第三者の一級建築士による中古住宅の住宅診断(ホームインスペクション)の事例をご紹介します。
対象物件は、木造軸組工法(在来工法)の中古一戸建て住宅で築年数が28年の建物でした。築30年に近い建物ですが、築年数相当の劣化具合であるのか、築年数よりも状態がよいものか、もしくは築年数よりも状態が悪いものか、この評価の違いは購入判断に影響するところですね。
建物外部の劣化状況
建物の外側から目視・打診・触診によって、基礎や外壁面の調査を行っていきました。基礎コンクリートの状態は問題ないもので、細かなひび割れ(ヘアークラック)もなく、安心できるものでした。
外壁はサイディング材で仕上げられていますが、そのサイディングは劣化が進んでおり、触れると手に白い粉が付くような状態でした。サイディングのシーリングも劣化が進んでいるため、購入後には外壁は全体的に補修が必要な状況です。
屋根はベランダや地上からの簡易的な確認であるため、今回の住宅診断(ホームインスペクション)では細かなところまではわかりません。しかし、目視でわかる範囲では、屋根も劣化が進んでいるように見えるため、外壁の補修工事のために足場を組んだときに屋根の詳細を点検して必要に応じて一緒に補修することも考慮した方がよいとアドバイスしています。
また、樋にはいくつか割れがあったため、補修か交換が必要な時期にきています。外部については、基礎以外は全体的に補修を検討する時期に来ていたと言えます。
掘り込み車庫の劣化状況
傾斜地には掘り込み車庫になっている物件も多いですが、今回の物件もそうでした。鉄筋コンクリート造の掘り込み車庫でしたが、目視でひび割れなどの症状の有無を確認していきます。壁や床面に細かなひび割れが多数発生しており、今すぐ構造的に問題があるというわけではないものの、補修を考えた方がよい時期です。
傾斜地の場合、高い方から低い方へ土の圧力がかかり、これにより建物に負担がかかって様々な症状が出てくることがあります。このままでは崩れてしまうというほどではなく、時間の経過によりもうすでに落ち着いた状態である可能性も考えられるため、変化が無いかしばらく様子をみるとよいでしょう。
ひび割れが悪化するようであれば、やはり補修をしておきたいものです。ただ、排水桝の周囲の土地に陥没が見られ、今後も注視しておく必要はあるでしょう。
床下の調査で数々の指摘があがる
床下内部の詳細な調査(オプション)もご依頼であったため、床下へ進入して調査を行いました。
基礎コンクリートは良い状態
基礎コンクリートは建物の内側(床下側)から見ても、ひび割れ等の問題はなく、築28年という年数を感じさせないものでした。配筋工事やコンクリート打設工事の施工品質が良かったのではないかと考えらえます。
断熱材もよい状態
また、断熱材も施工されており、その状態もよいものでした。この築年数でなくとも、断熱材は地面に落下しているなど指摘が上がる確率が高いのですが、今回の住宅では問題ありませんでした。
床下で蟻道が発見される
床下ではシロアリの被害が無いか確認することは大事な調査項目です。残念ながら、地面から床へと伸びていく蟻道が確認されました。蟻道は簡単にいえばシロアリが通る道ですから、シロアリがいたことを表します。
土台の腐食と漏水
さらに床下の調査を進めていくと、土台の一部がかなり腐食している個所がありました。
そして、基礎コンクリートに漏水痕も確認されました。
これらの場所から、浴室からの漏水の可能性が考えられ、購入後にはこれらの補修も検討しなければいけません。
屋根裏の調査
屋根裏の内部も調査しました。断熱材の状態に問題はなく、雨漏りや結露の痕もありません。確認できる範囲で金物に緩みがあったため、購入後には他の金物も確認して補修した方がよいでしょう。
今回の住宅診断(ホームインスペクション)を総括するならば、基礎の状態は築年数を感じさせないほど状態はよいものの、基礎以外においては築年数のわりに劣化の進行が早く、補修すべき範囲が広いものでした。土台の腐食や外壁のシーリングなどは早めの補修が望まれるものであり、この物件を購入するのであれば、その補修費用も予算に入れておく必要があります。
これまでに、あまりメンテナンスしてこなかったと思われ、これから買って暮らす人が適切な補修とメンテナンスをしていくといいですね。
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執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。