マイホームを購入して住み続けるなかで、建物のいろいろな部位の様々な事象に気付くことがあります。たとえば、「基礎にひび割れができているけど大丈夫だろうか」「壁に何箇所かひび割れがあるけど構造的に問題ないだろうか」「床下点検口を開けてみたら湿気を感じる」などという具合です。
住宅は、完成時にしっかり検査していたとしても、その後ずっと永遠に問題が起こらないとは限らず、経年による劣化や隠れていて診断できなかった箇所に起因する不具合が、徐々に顕在化してくることもあるので、購入後も点検して、問題があれば早めに対処していくことが大事です。
早めに補修等のメンテナンスをしておく方が、長い目で見れば費用負担を抑えられることは多いため、住まいの管理・維持修繕については早期発見・早期対応を基本方針としておきましょう。
住宅を良質な状態で長持ちさせるために大事な点検ですが、その住宅を建築した建築業者や売主が行うものや、住宅所有者が自ら行うもの、無料の点検業者が行うものなど、いろいろなものがあります。ここでは、住まいに関する点検の種類を解説した上で、住宅オーナーが注意すべき点について解説します。
住宅点検の種類
住宅の点検には多くの種類があるため、そのうち代表的なものを挙げて、それぞれについて解説します。ここで紹介するのは以下の4つです。
- 建築業者・売主の定期点検(半年・1年・2年など)
- 長期優良住宅の定期点検
- 訪問営業リフォーム業者の無料点検
- 第三者の専門家(ホームインスペクター)の住宅点検
それぞれの点検は、実施する人(会社)の立場が異なります。また、この4点以外に、知識や経験がなくとも、たまに所有者が自分で点検するという人もいるでしょう(意外とこれも大事です)。
以降では、上の4つの点検について、詳細を解説していきます。
建築業者・売主の定期点検(半年・1年・2年など)
ここで紹介する建築業者・売主の定期点検とは、対象の住宅を建築した建築業者(ハウスメーカーを含む)や売主(建売住宅であった場合)が、その住宅の引き渡し後、予め決めていたタイミングで点検を行うものです。これは、建築・分譲した企業としてやるべき点検と言いかえてもよいでしょう。
点検の時期
多くの場合、引き渡し後、半年・1年・2年・5年・10年くらいの時期に定期点検することが多いです。
その実施時期は、新築したときの請負契約書(建売住宅なら売買契約書)か、保証書、アフターサービス基準書などの書面に記載されていることが多いので、確認してください。
費用
新築した建築業者や売主が自社物件に対して行う点検は、基本的に無料であることが多いです。ただし、一部の業者で有料としているケースもあるので、費用などの条件面を書面で確認してください。有料である場合、調査範囲がどこまでか事前に説明を求めてください。
5万円以上する場合は、後述の第三者の専門家(ホームインスペクション業者)とかわらないので、第三者性を優先してもよいかもしれません。
誰が行うか
新築した建築業者や売主の点検は、その建築業者などの従業員が来て実施することが多いですが、一部では、外部の点検業者に委託していることもあります。
点検する範囲は、その外部委託業者との契約によって取り決めており、その範囲を超える点検を所有者が依頼することができなかったり、できても別途費用となることがあります。
点検時期に連絡がない業者に要注意
契約書などで定期点検の時期を記しているにもかかわらず、その時期になっても点検日を調整する打診が全くないと困っている人もいます。
中小・零細規模の不動産会社や建築業者(工務店)は、過去のお客様の顧客管理をきちんとしていないことも多く、住宅所有者から申し出があれば対応するものの、自社からは何も言ってこないというケースは少なくありません。
連絡がないときは、遠慮せず、自ら定期点検の時期なので点検してほしいと要望を出しましょう。
点検依頼をすると、断られたという話も聞きます。書面で点検すると言いつつ、守ってくれないときは、しっかり交渉してください。
定期点検をしない業者にはもっと注意が必要
一部の不動産会社や建築業者では、全く定期的な点検をしない業者もあります。点検自体は、法律などで義務化されているわけではないので、法的な問題はありませんが、自社が建築または販売した住宅であるにも関わらず、全く点検しないというのは、意識の低さとか倫理的な面で心配になりますね。
それでも、契約書などで定めていないだけで、「所有者から要望があればいつでも点検しますよ」というスタンスの業者もあるので、書面で確認できないからといって諦めず、聞いてみるとよいでしょう。業者によっては、むしろフットワークがよくてすぐに点検に来てもらえることもあります。
ただし、そこで点検を断られるような業者であれば、心配すべきです。できる範囲だけでも自分自身で点検するか、後述する第三者の専門家(ホームインスペクター)の住宅点検の利用を考えてみてください。
