなどして保証義務を履行できないときのために、法務局へ供託するか瑕疵担保責任保険に加入するかのいずれかも義務付けられています。
つまり、新築住宅は、リフォームに比べて保証・保険が充実しているということです。
建築会社によっては、保証する部位を法律で規定している以上の範囲に広げたり、保証期間を延ばしたりしていることもあります。
建て替えのデメリット
リフォームに比べて建て替えをするデメリットとしては、以下の事項が挙げられます。
- 建築費用が高くなる
- 工事期間が長い(完成までに時間がかかる)
- 仮住まいへの転居が必須
デメリットについても、もう少し掘り下げて説明します。
建築費用が高くなる
既存の建物を活かすリフォームに比べると、建て替え工事の方が建築費用は高くなります。その差額は、工事規模・内容によりますが、1000万円以上の差となることも多いですし、2000万円以上の差額ということもありえます。
工事期間が長い(完成までに時間がかかる)
建て替え工事は、既存建物の取り壊し・整地・新築工事が必要であり、条件次第では地盤補強工事も必要です。よって、リフォームよりも工事期間が長くなります。設計の期間を除いて、解体から建物完成までには、3~1年くらいかかります。
仮住まいへの転居が必須
既存建物が無くなるわけですから、その住宅に住んでいたのであれば、仮住まいへの転居は必須です。転居費用、家賃などが発生することは、仮住まい先の家賃を抑えると狭い部屋での生活となることもあります。
リフォームのメリット・デメリット
建て替えに比べてリフォームするメリットとデメリットを紹介します。
リフォームのメリット
建て替えに比べてリフォームをすることのメリットを紹介します。
- 建築費用を安く抑えられる
- 工事期間が短い
- 仮住まいへの転居なしで対応できることもある
- 思い入れのある建物を残し、受け継ぐことができる
これらのメリットについてもう少し詳しく説明します。
建築費用を安く抑えられる
リフォーム工事は、既存建物を残して再利用するため、建て替えするよりも建築費用を抑えることができます。どれくらい抑えられるかは、どれだけ既存建物をそのまま利用するかによって大きく異なります。
工事期間が短い
リフォームは、工事規模が建て替えよりも小規模であるため、工事期間も短くなります。工事内容・規模・条件によりますが、数週間から3ヶ月くらいが目安です。
仮住まいへの転居なしで対応できることもある
リフォーム工事の内容と規模次第では、仮住まいへの転居が不要なことも多いです。工事の効率が下がりますが、部屋ごとに順にリフォームしてもらうこともあります。ただし、工事効率が下がると建築費用が高くなることもあるので、仮住まいを利用する場合の家賃等と比較することも考えましょう。
思い入れのある建物を残し、受け継ぐことができる
両親などから相続した住宅や価値ある古民家である場合、できる限り、その建物を残して活用したいという気持ちもあるでしょう。リフォームやリノベーションの仕方次第では、そういった価値を受け継いでいくこともできるので、リフォームを検討するとよいでしょう。
この場合、良い設計者やリフォーム会社との出会いも必要です。
リフォームのデメリット
建て替えに比べてリフォームをすることのデメリットを紹介します。
- 設計・プランニングの自由度が低い
- 構造耐力・耐久性の改善度合いが低いことが多い
- 想定外の問題発生で追加費用が必要となることが多い
- 工事の難易度が高いことが多い
- 居住しながらの工事は煩わしい
- 保証・保険がリフォーム対象範囲に限られる
これらのデメリットについて詳しく説明します。
設計・プランニングの自由度が低い
リフォームする場合、どうしても既存建物の構造・工法・耐力壁(柱・筋交いなど)の位置によって、制約をうけがちです。大規模な改修工事によって、例えば耐力壁の位置・仕様を変更することもできますが、そのためには安全性の確認にも技術とコストが必要です。
大きく改修するリフォームなら、建築費用がそれなりに高くなってしまうし、難易度も上がるということです。そういった制約の範囲内でリフォームをするとコストを抑えられる反面、設計の自由度が低いということになります。
構造耐力・耐久性の改善度合いが低いことが多い
リフォーム後に長く住みたい、使いたい場合、建物の構造耐力や耐久性も改善したいと考えるでしょう。しかし、部分的にリフォームでは、その目的を達成することが難しく、中途半端なものとなってしまうケースが散見されます。
特に抜本的な改善を求める場合、建物の状況次第では、リフォームでの対応には限界を感じることが多いでしょう。
想定外の問題発生で追加費用が必要となることが多い
リフォームの難しいところであり、大きなデメリットだと言えるポイントの1つが、工事を始めていくなかで想定外の問題が見つかって、その対応のために追加費用がかかることがよくあるという点です。
それまで隠れて見られなかった部位で、想定外の腐食・腐朽などがあると、追加費用が数十万円単位で何度か増えていくという事例もあります。想定外の補修費用の追加だけで100万円単位になるということもありうるのです。
工事の難易度が高いことが多い
リフォームは、新築するよりも工事規模が小さいので簡単な工事だと誤解している人も多いですが、実は、新築する方が簡単でリフォームの方が難易度は高いと考える業界人の方が多いです。
その理由は、前述したように、工事を始めてみてようやく確認できる問題が出てくることがあること、既存建物を活かすことと施主が求める住宅プランの両立が簡単ではないことなどが挙げられます。
