中古住宅を購入する人のうち、一定の条件に該当する人や物件である場合に必要となるのが、耐震基準適合証明書です。誰もが必要とするわけではないですが、必要な人も多いので購入する前に理解しておきましょう。
本来ならば、不動産会社から教えてもらえるとよいことですが、担当者によっては教えれくれないことや、質問しても明確に回答できない人も少なくありません。これによりメリットを受けられるのは買主ですから、買主が自ら調べる手間をかけるべきでしょう。
今回のコラムで紹介するのは、以下の項目です。
- 耐震基準適合証明書とは?
- 耐震基準適合証明書のメリット
- 耐震基準適合証明書に関する注意点
- 対象となる建物
- 住宅ローン控除を受ける方法は耐震基準適合証明書だけではない
- 耐震基準適合証明書の依頼から発行までの流れ
これらの知識を中古住宅の購入前に抑えておけば、スムーズに進めることができるでしょう。それでは、具体的に解説していきます。
耐震基準適合証明書とは?
住宅購入を進めていくなかで耐震基準適合証明書という書類の存在を知る人は多いでしょう。書類の名称より、耐震性を証明する大事な書類だろうと想像する人が多く、その内容や用途を知らずに希望する人から問合せを受けることもあります。
この書類が必要な人もいれば、全く必要ない人も多いですから、まずは耐震基準適合証明書とはどういうものなのか、あなたに必要なものなのか理解してください。
耐震基準適合証明書を発行する前に耐震診断が必要
耐震基準適合証明書を発行してもらうには、耐震診断を行って一定の基準に適合していることを確認する必要があります。基準に適合していることを確認する作業なくして、証明書を発行できないわけです。
耐震診断とは、現地調査と設計図の確認結果を基に建物の耐震性を求めることです。専用のプログラムに調査結果等のデータを入力していくことで、診断結果が算出されます。通常は、耐震診断の講習を修了した者がこの業務を行います。
用途(何のために必要な書類か)
耐震基準適合証明書は、主に住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除やローン減税と呼ばれることが多い)や登録免許税の軽減など、税金面での優遇を受けるために使用するものです。
税金面の優遇を受けるための条件の1つとして、古い建物の場合は耐震上の安全性を確認することになっており、その確認をした証明書というわけです。
つまり、税金面の優遇を受けない人には必要ないものですし、古い建物を購入しない人にも必要ないものです(構造と築年数の要件次第ではこの証明書がなくても税金面の優遇を受けられるため)。構造と築年数の要件は本ページで後述するのでこのまま読み進めてください。
2022年(令和4年)度の税制改正により、建物の登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降であれば、耐震基準適合証明書や既存住宅売買瑕疵保険の保険付保証明書がなくても住宅ローン減税を受けられることになりました(追記:2022年4月1日)。
参照:2022年度の改正で住宅ローン控除の耐震基準適合証明書は必要なくなった?
住宅借入金等特別控除とは?