長期優良住宅の定期点検
長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で住宅を使用するための措置をとっている住宅として、国交省の認定を受けた住宅のことです。この認定を受けるかどうかは任意、つまり義務ではないため、該当しない住宅も非常に多いです。
点検の時期
長期優良住宅の認定を受けている住宅である場合、少なとも10年に一度以上は点検が必要だとされており、多くの場合、5年・10年・15年・20年のように5年毎に設定している住宅が多いようです(点検項目によっては、2年や3年もある)。
誰が行うか
長期優良住宅の点検は、実は誰が実施しても構いません。多くの場合、建築した建築業者が行っていますが、所有者が自ら行っても構いませんし、無関係の業者に依頼しても問題ありません。ただし、誰が行うかによって費用が異なることも考慮して判断してください。
費用
点検を誰が行うかによって費用が異なりますので、実施する者にわけて紹介します。
点検者 | 費用(料金) |
---|---|
自分 | 無料 |
新築した業者 | 無償であることが多いが、有償の場合もある |
第三者の専門家 | 5~13万円(依頼する調査範囲による) |
毎回、第三者の専門家に依頼する必要性は高くないので、最初の5年目か10年目に依頼して、他のタイミングは自分か新築業者の点検でもよいでしょう。また、期間をあけて30年目には第三者の専門家に依頼するのもよいでしょう。
訪問営業リフォーム業者の無料点検
住宅所有者から頼んでもいないのに、突然やってきたリフォーム業者から「無料で家の点検をしますが、いかがですか?」と言われることがあります。また、「近所の工事で来ていたのですが、たまたま屋根を見たら割れているので雨漏りしますよ。直しませんか?」と言われることもあります。
トラブルが多いので要注意
これは、いわゆる訪問営業(または訪問販売とも言う)のリフォーム業者ですが、以下のようなことで消費者とトラブルになっているケースが多く、注意が必要です。
- 不要な工事の提案
- 法外な金額の工事費用の請求
- 実際にはやっていない工事費の請求
- 欠陥工事
ここでは、訪問営業の業者と紹介しましたが、電話営業もあるようですので、同じように注意してください。この問題は、消費者庁のHPや各自治体のHPなどでも注意喚起されており、行政などの相談窓口に被害者が相談していることも多いです。
訪問営業にあったときの対策
訪問営業や電話営業をする業者の全てが悪質とは言えないので、決めつけることはできませんが、営業を受けた業者に補修工事などを発注しなければならないとは限りませんので、そういった状況に遭遇した場合、自分で探したリフォーム業者にも点検してもらうか、第三者の専門家に依頼して診てもらうとよい対策になります。
無料で点検するということは、何か狙いがあるだろうというくらいのことは、すぐに察知して警戒心を持つことが大事ですね。
費用・時期
無料点検業者の飛び込み営業ですから、点検自体で費用請求されることはあまりありませんし、実施時期もその営業のタイミングで急に行われることが多いです。そして、追加の点検は後日にまた訪問するということもあるようです。
第三者の専門家(ホームインスペクター)の住宅点検
住宅を良質な状態で長持ちさせるために、適切な点検とメンテナンスが必要だと考える人が増えており、自分自身で点検するには建築に関する専門知識や経験が無く適切に判断できないという状況から、第三者の専門家(ホームインスペクター)に料金を支払ってでも点検してもらいたいというニーズが高まりつつあります。
ここでは、どういうときに、どのようなきっかけで依頼する人がいるのか紹介します。
建築業者・売主の定期点検への不信感・信頼性の問題
対象の住宅を建てた建築業者や売主が行う定期的な点検は必要なものですが、第三者性という点で不安があるので、第三者の専門家、つまりホームインスペクション業者に依頼して診てもらったという話はよくあります。
たとえば、以下のようなケースがあります。
補修の必要性の見解の相違
売主もしくはその委託先の点検業者が床下へ潜って調査した結果、床下で基礎のひび割れが見つかったが、特に問題ないものなので、補修対応はしないと説明を受けたものの、本当に補修しなくてよいのだろうかと不安になり、第三者の専門家に診断してもらったところ、構造クラックであり補修を推奨するという結果が出た。
点検範囲の問題
定期点検日に現地確認にきた建築業者が、そもそも床下も屋根裏も潜って確認しなかったので、一度は詳しい人も見てもらいたいと思い、第三者の専門家に診断してもらったところ、床下の奥で断熱材が落ちたり垂れ下がっていたりした。
建築業者と第三者の見解が同じだった