居住しながらの工事は煩わしい
リフォームのメリットの1つである仮住まいへの転居をせずに工事を始めると、毎日のように職人が出入りするので、「落ち着かない」「気を遣う」「音が煩い」といった意見を聞くことも少なくありません。態度の良くない職人が出入りしていて怖いという声を聞くこともありました。
仮住まいの家賃を抑えられるメリットも大きいですが、この煩わしさが気になる人には向かないでしょう。
保証・保険がリフォーム対象範囲に限られる
リフォームにも新築住宅と同様に保証や保険制度があります。しかし、新築に比べて充実した内容とは言えませんし、保証等の対象範囲は当然ながらリフォーム工事をした部位です。リフォームしていない部位は古いままなので問題が生じることがありますが、そこは保証されません。
また、リフォーム保険に加入していないリフォーム業者も多いので、契約する前に保証や保険の内容についてはよく確認しておきましょう。
リフォームと建て替えで迷ったときの注意点とアドバイス
リフォームと建て替えのメリットとデメリットを紹介してきましたが、これらを見ただけでは判断しづらいという人も多いでしょう。ここでは、迷ったときに見てほしい注意点やアドバイスを紹介します。
建築費が高くなったのは新築もリフォームも同じ
建設業界の人手不足や建築資材・設備の価格高騰によって、建築費が高くなっています。2010年頃と今(執筆時点の2024年)では、考えられないくらいの価格差となっています。
建築費の高騰は、新築工事でもリフォーム工事でも同じです。どちらでも工事単価は上がっています。
建て替えして新築するには、建築費の総額が高すぎるので、リフォームにしておこうという人もいますが、将来的に建て替えするときに今より建築費が安くなっているかは不透明です。まだまだ上がるという意見もあるくらいです。
建て替えとリフォームで建築費用が変わらないこともある
基本的には、建て替えするよりもリフォームする方が、建築費用を安く抑えられます。しかし、リフォーム規模等によっては、差額が思ったほど大きくないこともあります。
新築する場合、ローコスト住宅の選択肢も多く、たとえば、建物面積が100平米(約30坪)の建物を1,500万円くらいで建築する事例もありますし、もっと安く建てている事例も少なくありません。
小規模なリフォームと比べても仕方ないですが、工事規模が大きなリノベーションをする場合、同じ規模で1,000万円以上かかることもよくあります。
この建築費用の差額と建物の構造耐力や耐久性などの性能面を比較して、よく検討する必要があるでしょう。
高齢者になると建て替えが難しい人が多い
将来は建て替えをするので、今はリフォームにしておこうという考えの人も多いです。その将来、自分が何歳なのか、そのときにどれくらいの自己資金を用意できそうなのかといったことをよく考えて判断しなければなりません。
若いうちには住宅ローンを組みやすいですが、自分が高齢になると融資を受けづらくなりますので、高額の自己資金が必要となります。それを用意できるかどうか検討しておくべきでしょう。
建物の状態次第でリノベーションどころではないことがある
リフォーム工事のために建物の一部を解体してみたところ、基本構造部分である土台や柱などで広範囲に著しい劣化事象が見つかり、それらを補強もしくは交換する必要性が生じることがあります。また、既存建物の設計図に記載されていた筋交いが無いことが判明し、当初の設計プランでは耐震性が不足するとわかり、耐震補強が必要となることもあります。
つまり、リフォームでは、想定外のことがおこりうるということです。
リフォームのデメリットのところでも述べましたが、想定外の追加費用がかかることや、工事の難易度が工事途中に挙がってしまうことがあり、それらの対応について、施主とリフォーム業者の間で揉めてしまうこともあります。
リフォーム業者のレベルによっては、事前調査で把握できたようなことを見逃していたために、そのようなトラブルになっていることもありますが、事前に見抜くことが不可能であったこともあります。よって、そういうリスクがあることをよく理解した上でリフォームか建て替えかを判断しなければなりません。
ホームインスペクションで建物の状態を確認しよう
リフォームするか建て替えするかは、住宅所有者の間では永遠のテーマとも言えるでしょう。多くの人が、どこかのタイミングでこの課題に直面することになります。若い頃に購入した家に住んで40年経過しているとか、親から相続した家が築35年とか、いろいろな状況がありますね。
適切に判断していくためには、その地にずっと住み続けるのか、状況次第で賃貸に出すことがあるのか、一時的に居住するだけなのか、資金計画がどうかなどのライフプランと共に建物の状態をしっかり把握することが必要です。
そのために利用されているのが、ホームインスペクションです。建物の劣化状態を確認できるので、これをリフォームか建て替えかの判断をするときの参考材料とすることができます。ただし、インスペクションで、建物の全てを透視して見られるわけではなく、目視できる範囲で専門的な意識・技術の裏付けの基で診断するものです。
よって、リフォームすると判断した場合でも、建物の一部を解体したときなどに、再度、隠れていた箇所の診断をしつつ進めていく必要があります。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。