建売住宅の寿命

新築の建売住宅を買うとき、将来の人生設計まで考えた場合に本当に建売でよいのかと迷う人は多いです。また、建売として分譲された住宅が中古住宅として販売されているものを見て、すぐに寿命が来るのではないかと心配する人も多いです。

建売住宅の寿命が長くないとのイメージがまだまだ根強いということでしょう。そして、建売より注文建築の方がよいのではないかと考える人も少なくありません。

建売住宅がよいか注文建築がよいかの議論は、ここではしませんが、建物の寿命に関して誤解したまま建売を避ける人がいるのは機会損失になるのではないかと思い、建売住宅の寿命について解説しますので、住宅購入時の参考にしてください。

建売住宅とは?

建売住宅とは、事業主が、企画・建築・販売する分譲住宅のことです。実際には、間取りプランの設計や建築、販売の業務の一部や全てを外部へ委託するケースも多いですが、事業主が資金を出して分譲します。

消費者が、建物の仕様や間取りなどのプランを決める注文建築とはよく対比されています。

建売住宅の基礎知識を得たい人は、「建売住宅購入の注意点と基礎知識」を参考にしてください。

建売の寿命

建売住宅の寿命は、20~30年だとする意見が多いです。一方で最近の住宅はもっと長く30年以上でも大丈夫だとする意見も増えてきています。根拠に乏しい意見やそもそも根拠が間違っている意見もあり、判断しづらいところではないでしょうか。

ここでは、実際の建売の寿命について解説します。

耐用年数は関係ない

木造住宅の耐用年数は22年とされているから、寿命も20~25年とか、30年と言われることもあります。これが正しい意見でしょうか?

確かに建物には、財務省(旧大蔵省)の昭和40年大蔵省令第15号による法定耐用年数というものがあります。この耐用年数は建物の構造種別によって異なりますが、一戸建て住宅でよく見られる構造に絞って耐用年数を挙げると以下のとおりです。

構造耐用年数
木造・合成樹脂造のもの22年
軽量鉄骨造27年
鉄骨造(重量鉄骨造34年
鉄筋コンクリート造47年

※用途が住宅ではなく事務所や旅館等の場合、同じ構造であっても耐用年数が異なります。上は用途が住宅に限ったものです。

しかし、この耐用年数とは、その建物がいつまでもつか、どのくらいの期間使えるかを規定しているわけではありません。いろいろな情報を見ていると、耐用年数とはその資産を使用できる期間だと書いているケースもありますが、実際にこの期間を超えて使えないというわけではありません。

この耐用年数とは固定資産(=建物など様々なものがある)を減価償却するときの計算に使用するもの、つまり税務上のものです。よって、この耐用年数を建物の寿命、建売住宅の寿命の参考とするのは的外れです。

基本構造部の仕様が大事

建物の寿命に大きな影響を与えることの1つが、基本構造部の仕様です。基本構造部のなかでも、基礎、土台、柱、梁などの構造耐力上主要な部分の仕様レベルが、法律上の必要最低限のものか、もしくはプラスαのあるものかによって、建物の耐震性・耐久性が違ってきます(建物の形状等によるバランスなどの要素も関係する)。

建物がもともと有する耐震性や耐久性の違いは、寿命との関連性が高いです。

新築時の施工品質が大事

次に、建物の寿命に大きな影響を与えることは、新築時の施工品質です。せっかく基本構造部の仕様が高くても、手抜き工事で施工不良が多ければ、その建物本来の耐震性や耐久性を発揮できないからです。この点において安心感を得るために便利なのが、第三者の専門家による建築中の住宅検査や完成時のホームインスペクション(住宅診断)です。

適切なメンテナンスが大事

建物の寿命を考える上でさらに大事なことは、適切なメンテナンスを行うことです。特に、風雨や日光にさらされている建物の外部(屋根・外壁・バルコニー等)については、定期的にメンテナンスすることを考えるべきです。屋根材や外壁材の塗り替え、張替えなどもそうですが、外壁のコーキングのやり替えも大事です。

屋根や外壁、バルコニーは、雨漏りの原因箇所になりうる部位ですが、適切なメンテナンスをしていないと雨漏りが起こり、見えない壁内や屋根裏などで構造部分を腐食・劣化させてしまい、結果的に建物の寿命を縮めてしまうのです。

建売は何年もつか?(寿命は何年か?)

それでは、建売住宅は何年もつのでしょうか?寿命は何年か?ということですね。

上に挙げた基本構造部の仕様が最近の住宅における一般的なもので、新築時の施工品質がよく、さらに適切なメンテナンスを継続的に行っておれば、40年以上はあると言っても過言ではありません。メンテナンス次第ではもっと長期間の寿命を期待することもできます。

ただし、途中で大きな地震によるダメージを受けたときや、雨漏り等の事故が起こったときの対応を誤った時には状況が変わってきます。

また、どの状態をもつと考えるかは、人によって大きな違いがあります。極端な話ですが、一見、ボロボロで住めそうにないと思っても、問題ないと考えて住み続ける人もいます。ですから、実は建物の寿命を論じるには限界があります。

確実に言えることは、適切なメンテナンスにはそれなりにお金がかかるということです。分譲マンションなら、半ば強制的に修繕するための資金を積み立てていく形になりますが、一戸建てでは自分で計画を立てて積み立てていかなければなりませんので、購入後は注意を払ってください。

アネストの住宅インスペクション

注文建築は建売より寿命が長いか?

以前は、建売住宅に占める粗雑な作りの建物の割合が高い時期もありました。そういった住宅と、大手ハウスメーカーが建築する注文建築を比較すれば、注文建築の寿命の方が長いと言えます。しかし、昔から丁寧に、良い仕様で建築される建売住宅は多く存在していますし、今でも同じです。

最近では、建売住宅を大量に供給するパワービルダーと呼ばれる企業もあり、仕様レベルは以前からある大手ハウスメーカーに及ばないものの、安価で新築住宅を供給することで、消費者の高い支持を得ています。

こういったパワービルダーの建売住宅では、適切なメンテナンスを継続していくことで、長持ちさせることも可能です。もちろん、小さな工務店・不動産会社が建築・分譲する住宅でも同様のことが言えます。

※参照:パワービルダーの建売を買うならホームインスペクション

注文建築の住宅であっても、施工が酷くて、築浅の時点で小さくない問題を抱えているものもあれば、メンテナンスをしていないために寿命を縮めているものもあります。

注文建築が建売住宅より寿命が長いというのは、必ずしも当てはまらないですし、個々にみていくと間違っていることも多いです。

このコラムは、読者の皆さんに建売を強く勧める意図で書いているわけではありません。誤った先入観や情報を基にして安易に建売よりも注文建築がよいと考えてしまうことのないように注意してもらい、1つ1つの住宅をよく見て、自分で考えて判断してほしいと思って書いています。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。