点検に来た建築業者に、室内の壁や天井にあるひび割れが不安だと伝えたら、「よくあることで問題ない」と言われたが心配だったので、第三者に診断してもらったところ、建築業者と概ね同じ見解で「構造耐力に今すぐ問題がある症状ではない。これ以上、大きく増えるようならば詳細調査を検討すればよい」とアドバイスを受けた。
以上の3つはよくある事例です。
個々の建物におけるいろいろな症状を確認・診断して結果を出すことなので、3つ目の事例(室内の壁や天井にあるひび割れ)についての見解やアドバイスは調査結果次第で変わることがありますが、いずれにしても第三者の点検サービスを利用してみると、建築業者や売主の結果と第三者の結果が異なることも、同じこともあるということです。
建築業者などは、自らの施工不具合を見つけたときに、正直に住宅所有者に報告してくれるかどうかという点において、利害関係者になるため、100%信頼することが難しいのも事実です。
建築業者・売主の倒産
住宅の建物では、その建築業者または売主が、建物の基本構造部分(構造耐力上の主要な部分と雨漏りを防止する部分)については引渡しから10年間の保証が義務付けられています。しかし、その10年を経過する前の段階で建築業者などが倒産した場合、定期点検はなくなりますし、不具合を見つけた時に相談することもできなくなります。
当然、それは住宅所有者にとっては不安材料になりますし、一度は早めにしっかり点検しておきたいと考える人も多いです。そこで、第三者の専門家による点検(ホームインスペクション)を依頼するわけです。
住宅の10年保証切れの前の点検
住宅の建物に引き渡しから10年間の保証義務があることは前述のとおりですが、その保証期間が切れた後は、建物の基本構造部分に瑕疵(施工不具合など)が見つかっても建築業者などに無償で対応してもらうことができなくなります。
そこで、その保証が切れる前の段階で、第三者の専門家に診てもらいたいというニーズは高いです。大事な構造耐力に関わる点まで保証が切れますので、1つのきっかけにはなりますね。
また、自分自身で気づいた心配な点を建築業者へ指摘または相談しても、「それは許容範囲で、構造的に問題ないので、保証対象外だ」と説明されたが、不安になったので依頼したいという声もあります。このタイミングで10年を過ぎると怖いですよね。
長期優良住宅の定期点検
長期優良住宅の認定を受けた住宅では、前述のとおり、5年・10年などの定期点検のタイミングで建築業者や自分以外の立場で診てもらいたいというニーズは少なくありません。特に、新築住宅を購入するタイミングで、専門家のホームインスペクションを依頼していない人の間で、このタイミングでの利用があります。
それまでに、床下や屋根裏の内部まで点検していない人は、同時にそういったスペースの奥まで(検査員が進入できる範囲まで)調査依頼する人も多いです。
訪問営業リフォーム業者・無料点検業者の怪しさ
訪問営業で、住宅の無料点検をきっかけとして、多くの補修工事・リフォーム工事を提案された結果、その業者を信用してよいか不安になって、第三者に依頼する人も多いです。最初は信用していたものの、2度目、3度目と繰り返し追加の補修工事を提案され、請求金額が増えていく過程で心配になって依頼した人もいます。
こういった無料点検業者の営業行為(一部では詐欺の疑いがあるような行為もある)は、全く何の問題もない建物の補修まで提案するケースが何度も確認されているので、注意してください。無料ではなく、格安で点検するというケースでも同じような事例が確認されているので、注意しましょう。
費用
第三者の専門家に依頼して点検してもらう場合、その費用は業者や建物規模、所在地、依頼する業務範囲によって小さくない差異があります。目安としては、5万円~15万円くらいです。
幅が大きいのは、建物規模と依頼する範囲(オプションサービスの利用有無)によって差異が大きいためです。
誰が行うか
依頼者が選んで依頼したホームインスペクション業者が行います。業者によって、資格・経験などの違いがありうるので、慎重に選びましょう。資格としては、建築士(できれば一級建築士)が必須で、住宅の設計・監理、現場管理、住宅診断の経験がある人がベストです。
資格と経験がしっかりしている人で、調査範囲、調査報告書も安心できる業者なら、格安で提供することは難しいので、間違っても安さを重視しすぎないことです。
以上、住宅の所有者が知っておきたい住まいの点検の基礎知識として、点検の種類・実施する業者・時期・費用と注意点について解説しました。これからも長く暮らしていく住宅だからこそ、適切な時期に適切な立場の人による点検をして、必要なメンテナンス(修繕・補修工事など)をしていくよう心掛けてください。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。