ホームインスペクション(住宅診断)のアネストでは、毎日、全国のどこかで住宅のインスペクションをしていますが、その対象となっている中古住宅において、売主が不動産会社である物件が本当に多くなったと感じています。
社内でその割合を計算しているわけではないこともあり、少し気になって売主が不動産会社である中古住宅、つまり買取再販物件についてのデータを見てみました。ネットでこの関連記事を見ると基本的に全て矢野経済研究所のデータを引用していますね。こちらを参考にして、実態や買主にとっての注意点を考えてみます。
売主が不動産会社である中古住宅は増加傾向が続く
住宅売買の関連市場で仕事をしていると意識していなくても気づくほどに、不動産会社が売主となっている、つまり買取再販物件が増えています。それを裏付ける市場調査結果が前述した矢野経済研究所のホームページにも掲載されています。
参考サイト
矢野経済研究所の「中古住宅買取再販市場に関する調査を実施(2023年)」
これによれば、2022年は41,000戸で、これはその前年比で5.1%増となっています。それ以前からも概ね増加傾向にあることも含めて、上のサイトでグラフでも確認できます。
そして、今後の予測も掲載されており、2025年には44,000戸、2030年には50,000戸となっています。2030年は2022年に比較して20%以上の増加予測ですね。
不動産仲介業の競争が厳しい
不動産仲介事業は、以前から競争が厳しく、特に小規模・零細の不動産会社にとっては、業者数が多い上に差別化が難しいこともあって、仲介だけで安定経営は難しいところです。資金力があるなら、買取再販事業にも乗り出すのは自然な流れでしょう。
異業種から買取再販事業への参入が増えている
中古住宅の買取再販事業は、既存の不動産仲介業者のほか、ハウスメーカーや工務店(リフォーム業者を含む)なども参入しており、多数の企業が手掛けるようになっています。不動産会社やハウスメーカーは、住み替え、建て替えなどの需要を取り込む流れのなかから手掛けやすいですね。
中古住宅の買取再販とは?
ここで、何度も出てくるワード「買取再販」について、基礎的なことを紹介しておきます。当サイトは、一般ユーザー向けですので、何とかなくイメージで来ているけど、実は自信がないという人もいるでしょう。
不動産会社が、住宅の所有者からその住宅を買い取って、別の人(基本的には新たに住みたい人)に転売することを買取再販と言います。そして、その多くの場合において、その不動産会社は、買い取ってからリフォームして売却しています。
よって、「不動産会社が買い取った家をリフォームして新たな消費者へ売るビジネス」と捉えて概ね、間違いありません。
ちなみに、ハウスメーカーや工務店なども参入していると前述しましたが、これらの企業も買取再販事業をするからには、宅建業の免許をとっているので、不動産会社でもあります。
自宅を売却しようと不動産会社に売却価格の査定依頼をすると、「当社で下取り(=買取り)もできますよ」「お急ぎなら、少し安くなりますが買い取り業者を紹介できます」などと提案されることもあります。
今住んでいる住宅とは別の土地にマイホームを新築しようと住宅展示場へ行くと、今の自宅の買取を提案されることもあります。
そのように様々な話の流れのなかから買取再販ビジネスへつながっていくわけです。
売るためのリフォームと住む人のリフォームの違い
不動産会社が売主の中古住宅では、その多くがリフォーム済みで販売されています。このことは、買主にとって購入後にリフォームしなくてよいというメリットと言われているのですが、必ずしもメリットとならないことも理解しておくべきです。それは、売るためのリフォームと住む人のリフォームの違いにあります。
売るためのリフォーム
不動産会社は、どのようにして売る(再販する)とそのビジネスが成功するか、より儲かるかを考えます。ビジネスですから、その考え自体が悪いわけではありません。むしろ、当然のこととも言えます。
不動産会社や個々の物件の条件・市場環境などによって違いは小さくないですが、不動産会社が「表面上の見えるところだけ綺麗にして売ればいい」と考えるケースは少なくありません。購入検討者が現地見学(内見)に来たときに見える部分だけを綺麗にしておけば売れるだろうとの考え方です。
住む人のリフォーム
ここで言う住む人のリフォームとは、中古住宅を買った人が自分の好み、生活などに合わせて行うリフォームのことです。その住宅に長く住みたいと考えれば、表面上を綺麗にするだけではなく、隠れて見えない部分でも長持ちさせるために必要なら補修しておきたいと考えるのは自然なことですね。