税金面の優遇を受けるための書類だと分かったと思いますが、そのなかでも最大の優遇になりうるものが、住宅借入金等特別控除です。不動産会社の営業マンからは「住宅ローン控除」や「住宅ローン減税」という通称で聞くことの方が多いでしょう。
この住宅借入金等特別控除は、住宅ローンを利用して一定条件の住宅を購入する人が所得税等の控除を受けられるもので、人や借入金などの条件にもよりますが、数十万円~数百万円の減税となるので、ぜひこのメリットを享受したいものですね。
耐震基準適合証明書を取得するメリットについては、本ページにて後ほど詳しく解説します。
耐震基準適合証明書の申請者と費用負担
この制度の以前の運用では、耐震基準適合証明書の申請者は所有者、つまり売主とされていました。しかし、今では変更されており、買主が申請者になることができます。
この制度の利用でメリットがあるのは、買主です(税金が安くなるメリットです)。それだけに、多くのケースで費用負担をするのも買主ですが、以前の運用のままでは申請者名と費用負担者に違いが生じてしまい、少し複雑でした。
これが改善されて、今では買主でも申請者になることができるのです。
しかし、不動産会社やその担当者によっては、この変更点を知らずに買主や売主へ案内していることが散見されています。さらには、税務署の署員でもこの変更を知らずに、確定申告する人に対して「申請者が売主になっていないので、この耐震基準適合証明書は無効です」と間違って説明しているケースが少なからずありました。
以上のように、売主でも買主でも申請者となることはできるのですが、買主がメリットを受けるわけですから、基本的には買主が申請するのがスムーズでしょう。
耐震基準適合証明書のメリット
中古住宅を購入する人のうち、多くの人が耐震基準適合証明書の発行を希望しますが、これを取得するメリットについて理解しておきましょう。このメリットを並べると以下のとおりです。
- 住宅借入金等特別控除
- 登録免許税の軽減
- 住宅取得資金の贈与に対する贈与税の非課税
- 不動産取得税の軽減
- 地震保険の保険料の割引
これらのメリットについて、各項目を少し掘り下げて解説します。
住宅借入金等特別控
住宅借入金等特別控除とは、一般的に住宅ローン控除や住宅ローン減税と呼ばれているものです。この言葉なら聞かれたことがある人も多いでしょう。
住宅の購入に際して住宅ローンを借り入れする場合に、所得税等が減税されるので、多くの人にとってメリットが大きいですから、該当条件を満たすならぜひ手続きしておきたいところです。但し、住宅ローンを利用せず現金で購入する人にとっては関係ないことです。
登録免許税の軽減
住宅を購入すれば、売主から買主へ所有権を移転するので、所有権移転登記を行います。また、住宅ローンを利用して購入するならば、債権者である金融機関が抵当権を設定登記します。これらの登記には、登録免許税という税金が課されます。
この耐震基準適合証明書があることで、この登録免許税が軽減されるというメリットがあります。前述の住宅ローン控除ほどの大きなメリットにはならないことが多いですが、それでもメリットにはなります。
住宅取得資金の贈与に対する贈与税の非課税
住宅購入に際して両親等から購入資金の一部について資金援助を受ける人も少なくありませんが、通常なら贈与した金銭は贈与税の対象となります。しかし、条件次第では適合証明書があれば非課税となるのです。該当者にとっては大きなメリットです。
不動産取得税の軽減
住宅を購入した場合、取得した不動産に対して不動産取得税が課されることも多いです(物件の条件によっては課されても少額な場合もある)。適合証明書があれば、この不動産取得税も軽減の対象となります。ただし、昭和57年以降1月1日以降に建築された住宅においては、適合証明書が不要とされています。
地震保険の保険料の割引
昭和56年6月1日以降に新築された住宅である場合、建築年割引により地震保険の保険料が10%の割引になることがあります(耐震等級等による割引率のアップがある場合もある)。
しかし、これより古い住宅であったとしても耐震診断により昭和56年6月1日に施行された建築基準法の耐震基準を満たす住宅であるなら、耐震診断割引(10%)を受けられることがあります。これを証明する書類の1つが耐震基準適合証明書です。
但し、この年代の建物である場合、適合証明書を取得できる可能性は非常に低いため、現実的には地震保険の割引に役立つケースは少ないでしょう。
耐震基準適合証明書に関する注意点