その住宅で暮らしていくわけですから、買うときや買った後の数年だけのメリットではなく、もっと先のことまで考えたいと思う人は多いでしょうし、そうあるべきと言えます。
結果的に、不動産会社が売るためにするリフォームと購入者がしたいリフォームには決して小さくない違いが生まれるものなのです。
デザイン・性能を考慮した買取再販物件も増えている
買取再販ビジネスに参入する企業が増えていることは前述したとおりです。市場規模が拡大しつつあるとはいえ、それでも競争は激しくなってきています。中小・零細の不動産会社では、すでに撤退している会社もあるくらいです。
そういう状況下で、他社との差別化のためであったり、1つ1つの住宅のこと、業界のこと、これから住む人のことなどを考たりして、単純に表面的な綺麗さだけを取り繕うのではなく、住宅のデザイン性や性能・機能面をよく考えてリフォームしている住宅も増えました。
今後、こういった買取再販物件は増えると思われ、どの物件でも「売るためのリフォームと住む人のリフォームの違い」で書いたようなものではない、つまり、そんな単純な話ではなくなってきています。売るためのリフォームも、より追求していくと住宅にとっても買主にとってもプラスとなることがあるわけです。
不動産会社の買取再販の物件でも失敗事例はある
既に買取再販ビジネスから撤退している不動産会社もあると書きましたが、この事業で失敗している業者もたくさんあります。
きちんと「売れる価格」を見極められないと失敗するのは当然ですが、不動産会社でもその適切な判断を誤ることはあります。市場相場を逸脱した高すぎる販売価格で売り出している物件があり、当然のようにいつまでも売れ残ってしまっています。そういう物件は徐々に値下げしながら販売していることが多いですが、なかなか売れません。
都市部の中古マンション価格が上昇傾向だからと強気の価格設定を前提として、仕入れ(元の所有者から買取)してリフォームして売り出したものの、全然売れないということがあるのです。今、住宅の売買価格が踊り場に差し掛かっている様子もあるので(まだ不明ですが)、今後、さらに失敗事例が増える可能性もあります。
買取再販ビジネスの成功には、仕入れ力と売れる価格の見極め力が必須ですね。
不動産会社が売主である買取再販物件の購入時に買主が注意すべき点と対策
本サイトは、主に住宅購入者の方にホームインスペクション(住宅診断)を行う会社として、購入時に役立つ情報を紹介する目的もありますので、最後に買主が買取再販物件を買うときに注意すべき点とその対応策を紹介しておきます。
売るためのリフォームに騙されないように注意
前述したように、売るためのリフォームと住む人のリフォームには違いがあることも多いです。内見したときの見た目の綺麗な印象だけで判断していると、大きな過ちを犯すこともありえますので、注意してください。
住み始めてしばらくしてから、床下の構造材の腐食や断熱材が無い箇所が多かった事例、天井や内壁から雨漏りが発生(リフォームで症状が隠されていた疑い)した事例などもあります。
リフォームしていない箇所を確認する
リフォームすることによって、壁や天井などに元々はあった不具合などの症状が一時的に隠れていることがあります。それを見抜くのは難しいため、リフォームしていない箇所を確認するようにしましょう。リフォームしていない部屋があれば、そこも対象ですが、特に床下や屋根裏はリフォームしないことが多いので、ぜひ確認したいところです。
点検口から覗き込んで、できる限り確認してください。自分で内部へ潜っていくのは危ないことも多いので、無理せず、専門家にホームインスペクション(住宅診断)を依頼することも考えてください。
インスペクションで何もかもわかるわけではないですが、専門知識と経験、見るべきポイントを抑えることで、一般消費者より多くのことを知ることができるでしょう。
見えない部分の補修をしたかヒアリングする
買取再販物件の見学に行くと、どこをリフォームしたか見たり、説明を受けたりできるものですが、見えていない部分で何か不具合がなかったか、それを補修したか、どのように補修したか確認するとよいでしょう。
良い業者なら、リフォーム・補修工事前の写真と工事内容の資料を用意していて提示してもらえることもあります。そういった不動産会社ばかりになれば、理想ですね。
以上、中古住宅の売主が不動産会社である物件を購入しようとする人に読んでおいて欲しいことをまとめてみました。参考にしてみてください。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。