次に、耐震基準適合証明書に関して住宅購入者が知っておくべき注意点を解説します。これを知らずに、取引を進めても前述したメリットを受けられなかったり、進めた手間やかかった費用を無駄にしてしまったりするので注意してください。
新築住宅なら耐震基準適合証明書は不要
そもそもどのような建物でも耐震基準適合証明書が必要なわけではありません。新築住宅ならば、この証明書がなくても住宅ローン控除などのメリットを受けられます。中古住宅であっても、築年数や構造の条件によっては必要ない物件も非常に多いです。
必要ないのに手間とコストをかけても仕方ないですから、事前に条件を確認しておきましょう。築年数や構造の条件については後述の「対象となる建物」を参考にしてください。
耐震基準適合証明書を取得できない物件も多い
住宅ローン控除等のために耐震基準適合証明書が必要な条件の物件のなかには、残念ながらこの証明書を取得できない物件もあります。しかも、そういった物件は決して少なくありません。
建物の耐震性能が一定の基準に適合したものであるかどうか、耐震診断によって確認するわけですが、この基準に適合しない住宅も多いからです。
傾向としては、築年数が古いものほど耐震性が低いので、耐震基準適合証明書を取得できない確率が高くなります。昭和56年6月1日以降の建築基準法の耐震基準がラインになるため、それ以前に新築された住宅では特に難しく適合する物件は非常に少ないです。
適切な耐震改修工事を実施しており、且つその工事内容を確認できる図面等があれば、取得できる可能性は上がります。しかし、名ばかりの耐震改修工事で耐震性が不足していることも多いため、診断してみないことには結果はわかりません。
これ以降に新築された住宅であっても、建物の壁配置のバランスや劣化具合によって不適合となってしまう物件は少なくありません。アネストの耐震診断の実績でも、築年数が30年を超えると不適合になる確率が高くなります。
基本的には実際に耐震診断をしてみないことには適否の判断はできないものの、極端に可能性が低くないか、依頼する前に診断業者へ相談した方がよいでしょう。
不動産業者から教えてもらえないことがある
住宅ローン控除等のメリットを得るために、購入予定の物件ならば耐震基準適合証明書等の対応が必要であることを不動産業者が買主へ説明すればよいのですが、教えてもらっていない買主も少なくありません。
その理由の多くは、単純に不動産業者の勉強不足によるものです。
不動産業者は、不動産取引のプロであるはずですから、本来ならば必要な物件ならば買主へ説明してあげるべきだと考えますが、知識不足で気づいていない営業マンは多いです。買主が自分で勉強しておく必要があるわけです。
普段から中古住宅の売買をあまりしていない会社や不動産売買の経験が浅い担当者である際は注意してください。
引渡し後では手遅れになる
耐震基準適合証明書の取得時期には制限があります。購入する前に手続きをしておく必要があるのです。
引渡し後、確定申告の時期になってから、「耐震基準適合証明書を取得したい」と相談を受けることがありますが、残念ながらそれはできません。
必ず、引渡し前に診断業者へ相談して依頼しておきましょう。ちなみに、引渡し前ならば、売買契約の後であっても大丈夫です。
フラット35の適合証明書とは別物
住宅購入時に聞く機会のある適合証明書には、2つの書類があります。1つは、ここで取り上げている耐震基準適合証明書で、もう1つはフラット35の適合証明書です。
フラット35のものは、その融資(住宅ローン)を受けるために必要な書類であり、住宅ローン控除等とは関係ありません。この2つの書類は全くの別物ですから、両方が必要なら別々に手配しておく必要があります。
入居の翌年に確定申告が必要
住宅ローン控除は耐震基準適合証明書を取得するだけで自動的に適用されるわけではありません。必ず、入居した年の翌年に確定申告で必要書類を添付の上で申請しなければなりません。
税務署で確定申告する際に丁寧に教えて頂くことができるので、不安があれば、税務署に相談してもよいでしょう。
ちなみに、住宅ローン控除を受ける期間中、毎年、確定申告が必要なわけではありません。給与所得者、つまり会社員であれば、会社にて年末調整をすることで控除されるようになるので楽です。
対象となる建物
耐震基準適合証明書が必要な建物について確認しておきましょう。これを確認する上で2022年(令和4年)度の税制改正の理解は重要です。
1981年(昭和56年)以前に建築された住宅
2022年(令和4年)度の税制改正により、1982年(昭和57年)1月1日以降に建築された住宅であれば、耐震基準適合証明書や既存住宅売買瑕疵保険の保険付保証明書がなくても住宅ローン減税を受けられることになりました。
これにより、耐震基準適合証明書が必要な建物は、1981年(昭和56年)以前に建築された住宅ということになりました。
耐震基準に適合する可能性が低い
1981年(昭和56年)以前に建築された住宅は、その当時の耐震基準が現行のものより低いために、耐震診断をしても一定の耐震基準に適合する可能性は非常に低いです。
過去に、耐震診断を行った上で耐震設計・耐震改修(補強)工事を行っている住宅であれば、適合する可能性はあるものの、これら(耐震診断から改修工事まで)を適切に実施している必要があります。
且つ、建物の劣化があまり進行していないことも大事です。
しかし、こういった条件を満たしている古い住宅はごく一部に限られるため、耐震診断を依頼しても適合する可能性が非常に低いわけです。
ちなみに、耐震診断は木造住宅に対応したものであることが多く、木造以外の構造である場合、耐震基準適合証明書を取得することが難しくなります。
耐震基準適合証明書の依頼から発行までの流れ
ここまでの記事内容で、耐震基準適合証明書を取得することが現実的に困難であることが分かったと思いますが、それでも念のために、この証明書を取得する流れを基本的な流れと、耐震診断で基準で不適合になってしまった場合の流れにわけて解説します。
基本的な流れ
耐震基準適合証明書を取得するための基本的な流れを解説します。取得したい全ての人が、この流れにそって進めてください。
- 耐震診断を実施することを売主へ申し入れ
- 売主から耐力壁の位置等を確認できる設計図を入手
- その設計図で耐震診断を実施可能か診断業者に相談
- 診断業者に依頼と日程調整
- 現地調査を実施
- 耐震診断の報告書受領と適否の確認
- 耐震基準適合証明書を発行してもらう(適合の場合)
以上が依頼から適合証明書発行までの主な流れです。耐力壁の位置等を確認できる設計図がなくて進められない中古住宅も多いです。また、この対応を住宅の引渡し前にしておく必要があります(売買契約の前後は問いません)。
耐震基準が不適合だった場合の対応
耐震診断を実施した結果、残念ながら耐震基準に不適合という結果であった場合、耐震補強工事をすることで適合させられる可能性や手間、難易度について診断業者に相談し、場合によっては耐震改修業者(工務店)に工事の相談をするとよいでしょう。
耐震補強・改修工事を引渡し後に実施する場合でも、耐震基準適合証明書を発行してもらって、住宅ローン控除を受けられることはあるので、診断業者に相談してみましょう(現実的に困難な場合も多い)。ただし、引渡し前に耐震診断をしておく必要がありますので、引渡し前に診断していなければ、後から適合証明書を取得することはできません。詳しくは次をお読みください。
1981年(昭和56年)以前に建築された住宅の耐震性は非常に低いことが多いため、耐震改修工事を行うことを前提として、耐震基準適合証明書の取得を目指すのは簡単ではありません。工事費も数百万円単位で必要になることが多いと予想されます。
耐震補強・改修工事後の発行を目指す流れ
- 現地調査の後、不適合と判定
- 耐震基準適合証明仮申請書を提出
- 住宅の引渡し
- 耐震補強・改修工事のプランニング・工事見積りの取得
- 耐震補強・改修工事
- 現地調査(耐震診断)
- 耐震基準適合証明書を発行
上の流れのうち、耐震補強・改修工事のプランニング・工事見積りの取得は住宅の引渡し前でもよいでしょう。
特に重要なポイントは、住宅の引渡し前に耐震基準適合証明仮申請書を提出しておくことです。この順序が逆になると減税等が認められません。また、工事内容によっては工事中の調査も必要なケースがあるため、結果的に複数回の現地調査を伴うこともあります。
ここまで、耐震基準適合証明書について多くのことを書いていますが、これに関連する情報は以下の記事でも確認できますので、必要に応じて読んでおくとよいでしょう。
実際に耐震診断を依頼するなら、「一戸建て木造住宅の耐震診断」を見ておきましょう。
購入判断の参考になる中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)と一緒に利用することで、手間を減らすことや、費用負担を抑えられるメリットもあるので、一緒に考えるとよいでしょう。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。